247.宴会⑰(メインディッシュ)
ふと、先ほどからウランさんが、お酒とお摘まみ程度のものしか口にしていないことに気がついた。
「ウランさん、お料理召し上がらないんですか?」
「ん?」
「ひょっとして、お酒のほうがお好きですか」
酒豪にはそういう人もいる。
「ああ、酒も好きだが、今ここでガッツリ食べたら、メインが入らないだろう?」
「え?」
すでに結構な種類のお料理をいただいているけれど、まだ何か出てくるのだろうか。
(ていうか、今までのが前菜?)
一般的な定食の量に換算すると、一人に対して五食分くらいは供されている。
基本的に大皿からの取り分けになるから、それらを全て食べ切る必要はないのだけれど、量的にはそれくらいある。テーブルの上は常にいっぱいだ。
わたしとしては、お花のように飾られた分が前菜で、それ以外のボリューミーなお料理がメインなのだと思っていた。
大衆酒場の宴会料理みたいに、大皿で出されたり、小皿や小鉢に入った副菜のような料理が次々と追加されていくから、そういう形式なのだと勝手に思い込んでいた。
なにしろ、獣人族の宴会の形式なんて知らない。
晩餐会や会食の席での正式なマナーは、寄宿学校で一通り学んだけれど、今それは全く役に立たない。
「何言ってるんだ、主食はこれからだぞ?」
ウランさんは当然のように言った。
(どうしよう。お腹いっぱいで、もう食べられないかも)
エルフ族と、その血が流れているハーフエルフは小食な者が多いという。でも、わたしはエルフの血とは関係なく、おそらく満足に食べられなかった期間が長いせいで、少量で満足できる体質になってしまっている。
レッドのような獣人族と違って、食べられるときに大量に食べておくということができないのだ。
ヒト族の女性に比べれば、確実に小食だと思う。
それでも、少々発育不良なことを除けば、特に健康上の問題がなかったのは、お祖母様にいただいた恩寵のお陰なのかもしれない。
風邪を引いたこともなければ、栄養失調になったこともない。
傷んだものを食べても、雑草や虫を食べても、食当たりを起こしたことはなかった。
毒が入っているとわかっているものを口にしても、最初の一回を除き、死にそうな目に遭ったことはない。
ただ一つだけ試したことがないのは、食べ過ぎたらどうなるか──ということだけである。
今まで、食べ切れないほどの料理を目の前にする機会に、恵まれたことはない。
(これは一度、体験しておくべきなの……かしら?)
ちらりと横のレッドを見るけれど、人狼族の酔っ払いを適当にあしらいながら食事することに必死で、意見は期待できそうになかった。
向かいのヒト族の男性陣は、この後にメインディッシュが来たところで、全く問題なさそうである。
経験したことのない贅沢な悩みに困惑していると、庭先からマイアさんがやってきて、メインの食材が調理できた旨をウランさんに告げた。
しばらくマイアさんの姿を見ていないと思ったら、庭での調理を担当していたようだ。
「よし! 行くか」
ウランさんがお酒の入ったグラスを持ったまま立ち上がる。
わたしも促され、一緒に庭のほうへ向かう。グラスは持たない。
テンカの実のジュースは美味しかったけれど、あれを飲んだら急に満腹感が増して何も食べられなくなってしまったのだ。
隣のテーブルでも、がたがたと人狼族の男性たちが立ち上がり、ついでにレッドをうながして庭へ出る。
レッドは大柄な獣人族に囲まれて、困ったようにこちらを見た。
別に危険はなさそうなので、笑って手を振っておいた。
「自由に好きな物を食べてらっしゃい」
わたしはウランさんと一緒に庭に出た。後ろをリオンとクロスがグラスを持ったまま付いてくる。
「どうしてみんな、グラスを持ったまま外に出るの?」
「ガーデンパーティーでも、だいたいグラスを持ったまま移動するだろう?」
「酒が出るからに決まっている。グラスは必要だ」
順番にわたし、リオン、クロスの台詞である。
リオンはただの習慣のようなものであり、クロスは理由があってのことらしかった。
「貴族の立食パーティーではないんだ。給仕が歩き回って飲み物を勧めてくれると思うなよ。自分の分は自分で確保するのが庶民の流儀だ。獣人族でも同じだろう」
クロスの言葉に納得しつつ、わたしはお酒を飲むつもりはないから、手ぶらでいいかなと思った。
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