209.エルフになりたい⑳特別講義
特別講義だと言ったクロスは、部屋の隅から持ってきた灰皿に、二種類の魔石を入れてテーブルに置いた。
魔法を教えてもらえるとは聞いていたけれど、なぜ今から!? とレッドが目を白黒させていた。
わたしも同じく不思議には思ったけれど、講義だというからには何か有用な話が聞けるのだろうと、期待のほうが大きかった。
さすがに来客用だけあって、ほとんど使われた形跡のない清潔な灰皿に、わたしが生成した灰白色の魔石〈小〉と、もう一つそれによく似た白い魔石が入っていた。白い魔石はわたしの生成したものではないから、たぶんクロスの持ち物だろう。
「オレは魔法の基礎を教えてやるとは言ったがな、お前らは魔法以前の問題だ」
クロスは魔石が入った皿をレッドのほうへ押しやり、尋ねた。
「どちらがアリアの生成した魔石かわかるか?」
問われたレッドが、そんなの簡単な問題だとばかりに自信を持って答える。
「こっち」
レッドが指差したのは、真っ白ではない魔石のほう。少し灰色がかった魔石のほうだった。
「アリア、合っているか?」
こちらへ問いかけられたので、わたしは肯定して頷いた。
「レッド、今のはどうやって判断した? 両方とも無属性の魔石だ。属性では見分けられないはずだぞ」
「なんとなく!」
レッドがきっぱりと言い切った。
「落第」
その返答に、クロスがため息を吐いた。
「なんでだよ! 正解しただろっ!?」
いきなりの落第判定に抗議するレッド。
「判断の理由と根拠を述べろと言っているんだ」
「理由?」
いぶかしげに首をかしげるレッド。
なぜそんなことを訊かれるのかわからない、という顔だった。
「アリアは?」
クロスがこちらを向く。
「魔力の波長を見ればわかるわ。灰色がかった魔石は、見慣れたわたしの波長のもので、こんな感じ」
と、わたしは指先で波長の波の形を描いてみせる。
「白い魔石は、わたしのより波長の間隔が大きくて、これくらい」
こちらも、指先で波模様を描いてみせる。
「こちらも生成魔石だけれど、クロスが生成したものでもないわよね。クロスの魔力とは、色も波長も違うもの」
白い魔石の魔力波長は見覚えのないもので、わたしが知らない魔力だった。
「そこまでわかるか」
「魔物の体内から取り出した、天然物ではないはずよ。波長が整っていて、綺麗すぎるわ」
「その通りだ。これはオレの師匠が作ったものだ。アリアは、これに込められている魔力量がわかるか?」
「触ってもいい?」
魔石の入った灰皿がこちらへ回ってきたので、わたしは白い魔石をつまみ上げた。
手のひらに載せ、重さを量るように軽く転がす。
「正確にはわからないけれど……約2エナね。込められている魔力の量は、わたしの魔石より少ないわ。でも、純度が高くてとても綺麗」
ギルドの買い取りカウンターのように、魔力量を測定する魔道具を使わない限り、正確な数値は出せない。1.8エナ〜2.3エナだとしても、だいたい2エナと言うしかないのだ。
レッドが、わたしとクロスのやり取りを見てポカンとしていた。
魔法使いの端くれであるわたしが、魔力を読めることを知っているレッドも、実際にどのような読み方をしているかまでは知らなかったのだ。
わたしも、魔法使いではないレッドに話しても理解できないと思って、詳しく説明したことはなかった。
同じようにレッドも、鍵開けや罠解除のノウハウについて、詳しく語ることはない。
ポカンとしていたレッドが口を開いた。
「アリアは……見ただけで生成魔石かそうでないかが、わかるのか……?」
「ええ、だいたいね。レッドが狩ってきた魔物の魔石も、どこの森に生息している何の魔物か、知っているものなら判別できるわよ」
たいがいは狩ったらすぐに解体して売ってしまうけれど、持ち帰った魔石を見せて報告してくれた種類については、覚えている。
「すげーな……。オレは上物かそうでないか、くらいの区別しかできねえよ。金目の物かそうでないか、わかれば十分だったからな。親分連中は、もう少し細かい目利きができたかもしれねえけど……」
「レッドは、下っ端盗賊としてはそれで十分だ。だが、魔法使いの従者としては不合格だな」
「下っ端言うな」
クロスの言葉に条件反射で突っ込みながらも、レッドは気まずい顔をした。
この魔法使いは厳しいことを言うけれど、間違ったことを言っているわけでもない。図星を指されて居心地が悪いという表情だった。
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