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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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255/288

255.治癒魔法は雄弁に語る⑦手紙

 話に聞く限り“シアン様”は、かなりの好青年のようだった。

 氷魔法を得意とする有能な魔法使い。

 老若男女に人気で、子供ともよく遊んでくれる優しいお兄さん。

 そんな印象を受ける。

 その上、エルフ顔の美形となれば、()(はや)されるのも当然だろう。


 しかし、一人のエルフがそこまで人気になるということは、シアン青年以外のエルフ族は、よほど愛想が悪いのだろうか。

(愛想が悪いっていうか……排他的なのかしら?)

 めったに村から出てこないと言っていたし、もしかしたら、とても警戒心の強い種族で、隠れ里のようなところでひっそりと暮らしているのかもしれない。


(シアンは……大丈夫だったかしら……?)

 わたしは、ダンジョンで会った小さいシアン(・・・・・・)のことを思い出した。

 真正のエルフ族ではあるけれど、奴隷上がりの“余所者”であるシアンは、排他的な者たちに囲まれて、つらい思いをしなかっただろうか。

 奴隷狩りに捕まるような愚か者は、部族の恥だとでも言っていじめられたりしなかっただろうか。

 友達はできただろうか。

 ご飯はちゃんと食べているだろうか。


 ダンジョンでのシアンの泣き顔が思い出された。

(あの子は、声を上げずに泣くのだから……)

 わたしはずっと、シアンは幸せに暮らしているのだと信じていた。

 同族の多い土地に行けば幸せになれるのだと、無邪気にも信じていたのだ。

 エルフ族の村が、余所者を忌避する可能性を、全く考えていなかった。


「でさ、シアンさんが使う保存魔法が、今までの奴とは全然違う魔法でさ!」

 ジーン君たちの話は続いていた。

 今度はロック君が中心で話している。

 保存魔法は気になるけれど、エルフ村に行ったシアンのことも気になる。

(ああ……どうして手紙くらい出してあげなかったんだろう……)

 自分の愚かさを悔やむけれど、どうしてと問うなら、あの頃の自分はお金に余裕がなかったからに他ならない。


 郵便馬車に手紙を託すのは、とてもお金がかかるのだ。

 郵便馬車を利用するには、専用の便箋と封筒(レターセット)に、専用の封蝋(シーリングスタンプ)が必要になる。

 送料以外にも、そういった専用品を販売することで、安全な輸送にかかるコストを賄っているのだ。

 馴染みの商人や、冒険者ギルドに依頼するよりも早くて確実だけれど、その分、どうしても割高になる。


 その上、一般的なレターセットさえ持っていなかったわたしは、手紙を出そうと思ったなら、まずはそれら一式を購入するところから始めなければならなかった。

(──だって、わたしには手紙のやり取りをする相手なんていなかったもの)


 多くの貴族令嬢が集めているような、美しい柄の便箋や、意匠を凝らしたシーリングスタンプなどには縁がなかった。

 色とりどりのシーリングワックスに、飾り文字が書ける特別なペン先をしたペン。香り付きのインクや、金箔のようにキラキラとした粒子が入ったインク。


 そういった雑貨に憧れたこともあったけれど、わたしにとって、それらは必要ないものだった。

 お店で見かけることがあっても、毎回、見て見ぬ振りをして通り過ぎた。


 第一、郵便馬車は亜人種の村へは立ち寄らないのだ。

 シアンに手紙を出したかったら、ノアさんやジャックさんなどの、亜人種村に入れる種族に頼むしかないのだけれど、彼らもそう頻繁に村へと帰っているわけではない。


 シアンを送り届けた後も、長居はせずに王都へ戻ったそうである。

 そもそもノアさんたちは、出稼ぎのために冒険者をしていたのだから、帰郷している期間は収入がなくなってしまう。

 それでも、手紙を届けてほしいと頼めば、彼らは快く引き受けてくれただろう。

 もしくは獣人ギルドを通して、最適な人材を探して依頼してくれたかもしれない。

(依頼料を、わたしに黙って立て替えて……ね)


 だからこそ、シアンのことであまり無理を言えなかった。

 ただでさえ、一人の子供を保護するという厄介事を押し付けてしまっているのだから。

 とどのつまり、手紙を出す機会を逸したまま、今日(こんにち)に至ってしまったというわけだった。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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