217.エルフになりたい㉘猫の後悔
さて、問題のレッドなのだけれど。
顔を上げて話すよう命じたためか、最初の一度はテーブルに額を叩きつけんばかりの勢いで頭を下げていたものの、その後はどうにか普通に話し始めた。
「オレ……取り返しのつかないことをした。損失は全部、オレに借金として付けてくれ……」
言いつけ通り顔を上げて話すものの、視線は合わせてくれないし、とても顔色が悪い。
「最悪……クビも覚悟してる……」
そう言った唇は震えていた。
うーん。クビってどっちの意味だろう。
荒事的な意味での首──頭部がお別れするという意味なのか、解雇で奴隷商会へ返品という意味なのか。意味がわからな過ぎて、わたしの意識はそこで止まっていた。
「アリアの生成した魔石……5000フロヮ以上もするなんて知らなくて……。オレ、2000フロヮでも高く売れたな、って調子に乗って……。何も考えてなくて……」
ああ、そういうことか。
やっと、得心がいった。
本当の価値を知らなかったから、安く売って損失を出してしまったことで、ちょっとしたパニックに陥っているのだ。
レッドは、商会にいたときに読み書き計算を一通り教わっているから、獣人奴隷にしては数字に強い。
なんでも、ダンジョンには暗号タイプの鍵もあって、そういうものを解くためには多少の教養も必要だったとか。
「〈大〉と〈中〉の魔石も……精錬魔石じゃなくて、普通の魔石として売っちまった……。オレを借金奴隷に落としたところで、すぐに返済できる額じゃねえけど……」
本当は5000フロヮ以上する魔石を、2000フロヮで売ってしまったら、最低でも一個につき3000フロヮの損失である。
レッドに預けてあった魔石〈小〉は、巾着に入っていた分だけでも五十個以上ある。
それ以外に定期的に渡していた分は、累計すれば百個を超える。
少なく見積もっても、レッドは45万フロヮの損失を出したことになる。
奴隷にとって45万フロヮと言えば、金貨や大金貨でやり取りするような額である。見たこともなければ、下手をすると本人の売買価格より高い。
自分が率先して取った行動で、主人にそれだけの損をさせたとなれば、狼狽えて真っ青になるのも仕方がない。
奴隷商会の契約奴隷が損失を出した場合の対応は、場合によるとしか言いようがないらしい。
損失を商会で肩代わりしても、別の場所で高額を稼ぎ出せるような奴隷は、何事もなかったように商会に置いてもらえるが、そうではない者は借金奴隷として別の場所に送られる。
本人を買い上げ奴隷として売っても損失を補填しきれないことが多いため、借金として背負わせた上で、効率よく稼げる場所に転属させるらしいのだ。
それがどこかは、公にはされていない。
噂によると、借金奴隷の中には人間も含まれているそうだけれど、わたしは町の中でそれらしき者を見かけたことがない。
目に付くのは、亜人種──獣人族の奴隷ばかりだった。
人間で犯罪奴隷になる者は、だいたいが都市から離れた炭鉱と、その近辺の村で関連業務に従事している。それ以外のヒト族の犯罪者は、犯罪奴隷ではない刑に処せられているようだ。
「ヒト族の奴隷は使い勝手が悪いんだと」
以前、レッドが言っていた。
「変に学があるから文句は多いし、こき使いたくても、弱えからすぐ潰れちまう、って」
「ねえ、レッド」
わたしは疑問に思ったので聞いてみた。
「借金奴隷になったら、どこへ行くの?」
砂漠や炭鉱ではないはずだ。あそこは過酷過ぎて、ひ弱な人間では耐えられないとわかっている。死んでもいいような重罪人しか送られない、というのが定説だ。
「は?」
一拍おいて、レッドが奇妙な声を上げた。
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