232.宴会②(テンカの実)
「それにね、混ぜる果汁の種類によって色が変わるのよ。きれいな青にするためには、柑橘系の果物の中でも、特に酸味が強いものを使うのがポイントね」
幼生スライムを捕まえるのは、村の子供たちの仕事らしい。
お駄賃に美味しいゼリーを作ってもらえるから、と喜んで探してきてくれるそうだ。
わたしも探し方と捕まえ方を教わりたい……。
子供たちにできるのなら、わたしにもできそうだ。
もう一つ目を引いたのは、テンカという瓜科の果物だった。
わたしは細かく飾り切りされたそれが、テンカの実だとは気づかなくて、遠慮も容赦もなくたくさん食べてしまっていた。
好きな物ばかり続けて食べようとするなんて、子供みたいでお行儀が悪い──のだけれど、美味しかったのだから仕方がない。
(だって……)
わたしの知っているテンカの実と色が違っていたし、薄く飾り切りされた上に、皮にまで模様が彫り込まれていて、全く原型をとどめていなかったのだ。
彩りにベリーがあしらわれていて、その組み合わせがまた、わたしの知っているテンカの印象とかけ離れていたために、あの事件のことを全く思い出しもしなかったのだ。
宿屋の奥さんにテンカだと聞いて、驚いてしまった。
「テンカの実って、高価なのでは……?」
来客として歓待する気持ちを表してくれているのはわかる。
けれど、何種類もの飾り切りを作って、無造作にオードブルとして並べる果物ではなかったような気がする。
なにしろ、貴族邸でも“ちょっと洒落たデザート”として、仰々しく出される種類のものだったのだ。
カゴに盛り付け、卓の中央に飾り、高級食材を手に入れて振る舞える富や権力を、さりげなく自慢するためのアイテムである。
わたしが心配そうに言うと、
「やあねえ、高価なのは専門家が栽培してる品種だけよぉ!」
奥さんは面白い冗談でも聞いたように、ひらひらと手を振ってそう答えた。
「これはうちの畑で採れた普通の瓜。山ウリとか野テンカ、って呼んでる野生のテンカよ」
ふいにリオンとクロスのほうを見ると、二人とも何も気にした様子もなく、並んだものを摘まんでいる。
クロスはともかく、これが本当に貴族邸で供されるような高級テンカだったなら、リオンが気づかないはずがない。
珍しい高級果物が出されたことについて、気づかいにお礼を述べるか、そこから話題を広げるかして、何かしらの人集りになっているはずだ。
ちなみにレッドは、何でも気にせず食べるので、参考にならない。今も、テーブルに載っている物を全種類制覇しようと必死である。
「貴族様が召し上がるような高級テンカは、専門業者しか栽培することを許されてないわ。でもそれ以外の野テンカなら、その辺の畑でも取れるのよ。甘いのを見分けるのが、ちょっと大変だけどねぇ」
失敗すると、苦味のあるものに当たってお腹を壊してしまうらしい。
村の子供たちが、おやつ代わりに畑のテンカを勝手に取って食べてしまい、翌日から腹痛で寝込むなどは、よくあることだそうだ。
「苦いところは食べちゃ駄目、って言ってあるのにねぇ」
一個全体が毒に侵されているわけではないため、苦味のある部分を避けて、甘い部分だけ食べれば大丈夫だと思ってしまうようなのだが、子供は境目を上手く見極められずに失敗することが多いのだという。
「そもそも、勝手に畑のものを盗っちゃ駄目ですよね」
「そうよ、お客様用に残してあった分を食べられちゃった日には、もうッ……!」
栗鼠族の奥さんが、きーっと地団駄を踏んで悔しがった。
いい年のおばさんとはいえ、小柄な彼女がそんな仕草をするのは、なんだか可愛らしかった。
ヤンチャな悪ガキの話に移ると、聞きつけた別の女性が二人寄ってきて、道中でちょっかいを出してきた例の四人組の話を始めた。
「あの子たちも決して悪い子じゃないんだけど、」
「そうそう、近所の魔獣退治なんかは進んでやってくれるしね」
新たな女性たちの話によれば、彼らは子供のころから、よくテンカを盗み食いしてお腹を壊していた代表格らしい。
然もありなん。
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