206.エルフになりたい⑰商売上手
実験した結果、二倍〜二.五倍程度ではギルドや買い取り店で興味を示してもらえず、普通の魔石と変わらない買い取り価格だった。
たぶん、ツノウサギの個体差による誤差の範囲内として処理されたのだろう。
そこで三倍の魔力を込めたところ、上物として高く買い取ってもらえるようになった。
四倍以上の魔力を込めてしまうと、魔石の直径自体が大きくなってしまい、迂闊に売れない物体ができあがった。
そこで、わたしが日課として魔石を生成するときには、3エナジー分の魔力を込めることに決めた。
もちろん、あえて大きさや魔力量にバラつきを持たせることも忘れない。
これらの魔石を、暇をみてレッドに売りに行ってもらっている。
ただし、討伐依頼を受けられない冒険者のわたしや、自由度の少ない奴隷のレッドが、一度に大量の魔石を持ち込めば不審がられてしまう。
生成魔石だということがバレても拙い。
そのため、何か所かの店やギルドを回って、二〜三個にづつ分けて、奴隷の小遣い稼ぎや、低レベルの冒険者でも狩れる程度の数に抑えておく必要があった。
わたしが寄宿学校を抜け出せる日は、採取依頼を受けて一緒に郊外へ行くこともあるのだけれど、そうでない日のレッドは暇を持て余すことになってしまう。
アトリエの警備と言っても、部屋に常駐していなければならないわけでもないので、空いた時間は近くの小川まで釣りに行って、釣果で干物を作ったり、拾ってきた木で細工物や釣り道具などを作っていたようなのだ。
干物も木彫細工も、釣りに使う擬似餌や浮きも、少額だけれど売り物になる。
本人も、お金を貯めて自分の身分自身を買い戻すことを意識しているのか、内職や副業の類も積極的に行っていた。
わたしが一日中、薬の調合でアトリエから出ないことがわかっている日は、許可を取って朝から狩りに行き、日が暮れるまで戻らなかった。
レッドのような獣人族がやる狩りでは、罠を使わないために獲物を探して追うのに時間がかかる。空いた時間にちょっと行って、さくっと狩ってくるというわけにはいかないのだった。
一日かかっても、魔石が取れる魔獣や魔物を狩ることができたら、干物や木彫細工を売るよりもはるかに儲かる。
そして、本当に狩りで得た魔石と、わたしの生成魔石を一緒に売れば、さらに出所をわかり難くすることができるというわけだった。
レッドがそこまで考えて狩りに行っていたのかどうかはわからないけれど、わたしが自分で売りに行くよりも、よほど高く売り抜けて帰ってくる日が多かった。
なんでも、日頃から相場をチェックしていて、手持ちの魔石を全部一気に売ることはせず、相場が高い日に、取っておいた分をまとめて売ったりしているらしいのだ。
もちろん、どうして獣人奴隷風情がたくさんの魔石を持っているのか、疑われないためにも適当な言い訳は必要だけれど、そこを上手いこと言って誤魔化せるのが、レッドなのだった。
(シーフ職のスキル……なのかな?)
シーフはダンジョンで得たアイテム類を換金することもあるだろうから、そういう器用さも備えているのかもしれない。
上手くいった日は、アトリエのテーブルに銀貨を並べて、得意げな顔で報告をしてくる。
最初のころ、魔石に相場があること知らなかったわたしは、思わず聞き返したものだった。
「それ、何かの冗談?」
運良く高く売れたので、調子に乗って話を盛っているだけかと思っていた。
魔石の買い取り価格は、ギルドで一律に決められていて、品質に応じた額で売り買いされる。品質以外の条件で売買価格が変わるという話は聞いたことがない。
これは、わたしが無知なのではなくて、そういうふうに決まっているのだ。誰でも同じように言うと思う。
「アリアは知らねえかもしんねーけど、常連や得意客にはそういう情報が流れてくる。普通は上等な魔石を定期的に仕入れるなんてことできねえから、ほとんどの奴は知らねえはずだぜ」
魔石には相場があって、その日の討伐状況や在庫状況によって買い取り価格が変動するらしいのだ。一日に十個の魔石を売るのなら、やり方によっては、昼食一〜二回分くらいの差が出るという。
「レッドはどうして知っているの?」
「そ、それはその……」
さっきまでの得意気な様子は一転、もごもごと、ばつが悪そうに口ごもった。
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