205.エルフになりたい⑯魔石の値段
わたしは返事をして扉を開けた。
「クロス、もう時間なの?」
「いや、まだだが……さっきの魔力は何だったんだ?」
「これよ。魔石を生成していたの」
三個の魔石が入った巾着袋を、わたしは軽く掲げて見せた。
仮初めとはいえ、彼は師匠になる人だ。
魔石ビーズのことも知られてしまっているし、内職のことを話してもいいだろう。
クロスが袋を受け取って中身を改めた。
「これを今、生成したというのか? 三つとも」
「ええ」
まじまじと見つめられ、あからさまに疑いの目を向けられた。
「一つならまだしも、三ついうのは嘘だろう?」
「嘘じゃないわよ、失礼ね」
仮にも師匠になろうという人が、弟子にしようという人物を頭から疑ってかかるのはどうなのだ。
そこまで信用ならない者を弟子にするほど、あなたの目は節穴なのか、と逆にこちらが問いたい。
ならば証拠を見せようと、わたしは新たに魔石を一つ生成して見せた。
手の中の魔力の塊が、見る間に小さな石として形を取る。
クロスが驚いたように息を呑んだ。
けれど、三つという数も疑われていたので、さらに二つの魔石を作り出し、クロスに手渡した。
「ほら、嘘じゃないでしょう?」
ほんの三分ほどの出来事である。
「まさか、これほどとは……」
手渡された魔石を見たクロスは、そう言ったきり黙ってしまった。
「旅に出る前は、毎日十個の生成をノルマにしていたのよ。本当はもっと作れるけど、それ以上の数を作っても捌き切れないから」
「十個……」
「それで聞きたいのだけれど、これより大きな魔石を安全に売れる場所を知らないかしら? 大金になるから、迂闊には売れないってレッドが言うの」
頭を抱えたクロスが言った。
「魔力量の多い種族でも、この大きさの魔石を三個も生成するには、丸一日かかる。いくらエルフの血が入っているとはいえ……」
最後の言葉を飲み込んだ様子のクロスだったけれど、たぶん異常だとか化け物じみているということを言いたかったのだろう。
だからわたしは、あえて自分からその言葉を口にした。
「属性魔法は使えないけれど、魔力量だけは異常に多いから、こういう単純作業は得意なのよ」
「属性魔法は後で教えてやる。そう卑下したことを言うものじゃない」
「ありがとう。期待しているわね」
でもそうじゃなくて、わたしは魔石を換金できるお店の情報を聞きたいのだ。
「この魔石を売りたいのか?」
「ええ。あと、これより一回り大きいのと、二回り大きいのが何個かあるのだけれど」
「……」
クロスはしばらく難しい顔をして考えた後、「やめておけ」と一言、口にした。
「どうして? あの魔石ビーズと違って、これは正しい方法で作ったちゃんとした魔石よ。王都のギルドでも、高く買い取ってもらえたのだから」
なんだか、雲行きが怪しかった。
「この魔石の価値を正確に測れる人間が、市井にいるとは思えない」
「どういうこと?」
「これは限りなく精製魔石に近いものだ」
新たに手のひらに載せた魔石を、矯めつ眇めつ、転がしながらクロスは言う。
「ギルドに持ち込んでも、ぼったくられるだけだぞ」
「そこは大丈夫。ちゃんと高値で買い取ってもらっているわ。だいたい、1個2000フロヮよ」
ツノウサギノの魔石が、状態のいいものでも1個1000フロヮ前後──普通銅貨一枚の買い取りだから、ほぼ倍の値段で買い取ってもらえている。
「相場がいい日は、全部が銀貨での支払いになるのよ。1000フロヮ以下の、銅貨での支払いなんて受けたことはないから安心してちょうだい」
わたしは、ちょっと得意気に説明した。
*
魔石生成の定石では、小ぶりな魔石一つを結晶化させるのに必要な魔力量をエナジーという単位で規定している。
ツノウサギから採れる小さな魔石一つが、だいたい1エナジー分である。
ちなみにゴブリンから採れる魔石も同じくらいの大きさだけれど、彼らは徒党を組んで行動することと、小賢しくも武器を使うことから、討伐難易度はツノウサギよりも上である。
数が多くて倒すのに苦労するわりに、実入りが少ないと不評な魔物の代表格でもあった。
一般的に、魔物は大きくて強ければ強いほど、体内に魔力をため込んでいる。
魔物から取れる魔石の価値は、その魔物の種類や年齢、持っている魔力の量や質によって大きく変わってくるのだ。
つまり、魔物の強さが魔石の価値に直結すると言っても過言ではない。
そこでわたしは魔石を生成する際に、込める魔力の量を変えたものを何種類か作り、どれが一番高く買い取ってもらえるかを調べたことがあった。
ツノウサギの魔石と同じように、1エナジーの魔力を込めて作れば、ツノウサギの魔石と同じ値段で買い取ってもらえる。
では、同じ大きさの魔石に二〜三倍の魔力を込めて生成した場合はどうなるのか──?
拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
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