240.宴会⑩(出稼ぎと日雇い)
「そんなわけで、ヴェルメイリオ卿の依頼は全部、うちか、近隣の獣人傭兵部隊で請け負っている」
畑と狩りだけでは食っていけないからな、と自嘲気味のウランさん。
身体能力の高い獣人族の集落に於いては、傭兵としての出稼ぎは主な収入源の一つである。
冒険者になる道もあるけれど、冒険者としてギルドに登録を許されることと、依頼を受けて稼げるかどうかは別である。
だから、家族のために手っ取り早く稼ぎたい者は傭兵となるのだという。
ウランさんの説明に、わたしは深くうなずいた。
冒険者登録はしたものの、満足に依頼を受けられなくて、干上がることなんて当たり前にある。
亜人種の中でも、獣人族は特徴を隠しにくい者が多いから、亜人種(獣人)というだけで嫌われて、依頼を回してもらえないこともあるだろう。
わたしも、亜人種に見えないように偽装していなければ、薬草採取の依頼でさえまともに受けられかたどうか、わからない。
依頼通りに採取してきたところで、亜人種の触ったものなんか買い取れるか! と撥ね付けられることもあり得るのだ。
ノアさんもジャックさんも、割のいい依頼は全部、人間が持って行くと言っていた。
(だから自分たちで“獣人ギルド”を立ち上げたのだ、とも……)
実力者である二人でさえ、時にはひどい依頼に当たってダンジョンで置き去りにされるのだ。
仕送りどころか、自分たちが食べていくだけで精一杯という事態になるのが目に見えている以上、まだ支払いがしっかりしている傭兵の仕事のほうがマシなのだろう。
例外は、あの四人組のように外の世界に夢を見ている、世間知らずの若者だけだ。
冒険者という生き方に憧れている者は多いけれど、その実態は、ただの日雇い労働者と変わらない。冒険者の半数以上がそんなものだろう。
物乞いにも犯罪者にもなれなかった者が、食べていくために選ぶ仕事だ。
(かく言うわたしもその一人なのだけれど……)
たまたま、恩寵の右目のおかげで薬草採取は得意だったから、採取依頼だけはこなせたし、魔法薬の調合もそれなりにできた。生活魔法を駆使してFランクの雑用依頼を掛け持ちすることもできた。
(炊事洗濯の代行依頼なら、新米冒険者の三倍はこなせるもの!)
貴族の屋敷では、メイドより格下の下働きのやる仕事だけれど、それで食いつないだことは密かな誇りだ。
生活魔法チートがなければ、お姉さんたちのように春を売るしかなかったかもしれない。
せめて中級冒険者にならなければ、まともな生活なんてできやしない。
それでも冒険者には、一攫千金の可能性があるから、誰もが夢を持つ──持ってしまう。
運良く、ダンジョンで宝箱を見つけることができたなら。
運良く、高価な素材が手に入ったなら。
そんな夢想が、夢想のまま終わらなかったことが実際にあるから。
ダンジョンから採取・採掘される物資や、魔物から得られる素材が貴重な収入源となっているこの国だから、実力さえあれば食べて行くには困らない。
もしも上級冒険者にまで上り詰めることができたなら、身分の垣根を超えることさえ可能になる。
けれど中級冒険者は、上級に昇格したくて足掻くものの、稼ぐことよりも生き残ることの難しさを知ってしまったがために、人外魔境と噂される辺境の地での依頼など、よほど食い詰めない限りは受けない。
そして上級冒険者は、依頼内容に旨味を感じないため、辺境のような片田舎へは行きたがらない。
レベル上げをするにしても、わざわざ荒野を越えてまで不毛な土地へ赴く必要はない。
レベル上げをしたければ、近場のダンジョンを周回すればいいだけの話だ。
ダンジョンは、潜る階層によって難易度が変わる。すなわち、冒険者のレベルに合わせた安全な探索が可能であり、不測の事態が起きない限りは転移装置を使って日帰りもできる。
何日も荒野で砂埃にまみれながら、サンドワームと連戦する必要はないのだ。
「早い話、辺境では傭兵が冒険者の代わりのようなものだな。獣人傭兵は人間の傭兵と違って、冒険者並みに魔物を狩るぞ」
出稼ぎなしではやっていけない貧乏集落だ、と自嘲しながらも、ウランさんは仲間の武勇伝を誇らしげに語った。
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