204.エルフになりたい⑮魔石生成
大事なものだから、鞄の奥底に厳重に収納されていたのだ。
袋には、大小の魔石がずっしりと詰まっている。
魔石が入った袋が一つ。
なけなしの硬貨が入った袋が一つ。
今のわたしの全財産である。
本当はもう一つ、小さめの魔石が入った巾着があったのだけれど、それは旅費を作るために全部売ってしまった。
残ったのは、実験的に作ってみた大きい魔石と、中くらいの魔石だけだった。
レッドによると〈大〉を一個、〈中〉を二個ほど売ったけれど、それ以上は危なくて換金できなかったそうだ。
中くらいの魔石は、ツノウサギやゴブリンよりも、もっと強くて大きい魔物からしか取れない。
低レベル帯の冒険者には、仕留めるのが難しいとされている種類だ。身体能力の高い獣人族とはいえ、ろくな装備も持たない奴隷の少年が、小遣い稼ぎと称して狩れるものではない。
繰り返し売りに行けば、遠からず出所を怪しまれる。
下手をすると、盗んだものではないかと疑われる。よくても、定期的に換金性の高い魔石を持ち込んでくる奴隷に対し、主人を誰何する程度のことはするかもしれない。
わたしのことを話すわけにはいかないから、結局、レッドはピンチに陥るしかない。
(どうにかして、安全にこれらの魔石を換金する方法はないかしら……?)
魔石の入った袋を鞄の底に戻し、わたしは小さくため息を吐いた。いくら魔石があっても、換金できないのなら意味がない。
(面倒だけど、小さい魔石を量産したほうが安全かな……)
中サイズ以上の魔石は、売るにしても時期や場所を慎重に選ぶべきだろう。
とりあえず、考えてもすぐに答えは出ないので、さっさと着替えてしまうことにした。
髪を手櫛で整え、すぐに部屋を出ようとしたけれど、思い直して寝台の傍まで戻る。
イザークさんか、モントレーおじさんが呼びにきたら、誰かが知らせてくれるだろう。そんなに急ぐ必要もない。
もともと、今日の分の魔石を生成するつもりでいたのだ。呼ばれるまでに内職を済ませてしまおう。
わたしは寝台の足元に置いてあった鞄から、今度は空の巾着袋を探し出してきて広げた。
袋の上に手をかざし、集中する。
魔力が手の中に集まってくるので、それを凝縮して丸めると、ころんとした灰白色の小石が袋の中に落ちた。本来は魔獣や魔物の体内で、長い年月をかけて生成されるもの──いわゆる魔石である。
魔石の生成自体は、魔力量が多い者なら誰にでもできる。
魔法の練度を上げ、魔力量を増やすための鍛錬法として一般的にも知られているし、エルフ族や鬼人族、天狐族などの魔力の強い亜人種族が収入源の一つにしているとも聞く。
わたしも、旅に出てから魔石が現金代わりとしても使えるということを知り、換金せずに物々交換の要領で魔石を消費することが増えた。
(それで使ってしまうから、ちっともお金が貯まらないのよね……)
そもそも、駅馬車の乗り継ぎ場所の近くには、魔石を換金できる店が少ない。
一日十個の魔石を生成しても、半分しか捌けないことはよくあった。
怪しまれないよう何軒もの店を梯子して魔石を売っている身としては、気軽に歩いて行ける距離に、現金買い取りに対応してくれる店舗が一軒しかないのではお手上げなのだ。田舎町と王都の大きな違いであった。
魔石を現金化できる店はたいがい、冒険者が集うギルドの近くにある。
馬車を使って旅をするような商人や村人には、魔獣や魔物を倒して魔石を手に入れる機会がない。そして冒険者は、護衛の仕事でもない限り馬車を利用することはない。
だからなのか、ギルドと馬車乗り場は離れた場所に位置していることが多い。
例外は、人も店もギルドも城壁内に密集している王都くらいのものである。
立て続けに三つの魔石を生成したところで、慌ただしい足音と共に誰かがやってきて扉をノックした。
「アリア! 何があった!? 今、急に凄い量の魔力が動く気配がしたが、」
なんだか妙に慌てた声音をしたクロスだった。
あら、写本はもういいのかしら? などと思いながらわたしは巾着を片手に持ったまま扉を開けた。その瞬間、名案を思いついてしまった。
(あっ! もしかしてクロスなら、大きな魔石を安全に売れる場所を知っているかも……!)
拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
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