261.治癒魔法は雄弁に語る⑬反撃、あるいは意趣返し-4
「宝箱とミミックについては、レッドのほうが詳しいわよ。あれでも冒険者だもの。ダンジョンで宝箱を開けるのが仕事だったのだから」
わたしは矢継ぎ早の質問に順番に答えながら、さりげなく話題を誘導しておいた。
これで五人とも、レッドに会っても宝箱とミミックの話しかしなくなるだろう。奴隷としての生活や経験について、興味本位で尋ねることはなくなるはずだ。
「盗賊なのか!?」
驚いたようなジーン君。
この村では、普通は人間の冒険者は村の中には入れない。
そのため、村人が冒険者や、冒険者が連れている奴隷と話す機会は限られるのだろう。
「そうよ。本人はミミックを見分けられると言っているわ」
「すげーな……」
それだけで少年は感嘆する。
「シーフは珍しいの?」
「ちゃんとしたジョブを持っている奴隷は珍しいよ。ヒト族の冒険者が連れている奴隷は、たいがい荷物持ちとか飯炊きとかの雑用係だ」
わたしは、レッドの評価が改まったことで、少し気分を良くして言った。
「治癒魔法が見たい?」
「うん!」
じっとこちらを見ていたマルコ君が、目を輝かせて大きくうなずいた。
さっきも、最初に治癒魔法のことを言い始めたのはマルコ君だった。
聞くところによれば、彼らは治癒魔法を見たことがないのだという。
大怪我を負った者は、その場でポーションを使って治すか、エルフ村から治癒術者に往診に来てもらうのだそうだ。
軽い怪我なら自力で治すのが当たり前であり、自分自身が大怪我をしない限り、治癒魔法を間近で見る機会は訪れない。
獣人傭兵の一団にも、基本的に魔法使いはいない。
魔法に頼らない戦い方をし、魔法に頼らない回復をモットーとしているため、団員でも治癒魔法を経験したことのある戦士は少ない。
というのはジーン君の談である。
獣人族の戦士には、他人に回復ポーションを強請るような軟弱な者はいない──というのは、ノアさんたちから聞いていた。
ダンジョンでは、そのモットーにずいぶんと心を救われたものだった。
けれど戦士ではない村人も、使ってもせいぜいが薬草程度。少し贅沢をしたところで、下位ポーション。それ以下の軽傷なら“舐めて治す”を地で行く種族のようだった。
(レッドが治癒魔法を望まないのは、獣人族の習性でもあったのかな……?)
レッドは、わたしに対して自分から治癒魔法やポーションの類を望んだことは一度もない。
今までは、護衛として働いてもらう機会があっても、ほとんどが軽傷で済んでいた。
採取依頼で入るような、浅い森に出る魔物は弱い。攻撃手段を持たないわたしにとっては強敵だけれど、ダンジョンに出入りできる程度の冒険者にとっては、敵ではない。
たまに、森の中層部の危険地帯に入ってしまったときや、お継母様に雇われた暗殺者が送り込まれてきたときには深手を負うことがあったけれど、レッドは一度も弱音を吐いたことはない。
むしろ、いつも治癒魔法を掛けようとしているわたしのほうが、お節介をしているような構図になっていた。
おそらくは獣人族の習性に加え、奴隷として受けてきた仕打ちが、自分は治療を施されるに値しない存在だと思い込ませているのかもしれない。
(あのときだって……)
馬車が襲われたときも、レッドは自分の脚が切り落とされた瞬間にさえ、わたしを逃がすことを優先していた。
レッドは決して自分から治療を要求することはなかったけれど、それでいて、わたしが治癒魔法を掛けずにはいないことを、絶対的に信じてくれていた。
(でなきゃ、あんな戦法は取れない……)
自分の身を犠牲にして、敵の油断を誘う──あの戦い方は、馬鹿で泥臭くて、痛々しいだけだ。
(そこまでして奇を衒わなければ、勝てない相手だったのだろうけれど……)
そんな戦いを強いてしまったのは、ほかの誰でもないわたしなのだ。
思い出して少し悲しくなった。
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