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釈明

 

 皆川さんが、僕に話があるらしい。


 皆川さんは、口では「ちょっといいかな」と質問しながらも、僕の返事を待たずに踵を返すと、スタスタと歩き始めた。

 四の五の言わずについてこいという意味らしい。


 僕は、皆川さんに、校舎から体育館に繋がる、渡り廊下の下を通る通路にまで連行された。


「由希のことだけど」


 やはり、委員長の件みたいだ。

 ここなら朝は人通りが少ないし、人に聞かせたくない会話をしても、よほど大声を出さない限り、他者の耳には届かないだろう。誰かが来ても、近付く前に人が来たとわかる。


 問題点としては、朝から二人だけで、そんなところで何をしてるのさ状態だということか。

 見られたら噂になる。まず、間違いない。


「聞きたいことがある」

「うん」


 そう切り出しながらも、先に、皆川さんは自分の立場から見ていた、ここしばらくの委員長、森川由希のことについて、どんな様子だったかを話し始めた。


 二人は幼稚園からの友達で、仲がいいということだ。

 男子に興味を持たなかった森川さんが、最近になって、僕に関心を示すようになった。


 皆川さんが「なんで、鷹月なんだ?」と、訊いたところ、はにかんで言葉を濁したらしい。

 僕も、それが聞きたいものだが。


 皆川さんは、遠い目をする。


「あれは、完全に恋する乙女の顔だった」

「そ、そう……」


 皆川さんは、そのときのことを思い描いているようだが、僕のイメージに恋する乙女モードの委員長がまったく想像つかない。

 日直の日は、ただただ緊張している様子だったし。


「それがさあ、鷹月と日直を組んだあの日から、ころっと落ち着いちゃってさ。訊いても、ほとんど「大丈夫」としか言わないし。由希のやつ、日直の日は何かの全国大会の決勝戦みたいなテンションだったんだぞ」

「決勝?」

「そうだよ。この日の、結果次第では人生が変わるんだって、そのくらいの」


 そんな意気込みで、あの日を迎えていたとは思いもよらない。

 僕にしたら、ああ、日直まわってきたなーくらいの感じだったし。


「そんなの見てるから、アタシだってそれなりに心配してたんだ。自分のことでもないのに、変にドキドキしたりしてさ。それが今や澄ました顔して「大丈夫」「なんでもないの」「もう、いいのよ」だって、訳わっかんねぇー!」


 皆川さんは、そう言ってヒートアップするが、その話だと、当の森川由希さんのなかでは、僕のことはクールダウンしてしまったということだろうか。


「でさ、由希からは何にもわかんないから、鷹月に聞こうと思ったんだよ。あの日、何があったのか」

「ああ、なるほどね」


 皆川さんは、興味本位とかではなく、純粋に友達として心配して動いてるんだろうなと思えたし、ただ、僕に喋らせるんじゃなくて、自分の持っているカードを先に出してくるというやり方も、とてもフェアだと感じられた。

 だから僕は、できるだけ誠実に、あの日あったことを正確に伝えようとした。


 僕は、日直の日の放課後、教室で起きたすれ違いの一部始終を、皆川さんに話した。


 感情的には、僕が勘違いするにあたって起きたことで、他人を責めないように心掛けた。


「そんなわけで、変な思い込みをしていた、僕が悪いんだ」

「いや、鷹月は悪くないだろ。陽狩がモテすぎるのは、あいつのせいじゃないし、手紙を鷹月に任せようとするやつらは何だかなと思うけど、悪意があるわけじゃない。つまり、誰も悪くはないだろ」

