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勝敗

 

「やったな、鷹月!」

「鷹月ぃ!」

「鷹月、すげーぞ!」


 僕の後ろから六年生たちが飛びついてきた。


 次から次へと。


 一人ならまだしも、何人もの上級生の体重を支えられるほどには鍛え上げられた肉体ではない。

 僕は、何重にもなった仲間たちに押し潰されてしまった。


「……お、重い」


 剛士は特に心配するでもなく、ニコニコしながら僕らを見ている。

 どうやらこれは助けてくれないパターンらしい。


 結局、しばらく喜ぶ六年生たちに押し潰されていた僕は、やがて見かねた森熊キャプテンが声をかけてくれるまではそのままだった。


 危ない。

 古いタイプのマンガキャラだったら、ペラペラになっていたところだった。


 僕は差し伸べられたキャプテンの腕に力強く引かれて立ち上がる。


「さすがは鷹月だ。いつかはやると思っていた」

「キャプテン……」

「というより、今までもシュートを撃たないのが不思議ちゃんな場面は何度もあったけどな」


 不思議ちゃん?

 なんだか使い方を誤っている気がするが、ここは気にしないようにしよう。


 大事なのは、決めるべき場面で決められた。

 そのことなのだから。


 そして、大事なことはもうひとつある。

 試合はまだ終わったわけではないということだ。


「キャプテン!」

「うん?」

「これで逆転です。あとの残り時間を、最後まで集中して頑張りましょう」


 3-2にスコア上は勝ったとはいえ、最後の最後まで何が起きるかわからないのがサッカーだ。

 特に今戦っている相手は得点力の高い必殺技ケルベロス・アタックを持っている。

 短時間でも、更に試合を逆転させる手段があるということだ。


「そうだな」

「鷹月の言うとおりだ」

「いいこと言うぜ」


 まわりを囲むチームメイトが口々に同意する。


「この試合、勝とう!」

「「「おう!」」」


 僕を中心に決意と結束の声が、あたりの空気を揺らす。


 僕は思った。

 なんだかまるで、僕が主人公みたいだ。


「その台詞はキャプテンである俺の……まあ、いいけどな。おっ! そう言えば陽狩。お前、足は大丈夫なのか?」


 キャプテンに指摘されて、剛士は苦笑する。

 そういえば大袈裟な感じで負傷退場していたんだよね。

 敵を騙すにはまず味方からをやってみたままなんだった。


「ええ、まあ。そんなに悪くないみたいです」


 途端に、仲間たちの輪の中心点が移動した。

 六年生たちは、今度は剛士のまわりを取り囲む。


「良かった心配したぜ」

「ありゃ、危なかったもんな」

「退場もんだったよな」


 剛士を気づかう仲間たちの輪のなかに、あまりも自然なくらいにモブ化する立ち位置に、いつの間にか僕は立っている。

 どうやら本来の場所に戻ったみたいだ。


 短かったな。僕の主人公タイム。


 僕は、群衆心理の移ろいやすさに思いを馳せる。

 人気とは、かくも早く新しい刺激を求めて次の扉を開き、足跡だけを残して去って行くものなのか。


 時代は変わり、人の心もまた季節が過ぎ去るように変わっていく。

 しかし、だとしてもせめて僕だけは、変わらない何かを大切にしていきたい。

 そう思った──。


「先輩たち、残り時間をオレの分も頼みます!」

「「「まかせろ!」」」


 チームは陽狩剛士を中心にまとまりを見せている。


 その輪の片隅には、原作主人公のはずの矢吹隼がまったく目立つことなく溶け込んでいる。

 思わず誰が主人公だったか首を捻るくらいだ。


 審判が試合再開を促して、短く笛を吹くのが聞こえた。

 もう相手は、センターサークルにボールをセットしていつでも始められる体制になっている。


「行こう!」

「おう」


 チームメイトはキックオフでのリスタートに向けて散り散りに走り出した。

 僕も、遅れることなく走り出す。


「俺も、キャプテンらしいやつ言いたかったなあ……」


 後ろで森熊キャプテンがそう言っているのが聞こえた。




 残り数分の戦い。


 しっかり守備を固めながらセットプレイで得点を奪う戦いかたを続けていた相手チームだが、点を追う立場になって、全体が攻め上がってくるようになった。


 このままでは負けてしまうのだから当然だ。


 しかし、ブラックスリーの三人は攻め上がる人員に含まれない。


 攻めないのではなく、攻められないのである。


 黒部は、矢吹のマークについている。

 そして石黒が、黒部が振りきられた場合に対応できるよう、更に後ろで守りについていた。


 相手としては矢吹を自由にさせておくわけにはいかない。

 この意味では、今や矢吹はいるだけで守備に貢献していた。相手チームの中心選手二人が攻め上がれなくしているのだから。


 黒木はというと僕のマークについている。


 どうやら僕のこともそれなりに評価してくれているらしい。


 身長のある黒木を、一緒に自陣のゴール近くに連れていくわけにはいかないので、僕は黒木を引き連れた状態で、適当な相手選手に接近したりして敵のパスの選択肢を減らすことで味方に役に立つよう動くことにした。


 あとは先輩たちを信じる。それだけだ。


 ひたすら攻める相手に、六年生たちと大上先輩が必死で守り続ける。

 そんな戦いだった。


 そして、終盤戦になってブラックスリーが得たケルベロス・アタックのチャンス。

 石黒のヘディングシュートが僅かにゴールのクロスバーの上を越えていったとき────。


 長いホイッスルの音が鳴り響き、試合の終わりが告げられた。




 僕たちは勝ったのだ。


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