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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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234.宴会④(いいえ“しきたり”です)

 それは小川で捕れる川魚で……と説明しかけたエルさんと、隣のテーブルにいた犬耳おじさんたちの声が被った。

「あんちゃん、一人であの四人とやり合ったって本当かい?」

「ちっこいくせに、なかなかやるじゃァねえか!」 

「冒険者か? うちの傭兵団に来いよ、歓迎するぜ!」

 獣人族のおじさんたちは、ほろ酔いなのか機嫌良くこちらに絡んできた。主にレッドに。

「ちっこい言うな! 誰だ今“ちっこい”って言()った奴!!」

 レッドも慣れた様子で──というか、むしろ生き生きとした調子で言い返す。

 食べかけた小魚のカラアゲを振り回し、隣のテーブルを向いて威勢よく言い放つけれど、すぐに食事に向き直る。

 酔っ払いのウザ絡みに構うより、食欲のほうが優先されたらしい。


 ピンと立った犬耳のおじさんたちは、陽気で話し好きなだけで、別に悪い人たちではなさそうだった。

 レッドは何度も話しかけられて、その度に食事の手を止めなければならなかったので、やや迷惑そうにはしていたものの、同族であり好意的でもある彼らに対して、悪い感情を抱いている様子はない。適宜、話し相手になってやっていた。

 ギルドの食堂で人間の冒険者に絡まれるのとは、ワケが違うのだ。ぞんざいな口のきき方をしたところで“獣人風情が!”と逆ギレされる心配もない。

 そんなものだから、酔っ払いのあしらいも楽なものだった。


(犬耳……で、合っているかしら?)

 似たような立ち耳をした犬系の種族に、人狼族という種族がある。

 犬族と狐族も似たような立ち耳をしているけれど、それらの二種族は、比べて見ればすぐにわかる。

 イザークさんとモントレーさんは、どうみても犬と狐という風貌だった。


 が、隣のテーブルに陣取る壮年の男たちは、どちらかというと犬族よりも、人狼族であるジャックさんと雰囲気が似ていた。

(もしかしたら、人狼族かもしれないわね)

 獣人族の種族には詳しくないので、上手く見分けることができない。


 聞いた話では、人狼族というのは戦闘に秀でた種族であり、犬族よりも力が強く、集団の中ではリーダー的な地位に就くことが多いのだという。

 腕っぷしの強さを序列の判断基準にしている、獣人族らしい話ではある。


 つまり、隣のテーブル──わたしたちと同じような上座に儲けられた、少し上等な料理が優先的に運ばれてくる席──に着いているということは、村の中では族長たち(ノアさんとウランさん)に次ぐ地位にいるということだ。

 隣のテーブルにいるのが、戦闘職の犬科獣人であるなら、人狼族である可能性が高い。

(犬族扱いしたら、怒られそうね)

 虎人族のウランさんもそうだけれど、ここの獣人族は皆、自身の種族に誇りを持っている。


 自己肯定感が低く、人間(ヒト族)と比べて劣った種族なのだと卑下するのは、都市部で生活する獣人や、奴隷にされている獣人特有なのだろう。

 周囲の環境が、そうさせるのだ。


(こちらが肉食獣代表で、あちらが草食獣代表とか……そんな感じかしら?)

 反対隣のテーブルには、やはりテーブルクロスが掛かった上席が儲けられている。

 ただし、こちら側より圧倒的に料理と魚料理の品数が少なく、ほとんど立食パーティーのサラダコーナーのような状態である。

 明らかに見た目が菜食主義者っぽい種族が集まっていて、静かに談笑しながら野菜料理をつついていた。

(あっ、あの野菜スープ美味しそう……!)


 偶蹄(ぐうてい)族、兎人族、馬頭(めず)族──だろうか、立派な角をした鹿の人と羊の人、兎耳の人と馬面の人が集まっていて、(なご)やかな雰囲気を醸し出していた。

 こちらには女性もいるけれど、全体的に年齢層が高いので、やはり村の顔役的な地位の人たちなのかもしれない。どことなく、学校長やギルドのベテラン職員のような貫禄を感じる。

 ちなみに、人狼族らしき男性たちのテーブルは、ただの陽気な酔っ払いの集まりである。

(貫禄はどこ……?)


 レッドが隣のテーブルのおじさんたちに囲まれているので、先ほどのわたしの質問──村の“しきたり”について、エルさんが答えてくれた。

「別に“しきたり”ってわけじゃあないんだけど、そうさねぇ……」

 エルさんは“しきたり”ではないと言いながら、適当な代わりの言葉が見つからないのか、言い(よど)んだ。

「もう“しきたり”でいわよ、エル」

 ミーナさんが来て、言いながらお茶を注いでくれる。

「とにかく、そういう決まりなのさ」

 ミーナさんが言うので、エルさんはすぐに適当な言葉を探すことを諦めた。


「特に冒険者になりたい子は、絶対にノア族長の許可が必要なの。傭兵団のほうは、団員が面倒を見るからもう少し基準が緩いらしいけど……」

 わたしは、淹れ立ての温かいお茶をもらってお礼を言いながら、ミーナさんの話を聞く。


「私たちにとっては保険(・・)のようなものなの。ちゃんと認められてから出立したのなら、万が一、奴隷狩りに捕まっても村の傭兵団が動いてくれる。

 奴隷狩りに狙われても、振り切って逃げられるだけの力があると見極められたからこそ、独り立ちを許されるのよ。それなのに捕まったのだとしたら、相手がよっぽど強いか、狡猾だったということだもの」

「子供を送り出す親も、そのほうが安心ってもんだからさ、いつの間にかそういう風習になったんだよ」

「ノア族長が留守のときは、ジャック副団長や幹部の何人かが対戦相手になっているわ」

 ミーナさんは、言いながらチラリと隣のテーブルを見る。

 どうやらノアさんは、族長と傭兵団の団長を兼任しているらしい。

 そして隣のテーブルの男性たちは、やはり戦闘職の獣人のようだった。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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