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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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253.治癒魔法は雄弁に語る⑤束の間の休息

 このまま時間が経てば、本題に入る前にお開きになるだろう。

 でもそうすると、この村に来た当時のシアンの様子を聞くことができない。

(それはちょっと残念かも……)


 そういえばモントレーさんが、シアンのことも含めて話があると言っていたような気がしたけれど、どうなったのだろう?

(お祭り──じゃなかった、宴の準備で忙しかったみたいだし、明日また尋ねてみたらいいわよね)


 いただいたお肉をちまちまと食べつつ、考えにふけっている間にも、獣人の子たちの話は勝手に進んでいた。

「ところで、一緒に来た猫族獣人の男の子はどこ行ったの?」

 いつの間にか、シアンの話からレッドの話に移っていた。ミラノちゃんは、レッド姿がこの場にいないことを気にしている様子だった。


 レッドは契約奴隷の首輪を身に着けている。

 隠すつもりもないので、奴隷身分であることが丸わかりだ。

(奴隷にされている同族に興味でもあるのかしら?)

 それとも単に、同族が奴隷にされている事実に憤りを感じている……とか?


(でも、レッドが奴隷身分なのは最初からだし、わたしに文句を言われても困るのだけれど……)

 そんなことを考えつつ、わたしは串焼きを焼いているかまどの辺りを指差した。

「レッドなら、あそこの串焼きコーナーで酔っ払いに囲まれているわ」


 あー、と納得したような声をもらすティアナちゃん。

「泣く子と酔っ払いには勝てない」

 ついでに妙な格言を生み出した。

 どうにもこの子の性格は読めない。


「助けに行かないの?」

 とはミラノちゃん。レッドのことを心配してくれているのだろうか?

「大丈夫よ。レッドはあれでも、酷い酔っ払いのあしらいには慣れているから」

「冷たいのね」


 そういうわけではないのだけれど……。

 だってあれは、友好的な酔っ払いだ。

 レッドとしては、荒くれ者の集団である本職の盗賊に比べれば、はるかに御しやすい種類の酔っ払いであろう。 

 ギルド酒場や、酒場近くの路上で管を巻いている連中とは違うし、亜人種族を下に見て揶揄(からか)ってくる輩とも違う。

 普通の野ウサギと、魔物の一種であるツノアカウサギくらいには違うのだ。


 前にレッドは言っていた。

 盗賊団にいたころは、酒の席での余興代わりに、よくサンドバッグにされていた、と。

 数人に取り囲まれて、ボール遊びでもするように蹴り続けられたり、拳闘士ごっこと称して顔とか腹を殴られたり、なんてことはザラだったのだそうだ。

 どれも酔っ払いの一撃だから致命傷にはならないけれど、そんな手酷い暴行に比べれば、ねちねちと難癖をつけられたり、胸ぐらをつかんで凄まれる程度は、大したことではないのだと。


 だから、わたしは心配する必要はないと判断した。

 抜け出したければ、自力で抜け出してくるだろう。

 けれど、ミラノちゃんは違う考えのようだった。

 というか、そんなわたしの態度が気に入らないようだった。

「あたし、ちょっと行って連れ出してくる!」

 ミラノちゃんは立ち上がって、颯爽とテーブルを離れた。

「あ、ありがとう?」

 ここはお礼を言うべきところなのか、どうなのか、いまいちよくわからない。

 でも酔っ払いの群の中からレッドを救い出してくれるというのだから、一応お礼を言っておく。


「ミラはあの子(レッド)に興味があるのよ」

 ティアナちゃんはそう言うけれど、男の子たちは特に関心がなさそうだった。

 例の四人組を打ちのめした武勇伝(ということになっているらしい)は、子供たちの間には、まだ伝わっていないようである。

 伝わっていれば、村の中の“ちょっとしたヒーロー”を、子供たちが放ってはおくはずがない。

 きっと、人狼族のおじさんたちと同じように、取り囲んで質問攻めにしていたはずである。

 

 そもそも酔っ払いといっても、彼らにとっては近所のよく知った大人である。危険がないことはわかりきっているから、ジーン君もロック君も、何も気にしていない。運が悪かったね、と苦笑する程度だ。

 マルコ君とティアナちゃんでさえ、心配した様子は見受けられない。

(それなら、ミラノちゃんは……?)

 彼女だけが、酔っ払いの群からレッドを救うために立ち上がった。

(ミラノちゃんが言う通り、わたしが冷たいのかしら……?)


 友人が絡まれていたら、助けに行くのが普通なのかもしれない。

(でも……レッドが自力で対処できる物事に、わたしが出しゃばったら、気を悪くするかもしれないし……)

 ただでさえ、普段から自分は奴隷であることを自覚して、わたし(主人)を立てようとしてくれるのだ。

(言動はあれだけれど)


 彼なりに精一杯、自分の本分を果たそうと努力しているのに、わたしが余計な真似をすれば(助け船を出せば)、主人に手間をかけさせる役立たずであることを、肯定する結果になってしまう。

 それは恐らく、レッドのプライドを傷つける。


(ミラノちゃんなら大丈夫でしょうけれど……)

 知らない子──それも同族ならば、へそを曲げるようなこともないはずだ。

(同族の女の子に声をかけられて、レッドも嬉しいかもしれないしね)

 レッドはこの村にいる間くらい、役目を忘れて気楽に過ごしたらいいのだ。


 王都のアトリエで過ごしていたときと違い、旅に出てからは四六時中、わたしという主人の面倒を見て、護衛もしなければならないのだ。

 いい加減、息も詰まるし、気疲れもするだろう。


 亜人種村の中ならば、大きな危険はない。

 人間(ヒト族)の刺客は、目立つから入り込むことはできない。

 馬車強盗のときのように、野盗の襲撃に見せかけるにしても、獣人族の傭兵団が拠点にしている村なのだ。簡単には落とせない。

 王都のように、人混みに紛れて……というわけにはいかないから、常に警戒する必要はない。

 今はリオンもクロスも一緒なのだ。万が一のときには、きっと助けになってくれる。

 何らかの方法で、少しでもレッドに休息を与えてあげられたらな、とわたしは考えていた。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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