203.エルフになりたい⑭運の悪さ
レッドは、運が悪かったとしか言いようがない。
おそらくレッドの実力なら、冒険者としても十分やっていけるはずなのだ。
──この場合、冒険者と言っても奴隷商会に飼われている冒険者という意味だけれど。
今までに加わったことがあるパーティーの冒険者と比べても、決して引けは取らない。若いから、まだまだ伸び代もある。
商会でも素質を見込まれていて、最初のうちは盗賊ジョブの奴隷冒険者として育成されていたらしいのだ。
にも関わらず、たまたま盗賊団に巡り会ってしまったがために、そちらの道へ足を踏み入れることになってしまった。
盗賊団の中にいても、幸か不幸か死ぬこともなく、五体満足で勤め上げてしまった。役立たずとして返品されることもなかった。
その結果、せめてもの夢だったダンジョン・シーフになる道は遠のき、下劣な盗賊に使い捨てにされた挙げ句、毒薬使いなんかに拾われる羽目になったのだ。
毒薬使いは、彼をダンジョンに行かせることはせず、雑用をさせる従者として扱った。そしてまた、彼はダンジョン・シーフとして研鑽を積む機会を奪われたのだ。
レッドは、盗賊団なんかに入りたくなかったに違いない。奴隷身分でも、冒険者の盗賊としてダンジョンで活躍することを夢見ていたのだ。
けれど夢は破れ、犯罪の片棒を担ぐ立場になってしまった。盗賊団が捕まれば、一蓮托生で自分も罪に問われることになる。
弟分たちに自慢できるようなことは何もなくなり、夢を見せてやることもできなくなってしまった。
それに、所詮は食い詰め者たちが徒党を組んだだけの集団である。獣人奴隷の扱いなど、推して知るべしという状態だ。
毎日、自分が生き残るだけで精一杯。小さな弟分たちに食べ物を分けてやることもできなければ、世話になった兄貴分たちに恩を返すこともできない。
そんな自分を、恥じているのだろう。
アイリスとして初めて出会ったときも、自分──というか、自分がやってきた盗賊の仕事を、ケチな泥棒と称して卑下するような態度だった。
強がるわけでもなく、渡り歩いた盗賊団の数や仕事内容を誇るわけでもなく、突き放したような態度だった。
──ある意味、わたしもレッドと似たようなものだ。
レッドが弟分たちを助けたいと思うように、兄貴分である先輩奴隷に恩を返したいと思うように、わたしもレッドの忠義に報いたい。一刻も早く奴隷身分から解放し、夢を叶えられるようにしてあげたい。
けれど、今のわたしには何もできない。
イーリースお継母様の刺客がいつ来るかと怯えながら、毎日生きていくだけで精一杯。アイリスとして活動していた間は、生活費もなんとかなっていたけれど、旅に出ることが決まってからは蓄えを食い潰す一方である。
お兄様を守りたいと思っていても、そのための案も手段もない。無理をしてでも辺境まで行って、お祖父様に助けを求めるしかない状況だ。
レッドを奴隷商会から買い取りたくても、資金に余裕がないのだった。
わたしは荷物の中から、ボレロ付きの青いワンピースを取り出した。
別々服をつなぎ合わせて、自分で仕立て直した力作である。
運良く似たような雰囲気の古着が二着手に入ったため、かなり手間暇をかけて縫い直した。生活魔法のお裁縫チートを炸裂させた逸品であり、手持ちの服の中では虹色魔石のドレスの次に手がかかっている。
王都で人気の、ちょっとお高めのお菓子屋さんに入るときにだけ着ていたものだ。
ベースにした一着は、高貴な家の令嬢が普段着にでもしていたのだろう。織柄の入った青い生地で、上品な光沢のある軽いドレスだった。
古着としてどこかから流れてきたのだろうけれど、少し汚れがあるということで安く売られていた。
汚れと言っても、ほんの少し飲み物か何かの水滴が飛んだ程度で、平民や、わたしのような境遇の者からすれば、笑ってしまうほどの小さなシミだ。
もう一着からはレースの襟や袖などを拝借し、ボレロもこちらの生地から仕立てた。
白を基調としたレース地は、古くなってところどころ黄ばんではいたけれど、平民の普段着としては許容範囲だ。むしろ、レース生地があしらわれているだけで十分におしゃれ着として通用する。
さらに旅行鞄の底を探ると、魔石と硬貨の入った巾着が出てきた。
拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
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