258.治癒魔法は雄弁に語る⑩反撃、あるいは意趣返し-1
だからわたしは、はっきりと言った。
「レッドはわたしの従者よ。パーティーの契約奴隷ではないわ」
「でも首輪……」
ミラノちゃんが言い募る。
「奴隷身分であることは確かね。けれど、彼はわたしが買い上げて、正式な従者になることが決まっているの」
わたしが決めた。
だから、あなたたちから“奴隷風情”と侮られる筋合いはないのよ。
両親に守られ、友人に恵まれ、平和な村の中で差別もされず、温々と育ったあなたたちには言われたくない。
そんな思いが、薄らと態度に出てしまったかもしれない。やや言い方が冷たくなってしまった。
田舎の子供でも、奴隷とそれ以外では“それ以外”のほうが立場・身分が上であることくらいは理解している。
であるなら、レッドを“従者”であると宣言することは、単純な奴隷とは違うものだと印象づけることになる。
ただし、前提として“従者を持つのは地位や身分のある者だけ”という現実が横たわっている。
これを無視してしまうと、いくら“従者”であると言い募ったところで、ただの“自称”であり“ごっこ遊び”で終わってしまう。
(大人相手なら“ごっこ遊び”と思われても構わないけれど……)
大人に対しては、こんな小さな見栄を張ったところで、たいして得られるものはない。
本当に相手を圧倒できるような、確固とした身分なり偉業なりがない限り、大人は驚いてはくれない。
けれど年齢の近い者同士ならば、ほんの少しの牽制でも、身を守るのには役に立つ。
わたしが寄宿学校の中で学んだ知恵の一つだ。
一度侮られれば、延々と嫌がらせを受ける羽目になる。
(──生家のメイドが相手でも、同年代の冒険者が相手でも、それは同じ)
最低限の牽制でも、するのとしないのとでは階段で突き飛ばされる確率が変わってくる。
人間にとっては、亜人種の種族など、どれも大差ないと思われているだろうけれど、亜人種の中にも奴隷の中にも、明確な格差がある。
稀少であり、古来からの特性を強く残している種族──例えばエルフ族や妖精族、鬼人族や神獣族、竜人族─などは普通の獣人族よりは格が高いとされている。
主たる基準が稀少度なので、亜人種間で言う“格”と、人間が奴隷化した後の売買価格はほぼ比例する。
つまり、獣人族のこの子たちに対しては、わたしがハーフエルフであるという事実が多少なりともモノを言うのだ。
エルフやハーフエルフは、出自によっては従者を従えていても不自然ではない風潮がある。
あるはずなのだ。
亜種族の文化を記した数少ない書物には、小人族の主従が長い旅をしたときの話が残っていた。
亜人種といえど、奴隷以外の者は人里離れた村や山で秩序立った生活を送っている。統率する者とそれ以外のような役割分担をして暮らしているのだ。
(この村だって、統率者とそれ以外に分かれているのだし)
族長が小姓や従士のような者を連れていたところで、誰も不思議には思わないだろう。
同様に族長の奥方が、小間使いや侍女に当たる者を従えていたとしても、おかしくはない。
それと似たようなものである。
どこの部族でも、主筋とそれ以外というのは厳然として存在するのだ。
その上で、あえて“今はまだ奴隷だけれど、いずれ奴隷身分から解放する予定”という、持って回った言い方をすることでさらに信憑性が増す。
最初から正規の従者を従える者なら、素性を隠して人間の冒険者と旅をしているわけがない。
だから、こちらからワケありだと匂わせておけば、相手が勝手に真実だと思い込んでくれる。
(子供相手に、我ながら姑息な手段だと思うけれど……)
そうしてまで優位性を保ちたいと思ってしまったのは、目の前の少年少女から、寄宿学校の級友たちと同じ雰囲気を感じてしまったからだった。
実際に嫌がらせのために手を汚すことはしないけれど、対象を自分たちより下の存在と見定め、遠巻きに眺めては密かに優越感に浸る者たちのそれだった。
拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
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