決意
原作を読んでいて、あの場面では、なんだかなーと思った。
そこは普通は、自分が無理に応援にくるようにしむけた結果として、妹が事故死してしまったわけだから、相応の責任を感じて反省するところだろうに。
反省しても帰ってくることがないとはいえ、あんなふうに自分の死を勝手な解釈で受け止められては、亡くなった妹も浮かばれないというものではないか。
そんな白鳥琉生だけど、原作では矢吹たちと対戦するまでは無敗を貫いているということになっていた。
大切な妹を失った兄の異常な執念が、敗北を許さず、呪いのように勝利を渇望して、また現実のものとして実現させていたのだ。
意地という他なかった。
矢吹たちは、そんな白鳥琉生に対して、準決勝の舞台で勝ってほしいと、生前の真理と親友だった少女に懇願される。
亡くなった真理も、きっと琉生が負けることを望んでいると言うのである。
彼女の情報リークにより、スポーツドリンクに仕込まれた下剤の罠を回避することができた。
さすがに『狂気の』と呼ばれる男は、勝つための手段を選ばない。
読んでいて、最低だ。そこまでして勝ちたいか。と思ったなあ。
「お願いです。真理は、そこまでして琉生さんに勝ってほしいなんて思ってないはずなんです!」
親友の少女の願いに、矢吹たちは頷く。
「任せてよ。真理ちゃんは、天国からお兄さんを応援なんてしていない。今の白鳥琉生を見ていて、するはずがないんだ。だから、僕らが勝つことでそれを証明するんだ」
「矢吹さん……」
「狂気の悲しきリベロを縛り続ける呪いは、僕らの手で解いてみせる!」
大きめのコマで、格好良く決め台詞を叫ぶ矢吹隼。
今現在の、わりとへろへろな矢吹を見ていると、とてもとてもあんな高校生に成長するとは結びつかないのだが。
たぶん、なんとかなるんだろう。
もしならなかったら……僕のせい?
まあ、ともかくも、そんな親友キャラの手助けもあり、観覧ノ坂高校は春間崎高校に勝利するんだ。
試合後、敗北を受け止められない白鳥琉生に、妹の親友や菱井麻衣が妹の気持ちを代弁するような言葉をかけて、意外と簡単に憑き物が落ちたようになって顔もサッパリした感じになり、妹への懺悔を始めたシーンでも、なんだかなーって思った。
長い間、もの凄い怖い顔をしていたのが、変わり身が早すぎるんだもんな。
悲しい過去を持ってる系の敵キャラが、負けたとたんにコロッと改心しちゃうなんてことは、マンガではありがちだけどね。
原作では、そんなふうに描かれていた白鳥兄妹のエピソード。
小学五年生を迎える僕にとって重要なのは、あの回想シーンのみ登場だった白鳥真理が、現在も生存しているということだ。
今まさに、この世界で生きているんだ。
白鳥琉生は、一つ年上だからこれから小学六年生になるところ。
真理は四年生になるだろう。
原作の悲劇を知っている以上、僕はこの物語を壊そうと思う。
壊してしまいたい。
事故が起きるのは二年後。兄妹の運命が狂うのは一年後だ。
だから、チャンスはこれからの一年間に絞られる。
妹の真理が応援する前で、兄の琉生のチームを負かすことで、原作では真理の生前には一度も破られることのなかった、真理が応援する限り必ず琉生のチームが勝利するというジンクスを破ってやるんだ。
それで彼女の死亡フラグを折ることができるかは、やってみないとわからないが、やらなければ何も変わらないだろう。
少なくとも、お前が来ないから試合に負けたなんて理不尽な言いぐさは、白鳥琉生にはさせない。
真理が応援しても、負けるときは負けるってことを見せつけるんだ。
菱井寮さんのこともある。
死の運命が、はたして回避可能なのかを試すと言えば、実験に使うようでなんだか悪い気がするけど、それにしても失敗は許されない。
でも、やっぱり、寮さんのためにもって気持ちがないといえば嘘になるけどね。
白鳥琉生が、同じ地域リーグを争うチームに所属していることは、四年生のあいだに対戦しているので確認済みだ。
妹の真理の姿も、遠目に見ている。
なかなか綺麗な子だった。
そして、強いチームだった。
二度の対戦で、全く歯が立たずに負けている。
あのチームに勝利するためには、余程、僕たちも強くならないといけない。
あれから矢吹が加入しているものの、キャプテンら六年生が抜けた穴は大きい。
現状では、戦力は上がっているとは言えない状態だ。
だけど絶対に僕たちは勝たないければならない。
白鳥琉生との対戦は、ただのサッカーの試合ではない。
これは、ひとりの少女の、命をかけた戦いなのだから。




