236.宴会⑥(ユージュ)
「なんだ? ユージュのことが気になるのか?」
ウランさんが、ニヤニヤと意味あり気な笑みを浮かべて聞いてくる。
「あ、いえ……ジャックさんが泣くほど会いたがっていたので、どんな人なのかな……と」
「浮世離れしてるっていうのは、会えば一目でわかるだろうさ。目立つ容姿をしているから」
「はあ……」
結局よくわからない。
「案外、アリアなら仲良くなれるかもしれないな」
ウランさんは何の根拠があるのか、軽く言う。
でもまあ、お世話になったジャックさんの息子さんなのだから、仲が悪くなるよりは、仲良くなれたほうがいいのだろう。
しかし“目立つ容姿”ってどんなだろう? などと思っていると、ウランさんは話題を変えるように別の話をし始めた。
「ユージュは父親よりは母親似だよ。それだけは確か!
ところでアリアは“吟遊師団”って知ってるかい?」
「ぎんゆうしだん?」
吟遊詩人なのか戦闘集団なのかよくわからない名前である。
「歌って踊れる吟遊詩人のグループの名前だよ。たぶん、この先のオアシス町か街道沿いの町のどれかで、ステージをやってると思うから、機会があったら見てみるといいよ」
「えーと……あ、はい」
脈絡がなさすぎて、なんとなく返事をしてしまう。
(この近くの観光名物をお勧めしてくれたのかしら?)
残念だけれど、ゆっくり観光している余裕はないと思う。
馬車強盗の一件からこちら、すでに通常の旅程からは送れている。わたしが寄り道してステージを見てみたいと思っても、護衛を兼ねたパーティーメンバーであるリオンとクロスが、先を急ぐ選択をするのならば従わざるを得ない。
と思っていたのだけれど、斜向かいのリオンが口を挟んだ。
「へえ、それは面白そうだね。公演場所の情報とかはないのかな?」
「ないな。風の向くまま気の向くまま、ってやつさ」
ウランさんが簡潔に答える。
リオンは鶏肉の香草焼きが気に入ったらしくて、何度目かのおかわりを頼んでいるところだった。
香草焼き自体は珍しくもない料理だけれど、新鮮な肉、完成された香草のブレンド、絶妙な焼き加減──と三拍子揃っていることは珍しいらしい。
クロスは特に好みはないらしく、リオンと似たようなものを頼んでは食べている。
本人曰く、自分は味の許容量が広すぎるため、どうせなら正しく美味いものを食べられるように、リオンを参考にしているらしい。
心なしか、いつもよりワインのグラスが空くスピードが早い。
二人とも、食べ方が美しかった。
寄宿学校の食堂で見た、居並ぶ両家の子女たちの食事風景にも似ている。
(貴族家の出身というのは本当なのね……)
ギルドの酒場や食堂で見かける冒険者たちとは、比べるべくもない。
庶民の安食堂では、木製のフォークやスプーンがせいぜいだから、扱いに作法と呼べるようなものはない。
けれど、ここにはお客用として、貴重な金属のカトラリーが用意されている。テーブルマナーの有無は、周囲との明確な差として表れていた。
二人の周辺だけ、高位貴族の晩餐会の一角である、と言われても不思議ではないほど上品な雰囲気が漂っている。
なんというか、作法が自然で上品なのだ。
──リオンの手元で切り分けられているのは、特に高級でも何でもない地鶏の香草焼きなのだけれど。
(なぜかお料理が高級そうに見えるわ……)
少し遠くに目をやると、下座に位置する場所には村人たちの和気藹々とした席が設けられていて、すでに軽く酔いの回った人々がいる。
(あっちも楽しそうね……)
特にモントレーさんのいる辺りが騒がしい。
が、どう見ても“安くて美味い”が宣伝文句の、庶民の大衆酒場の風景である。
「どうしたって、いくつかの村と町を経由しないとアレスニーアには着かないから、途中で見れたらラッキーだよね」
言いながらリオンは、隣のクロスに「探してみようか?」と問いかける。
「寄り道している暇があるのか?」
クロスは気が進まない様子だった。
「のんびりしていて、アリアの祖父さんが死んだらどうする」
副音声で“さっさと揉め事を片付けて、アリアを魔法学園に編入させるぞ”と聞こえた。──たぶん、気のせいよね。
そうだ。
お祖父様の様子を──というか、辺境の様子をウランさんたちに訊ねようと思っていたのだ。
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