227.本音と独白と心の秘密①
わたしが正しく伯爵令嬢として、フィレーナお母様の代わりに家を切り盛りできていたなら、イーリースお継母様の好きにはさせなかった。──などと言うことはできない。
わたしは、あの二人と対決することを避け、逃げたのだから。
寄宿学校に閉じ込められることを是とし、二人が何をしていようと、関心を持たずに過ごしてしまった。
対決した結果、勝てるか勝てないかではない。
最初から、抵抗して喚くこともせず、諦めたのだ。
諦めて、一人で生きることを選んだ。
たまに生家に戻る機会があっても、二人が何をしているか、調べようともしなかった。
そもそもヴェルメイリオ伯爵邸は、寄宿学校側に帰省時の住所として登録してあったから赴いただけで、実際はただの“敵地”である。
あの場所にわたしの味方は一人もいなかった。
顔見知りだったメイドも、わたしが寄宿学校に送られてから、急に仕事に来なくなったことで、勝手に辞めたかクビになったのだと思っているだろう。気安く話せる仲でもなかった。
(無責任な辞め方をしたくせに、今さら何をしに来たと思われるだけだもの……)
それに、ヴェルメイリオ家の関係者だとバレても面倒だ。
もともと寄宿学校での手続き上、一度は帰省して書類にサインをもらう必要があるから寄っただけで、長居するつもりは毛頭なかった。
(ヴェルメイリオ伯爵邸はわたしが生まれた場所ではあるけれど、今のわたしの“家”ではないもの……)
認識阻害や隠蔽の魔法を駆使すれば、人知れず屋敷を出ることは簡単だった。
──お父様から見放されず、わたしこそが愛される娘であったなら、シャーリーンとも違った関係を築けたかもしれない。
姉妹として、それなりに楽しく暮らせたかもしれない。
わたしは義姉として、シャーリーンから慕われ──はしなくても、もう少し平和的に過ごせたかもしれない。
そんなふうに思ったことも、最初のうちは何度かあった。
そして、その度に自分の考えを否定してきた。
“いいえ、あり得ないことだわ。わたしは、フィレーナお母様が存命だったころから、お父様に嫌われていたのだから”
せめて、わたしの目が普通の色だったら──。
魔力属性がなかったとしても、虹彩異色ではなく、普通の人間として見られる容姿であったなら──。
不思議なことだけれど、そう思ったことだけは一度もなかった。
無意識に、お祖母様が与えてくださった恩寵の力を感じ取っていたからかもしれない。
*
自罰的な思考も、繰り返すうちに飽きるものだと知ったのは、いつのことだっただろうか。
虐げられるのは、自分に悪いところがあったからだ。
わたしが、お父様に好かれる可愛い娘ではなかったから。
わたしが、お継母様と上手く折り合いをつけられなかったから。
わたしが、シャーリーンにとって都合良く、寛大な義姉になれなかったから。
そんなふうに考え、与えられた境遇を受け入れるには、わたしの精神はあまりにも丈夫で壊れにくく出来ていたようだった。
(心も、と言うべきかしら)
今思うと、おそらく恩寵の力は肉体的な面だけでなく、精神的な部分にも及んでいたのだ。
病気に罹ることがなくなり、見る間に怪我が治ってしまうような、肉体的な健康を維持する力の他に、精神的な健康も保ってくれていたのだろう。
泣き寝入りするべき場面ではない、とお祖母様の恩寵が“心の強さ”をくださったのだ。
その結果、なぜか冒険者になろうと思った。
あの二人のことは、いつの間にか考えるのも面倒になって、思考を放棄していた。
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