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雨天

 

 その日は、雨で練習が中止になった。


 こんな日こそ、家でロードラの続きを遊ぶのだ。


 少しずつ遊ぶうちに、ついに帆船(ふね)をゲットするイベントに達したところだ。

 これで大海に向けて漕ぎ出すことができる。

 勇者コーイチの冒険の舞台が大きく拓けたのだ。


 勇ましくも雄大なBGMを奏でながら、船は大きく真新しい帆を広げ、追い風を抱き込んで勢いよく大海原へと旅立った。

 あの水平線の向こうには、どんな冒険が僕を待ち受けているのだろう。


 期待でワクワクさせられる。


 が、海のモンスターに遭遇(エンカウント)したところ、想定を上回る強さに苦戦を強いられたので、すぐさま、陸地にとってかえした。


 港町が近くて良かった。

 寄港して、立てなおすことにしよう。


 この簡単にはいかない手応え。

 硬派なRPGは、やはりこうでなくてはいけない。


 やっぱ、ロードラは楽しいな。


「孝一くん」


 後から、声が掛かったので、僕は振り返る。

 架純ちゃんだ。


 本日も変わらず、美少女ぶりは絶好調だ。


「どうしたの?」

「よかったら、これで一緒に遊ばないかなーって思って……」


 架純ちゃんは、僕に、ゲームソフトのパッケージを見せる。

 それは、有名な定番サッカーゲームシリーズの最新作だ。


 鷹月孝一的には、パッケージに起用されている、三人のサッカー選手にビビッときた。いずれも世界クラスの選手で、サッカー少年の憧れの的である。


 前世では、あまりやらなかった種類のゲームではある。

 サッカークラブを経営するやつだと、まあまあやってはいたけど。あれは、女性秘書が選べたりするのが良かった。

 美人の秘書がいるというのは、大多数の男が一度は夢見ることなんじゃないかと思う。


 ロードラもやりたいけど、女の子とサッカーゲームで遊ぶというのも、未体験の領域だ。

 お断りする要素はない。


「いいけど、セーブするから、ちょっと待って」

「うん」


 ちょうど、勇者コーイチは、安全な街に帰ってきたところだ。

 僕は、手早くロードラのデータを保存した。


「いいよ」

「おっけー」


 架純ちゃんは、ゲーム機のところにスタンバイしていて、手慣れた仕草でソフトを交換した。

 もうひとつのコントローラを手にすると、二人掛けソファーの、僕のとなりに腰を降ろす。


 ふわりとした髪から、シャンプーの匂いが僕の鼻をくすぐった。


 雨が強くて、濡れたのが気持ち悪いと言って、さっきまでシャワーを浴びていたのだ。

 架純ちゃんは大の風呂好きだ。

 しかし、今までのところ、し◯かちゃん系のイベントは発生していない。分かるからね、誰か風呂の中にいるくらいは。

 特に架純ちゃんが風呂に入っていると、中からアニソンの鼻歌が聞こえてくるのだ。


 かなり暖かくなってきたこともあり、架純ちゃんの部屋着はとても薄着になっている。

 なので今、僕の右足の真横には、彼女の生足が並んでいる状態である。

 白くて細い、華奢な足をしている。

 今はまだいいものの、これから思春期を迎えるにあたって、僕は僕自身の理性がこの生活に耐えられるかを、大変に憂慮しているのだ。


 まあ、成長すれば、架純ちゃんも今みたいな無防備な感じではないのかなとは思うけど。


 今は彼女と、サッカーゲームを遊ぼう。


 しかし、僕の中には二十数年に渡るゲーマー経験値が蓄積されているのである。

 小学四年生の女の子に本気で挑むのは、大人げないというものだ。


 ちゃんと手加減をしないとね。


 ──────と、思っていたんだけど……。


「わーい、勝っちゃったあ!」

「……架純ちゃん、強いね」

「えー。そんなことないよー」


 盛大に負けてしまった。

 チームを変えて、再戦を挑んでも負けた。


 なんで、ブラジル代表が、日本代表にコテンパンにやられてしまうのだろう。

 どうしてしまったんだ、カナリア軍団!


 理由はなんとなく分かる。

 どうやら架純ちゃんは、このゲームをかなりやり込んでいるみたいなのだ。


 巧みな操作で、豊富に用意されているフェイントの動作を駆使し、変幻自在のドリブルでボールキープをされるので、一度、架純ちゃんのチームにボールが渡ると、ゴールされるまで全く取り返せないのだ。

 おかげで、サッカーというより、高校野球の強豪校に一回戦目で当たってしまった運のない弱小校みたいなスコアをつけられてしまった。


 まあ、それも最初のうちのこと。

 何戦かをやらせてもらううちに、コツが掴めてきたので、やっと勝負になりはじめた。


「よしっ、そこだー!」

「ダメでしたー。簡単には入れさせないよー」

「うわあ、惜しかった。今度こそは入れてやる」

「ふふん。今度はこっちの番だよー」

「うわ。架純ちゃん、すごいテクニックだねえ」


 こうして遊んでみると、サッカーゲームも楽しいものだ。

 対人戦は、格闘ゲームはまあまあ遊んだけど、あれもやり込んだプレーヤーには敵わなくなるから、なんだかんだつまらなくなってしまうんだよね。


 それにしても、このサッカーゲームは、家にある他のゲームとは毛色がちがう。

 ひょっとしたら、こうして僕と遊ぶために用意してくれたんだろうか。

 だとしたら、とても有難い話である。


 二人で遊んでいると、玄関が開く音がして、バタバタとリビングに誰かが近づく気配があった。


「あー、もー、すごい雨だよー」


 早優奈ちゃんが帰ってきたみたいだ。


 リビングのドアを開けて、僕らがゲームで遊んでいるのを発見するなり、早優奈ちゃんは大声を上げた。


「ああーっ! お姉ちゃん、ずるーい! こーちゃんとみんなで遊ぶ約束だったのにー。ぬけがけだぞー!」

「あんたが遅いから先に遊んでただけでしょー」

「ひきょーものー。ひとでなしー」


 早優奈ちゃんは、実の姉を指差して罵っているが、まだ、背にはランドセルを背負ったままだ。


「いいから、荷物を置いて、濡れた服を着替えておいでよ。そしたら、一緒に遊ぼう」

「そうそう、それまでは私と孝一くんで遊んでるから」

「うー。くびを洗ってまっておれー。この、どろぼーねこめー!」


 そう言い残すと、早優奈ちゃんは去っていった。


 ふうっ、と架純ちゃんは息をつく。


「あの子、楽しみにしてたから、孝一くん、遊んであげてね?」

「うん、わかってる」


 僕の目から見て、二人は仲のいい姉妹だと思う。


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