「そう言ってもらえると」

「いや、由希はあまりにも簡単に引き下がり過ぎだし、大体、言葉足らずなんだ。そこが問題なんだ」


 皆川さんは、友人に手厳しい。


「森川さんも、あのときは緊張していたみたいだから、仕方ないよ」

「まあ、そうか。でも、鷹月は、由希を振った訳じゃなかったんだな」

「うん」

「て、ことは、どうなんだ?」

「どう、とは?」


 皆川さんは、目を逸らして、鼻の頭を掻く。

 顔を赤くして。


「つまりだな……って、なんでアタシが恥ずかしがらないといけないんだよ! 由希と、付き合う気はあるのかって事だよ!」

「ええっ?」


 今度は僕が赤くなる番だった。


「いきなり、付き合うとか、何をすればいいかもわからないよ。別に、森川さんのことは嫌いじゃないから、仲良くするのはいいと思うけど」


 とりあえず、正直に答えた。


「そうか、そうか」


 皆川さんは、顔を満足そうにニンマリして、二度ばかり頷く。

 ほとんど告白にOKの返事をしたようなものだからだろう。


 これを皆川さんが、森川さんに伝えたら、僕たちは付き合うことにになるのだろうか。


 僕は、せっかくだから訊いてみることにした。


「だいだい、小学生同士で付き合うって、何をするのさ」

「そりゃ、あれだ、デートとかだよ」

「デートか……皆川さん、したことあるの?」


 当然だろ、みたいな感じで言うので、無いだろうとは思いながらも質問をしてしまった。


 皆川さんは、学年で一番身長が高い。

 サッカーをやっているせいで、逞しい上に、色黒なので、女の子というよりは、やんちゃな美少年という外見をしている。


 街中で、ランドセルを背負っていないときには、女子中高生から逆ナンされたりするらしいという噂を聞いたことがある。


 逆ナン。

 その概念は知っているが、現象としては遠い世界で起きているもののように思っていた。

 銀河の果てで恒星が爆発して、新しい天体が生まれるくらい遠いところで発生しているレベルの話だと。

 でも、皆川さんを見ていると、それもあるだろうと思えた。


 そんな、皆川さんとデートをする男子なんているとは思えないけど。


「……実はあるんだよ、デートしたこと」

「えっ?」


 僕は、露骨に驚いてしまった。

 ちょっと失礼だった。皆川さん、ごめん。


「……女子と、だけどな」


 ああ、やっぱり。


 参考までに、皆川さんはそのときのことを教えてくれた。


 女子の同級生に、近くにある地元の小さな遊園地に「遊びに行こう」と誘われて、何人かのグループで行くのだろうと思ってOKしたところ、行ってみたら二人だけだったのだという。

 まあ、それでも、乗り物とかはだいたい二人で乗るのが多いから同じことかと考えて楽しんだらしい。

 それで、帰り際に言われたのだ「今日のデート、楽しかった」と。

 それで、やっと皆川さんは自分がデートをしていたことに気づいたらしい。


 知らない間に告白されていた僕と、知らない間にデートをしていた皆川さん。

 僕は、不思議な連帯感を感じ始めていた。


「ようするに、二人で遊びに行けばいいんだよ」

「まあ、それなら。でも、森川さんは小学生だけで遊園地に行くとかは駄目なんじゃないかな、ほら、委員長だし」

「そういや、そうだな。あいつん家、うちと違って固いんだよなー昔から」


 森川さんと二人で遊びに行く。

 想像がつかないな。図書館とか? それって、遊びじゃないし。


「でも、まあ、別に友達として仲良くするとかは大丈夫なんだ。そのこと、由希に教えてもいいよな?」

「まあ、かまわないけど」

「よっしゃ、じゃあ、このことはアタシに任せておきな!」


 そう言うと、皆川さんは意気揚々とその場を後にした。


 皆川さんは、僕と森川さんを繋いでしまうつもりらしい。


 この『僕タク』の世界にいる以上、高校生になったら、ヒロイン菱井麻衣を攻略したいと思ってはいたけど。

 早くも別の人物と結ばれてしまうんだろうか。

 幸せなら、それもいいかもしれない。


 とにかく、女子が僕を好きになってくれるなんて、初めてのことなんだから、その気持ちをないがしろになんてできないとは思うんだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最後のヒロインを攻略したい運云々が素直にキモいなw
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