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先輩

 

 大上(おおかみ)先輩の話をしよう。


 大上先輩は、剛士と僕が所属するサッカーチームのひとつ歳上の先輩だ。


 チームのレギュラー選手で、ポジションは僕と同じ守備的MFだ。

 フォーメーションからいけば、剛士が僕の前にいるとしたら、大上先輩は横並びにいることになる。剛士は、チームの攻撃面で僕の相棒にあたるわけだけど、守備の面では、大上先輩が相棒となるんだ。


 大上先輩はよく走り、ボールを保持する相手選手を猛進しながら追い詰めて奪うのがプレイスタイルだ。

 ボールを獲物に見立てた狩人(ハンター)のような人だ。

 危機を予測し、チームの組織の穴を埋めて、バランスを取ろうとする僕とはいい組み合わせになっていると思う。


 大上先輩が空けたスペースは僕が埋め、大上先輩が外したマークすべき相手は僕がケアする。

 だから先輩は、思う存分、ボールを追って駆け回れるのである。


 そんな、大上先輩は原作『僕タク』にも登場する、いわば原作キャラだ。

 プレイスタイルも、今と変わらない感じでマンガに出てきていた。


 そんな彼は目付きが悪い。


 つり目な上に、はっきりと黒目が小さい三白眼になっているのも原作の、そのままである。

 生で会ったら、本気で怖かった。


 原作では、先輩が本気になってボールを敵から奪うとき、画風が変わる。

 線が増えて、少年誌から、青年誌のキャラになる。

 殺し屋スナイパーみたいな顔に変貌するんだ。真後ろに立ったら殴られるかもしれないから気をつけよう。


 味方でも試合中に人を殴ったら即、レッドカードを出されて退場になる。

 先輩はチームの守備の要なのだ。

 そうなれば損失は計り知れない。僕に掛かる負担も大きくなる。


 気をつけよう。


 まだ小学生なので、その外見も幾分か柔らかいとはいえ、サッカーの相手は普通の小学生である。

 たまに先輩に鬼気迫る形相で追い掛けられて、泣き出してしまう子もいた。そのくらいの迫力があるのだ。


 全体にどこか、日本の小学生にあるまじきワイルドな空気もまとっている。

 遠足のお弁当に、巨大な骨付き肉を取り出してかじりつき始めたとしても、先輩なら違和感がないだろう。


 そんな先輩ではあるが、サッカーの試合以外では見た目が怖いだけの、心優しい少年である。

 趣味は、ゆるキャラのグッズ集めだ。

 シュールなのより、正統派の可愛らしいキャラが好みらしい。


 微笑ましい話だ。


 そんな先輩だが、今は、あろうことか、あの気の弱い矢吹とパス交換をしている。


 矢吹の相手に、強面の大上先輩をあてがうなんて、なんというドSなプレイだろうか。

 案の定、矢吹は萎縮して、ほとんど震えながらパスを交換している。

 蹴る度に「すみません」と口に出すのは、いかがなものだろうか。そういう、クセにならないといいけど。


 矢吹は、見学を経て、正式にチームに入ったのだ。

 これから基礎をしっかり積み上げていけば、将来はすごい選手になるのではないだろうか。


 なにしろ原作では一年で、高校の選手権制覇を成し遂げているんだから。


 そんな、サッカーセンス抜群の矢吹だから、先輩のパスから心優しい人柄を感じ取ったのかもしれない。

 少しずつ、緊張がほぐれていくみたいに見えた。

 あいかわらず、ボールを蹴る度に「すみません」を繰り返してはいるけれど。


 だが、矢吹は甘い。


 いずれは紅白戦なんかで、先輩と対戦する機会があるだろうから、そのときに先輩の真の怖さを思い知ることになるだろう。


 ひとたび、ボールをキープすれば、その瞬間から大上先輩という、狙撃手(スナイパー)に狙われた標的(ターゲット)となるのだ。


 狙われた者に逃れる術はない。

 この世界は弱肉強食の理に支配された、冷たくも残酷な領域であったことを、野性の本能が呼び覚まされたとき、生きとし生けるものは皆等しく、奪う者と、奪われる者に分かれるということを思い知らされるのである。


 まあ、そのくらいの勢いで、ボールを取られるのだ。

 ちょっとトラウマになりかねないくらいの感じで。


 だから、僕は常々思っていることがあるんだ。


 大上先輩が、僕の味方でいてくれて、心の底から本当に良かったって。


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