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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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257.治癒魔法は雄弁に語る⑨保存魔法-2

 おれたちでも保存肉を調理できる──ですって!?

 それは、魔法を(たしな)む者からすれば、驚きの言葉だった。


 時空魔法で時間を止めた物体は、解除魔法を掛けない限り、元の状態には戻らない。

 時間が止まっている物体には、干渉できないはずなのだ。


 魔法が掛かった肉を火で炙ったところで、魔法が維持されている限り、焦げ目がつくことはない。

 普通なら、直火で数分間も炙ればこんがり美味しく焼き上がる肉でも、強固な時間停止が付与されていれば、その数分という時間経過(・・・・)を受け付けなくなる。

 いくら待っても肉は焼けず、業を煮やして生のまま食べたとしても、恐らくは消化されないだろう。

 胃や腸で分解されるまでの時間経過(・・・・)を受け付けないのだ。


 魔法を解除するか、持続効果がなくまで待つか、とにかく魔法の効果がなくならない限りは、肉を調理することは不可能なはずだった。


(──保存魔法を解除するためのアイテムでもあるのかしら?)

 持続効果をもたらす魔道具(マジックアイテム)は、作るのが難しかったか、諸事情でこの村には卸していなかったのだとしても、解除魔法一回分が込められた使い捨てアイテムなら、存在するのかもしれない。


「あなたたち、魔法は使えないでしょう? どうやって保存魔法を解除しているの──?」

 魔力が少なくても、魔法が苦手でも何とかなるような、それでいて安価なアイテムがあるのだろうか。


 けれどロック君の答えは、色々な意味で驚かされるものだった。

「どうやって、って──外に持って行って、かち割るのさ」

「かち割る?」

「言ったでしょ、シアン様は氷魔法が得意なのよ!」

 と、ティアナちゃん。


「まさか、三か月もの間、ずっと凍らせているの……!?」

 自然の雪や氷の中に埋め、凍らせて保存するという方法は、北方の山岳地帯で行われている伝統的な保存方法だと、本で読んだことはあるけれど。

 それを魔法で行える人物がいるとは、信じられなかった。


「そうだよ。で、使うときは氷を割れば魔法が解けて、新鮮な生肉に戻る」

「わ、割れるの?」


 魔法でできた氷は、自然にできた氷よりも硬いというのが定説だ。

 魔法使いのレベルによって、その硬度は変わる。

 人の手で割ることが出来る程度の氷なら、決して高レベルな魔法使いが作り出したものではない。

 初級魔法使いの低レベルな氷魔法では、実戦で使ったところで、すぐに破壊されてしまって敵の足止めにもならないのだ。

 その程度の実力では、三か月間も凍ったままを維持することはできない。

 おかしい。


「あたしたちには無理だけど、力自慢の大人が斧でぶっ叩けば割れるわね」

 割れるのかと聞かれて、ちょっと悔しそうなティアナちゃんがそう答えた。

「ああ。ときどき、傭兵団の先輩も駆り出されてるな」

「少しでもヒビが入れば、そこから魔法が解けていくんだよ」

「そのときに出た小さい欠片なんかは、そのまま鍋に入れて調理しちゃうしね」


 そんなわけで、保存肉を使う日程に合わせて、いちいちエルフ村から人を呼んで魔法を解除してもらって──という面倒な手順を踏む必要がなくなったのだそうだ。


 やっぱりおかしい。

 三ヶ月間も解けない氷を作り出せる魔法使いの氷が、斧で叩いたくらいで割れるわけがないのだ。

 氷の──というか魔法で作り出す物体の強度は、基本的には魔法使い自身のレベルに比例する。

(意図して強度と持続期間を調整しているの──!?)

 だとしたら、シアン青年は恐ろしく高度な魔法を扱えるということになる。

「……“シアン様”って、凄いわね」

 わたしはティアナちゃんに対して、そう相槌を打つことしかできなかった。


 *


 そうこうしているうちに、ミラノちゃんが戻ってきた。

 一人だ。

「あら、レッドは?」

 わたしはミラノちゃんに問いかけた。

「あの子、あっちで傭兵団のおっちゃんたちと盛り上がってるから来ないわよ」

 ほら見なさい。大丈夫だったでしょう?

 わたしは内心、自分の判断が正しかったことに優越感を抱きつつ、ミラノちゃんに言葉をかけた。

 

「悪いわね。せっかく呼びに行ってくれたのに」

「いいわよ。本人が来ないって言うなら仕方ないわ」 

 

「ミラ、振られちゃった?」

 ティアナちゃんが、一人で戻ってきたミラノちゃんを揶揄(からか)う。

「振られてないわよ! そういうのじゃないんだから!」


「君が呼べば来るんじゃないか?」

 不意にそう言ったのはジーン君だ。

 その言葉には、奴隷なんだから命令すれば言うことを聞くだろう? という含みが感じられた。

「そうね。彼、奴隷の首輪をしているものね」

 ミラノちゃんも、似たようなニュアンスで同調する。


「パーティーで所有している奴隷なら、君にも命令権があるんだろう?」

「本当に、命令したら何でも言うこと聞くの?」

「パーティーに奴隷がいるって、どんな感じ?」

「彼、なんで奴隷になったの?」

「冒険者パーティーの奴隷ってさ、どんな仕事してるの? やっぱ荷物持ちとか雑用?」


 それを機に、各人から矢継ぎ早に問われた。

 なんというか、子供らしく好奇心のままに生きているという感じだ。

 最初はレッドと同じくらいの年齢かと思ったけれど、実はもっと幼いのかもしれない。


(いいえ、違うわ。レッドが大人びているだけね──)

 奴隷の世界は厳しいのだ。

 いつまでも子供でいたら、搾取されるだけの存在になる。


 さっきまで憧れの青年の話をしていた少年少女は、今度は奴隷になった同族(レッド)に対して興味が()いたらしい。

 歳が近いこともあって、余計に気になったのだろう。

 少年少女の態度は無邪気だけれど、とても不躾に感じられた。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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