紅白戦
紅白戦が始まった。
Aチームボールでスタート。
ほぼ院帝の選手で占められている対戦相手は、普段通りといった落ち着きでパス回しをしながら攻め手を探ってくる。
「プレスをしっかり掛けよう!」
「右サイド、追い込め!」
僕と木津根でBチームの仲間に声を掛けていく。
サッカーは、まずは守備からだ。
攻守はおしなべて一体のものではあるが、組織づくりの基礎にはどのようにしてゴールを守るのかが骨格におかれるべきだと僕は考える。
これは急増チームであっても、いや、急増チームだからこそ大切にしたいことだというのが僕の意見だ。
8人制のチームでフィールドプレーヤーは7人。
ゴールキーパーには久茂が入る。
実力は申し分ないキーパーだが原作では「シュッ」とか「ジュッ」しか台詞のないキャラだ。見た目が厳つくて目付きも三白眼が鋭く気性が激しそうでありながら実はすごく内気でシャイだという人物設定だった。
現実に、実物の久茂も今のところ無言をつらぬいている。
性格は個人差があるからいいとしても、後ろからのコーチングが無いというのは注意点だ。
そこは木津根にフォローしてもらい、なるべく声を出してもらうべきだろう。
僕らのフォーメーションは2-3-2。
ディフェンスには木津根と黒木。
フォワードには剛士と矢吹が並ぶ。
中盤は左に湾田、右に二野田、中央に僕だ。
ディフェンスの黒木は選抜で唯一の5年生で、一昨年に対戦したことのあるブラックスリーの黒木の弟だ。
兄と同じく小学生離れした体格をしていて身長もチーム内では力石に継いで高い。
わりと華奢な木津根が黒木と並んでいると、牛若丸と弁慶みたいな感じもある。
最初、木津根を疑わしげな目で見ていた黒木弟だが、木津根が鮮やかなインターセプトでボールを奪取してみせると見る目が変わった。
それどころか段々とプレー毎に尊敬の眼差しに変わっていく。
木津根は木津根でプレーが切れるごとに黒木のポジショニングの修正や、直前の守備の改善点などを指導していく。
「今のタックルは良かったが、その前に身体の向きをこっちにして対応しておけばよりセーフティーにボールが捕れたはずだ」
「あっ、そうか……なるほどなぁ」
上から目線な言いようではあるけど、木津根の指摘が正しいと受け入れる柔軟さが黒木にあるのが好材料だ。
この凸凹コンビは何やら上手く生きそうな雰囲気がある。
後ろのほうは木津根に任せるとして、僕には中盤のバランスをとっていく役目がある。
「湾田も攻め上がっていいよ」
「うん、わかった」
「逆サイドの二野田が攻めている時は気をつけてね」
「うん」
湾田は指示を出すと素直に頷く。
ただ試合中これから先も事細かに彼には指示出しをする必要があるだろう。
言われたことをひたすら従順にこなすタイプの選手で、自分では意思決定しないところがあるからだ。
原作でもチームメイトで先輩の貝主ってキャラに命令されて動く選手だった。
ただ的確なアドバイスさえできれば能力は申し分ないし、無尽蔵のスタミナと飽くなき闘争心を持っていた。
湾田の選抜での活躍はもしかすると僕次第かもしれない。
「二野田も、タイミングがあれば攻めて。任せるよ」
「まあ……考えとく」
二野田は湾田とは真逆のタイプだ。
気が向かないときには消極的なプレーに終始するが、何かの加減で乗ってくると手のつけられない活躍をする。
ただ物凄い気分屋なのでいつどんな場面で本気を出すのか本人にすら予想がつかない。
湾田と違ってあれこれ口出しするのは逆効果だ。
二野田は基本、自由にやらせておけばいい。
もともとサイドバックを主に勤める選手なので、やる気がないときでも守備はそつなくこなしてくれる。
「湾田!」
僕は中央でボールを受けると、左サイドの湾田を走らせるパスを出す。
突進するように敵陣に切り込む湾田。
そこに剛士が絡んで、ふたりでAチームを翻弄する。
剛士がボールを持つと湾田がその周りを走り相手を掻き回す。
湾田にパスが渡ると、剛士がすぐにフォローに入り簡単にはボールを奪わせないで突破の糸口を探っていく。
剛士と湾田の相性もなかなか良い。
もともと剛士はひとりで打開するのも得意だが、チームメイトを使うことも、使われることもできるオールマイティなアタッカーではある。
しかもすぐに湾田が使われて活きるタイプの選手だと感覚的に理解している様子だ。
「なかなかいーな、名前はワンダーとかなんかそんなだっけ?」
「湾田です! 覚えてください、陽狩くん!」
チャンスメイクは二野田の気分が乗ってくるまでは、このふたりの左サイドからの組み立てを基本にしていいだろう。
初めて同じチームでサッカーをするとは思えない連携で剛士と湾田がゴールに迫る。
これも選抜に呼ばれるくらいのレベルの高さがあるからか。
そんな剛士と湾田だが、Aチームの守備も上手くカバーしあって破綻する隙は見せない。
「戻して!」
「うん、頼んだ!」
ゴール前を固められたので、フリーになった僕にボールを下げてもらう。
湾田から強めのバックパスが送られてきた。
パス技術はそんなに高くないか。だが、主に剛士か僕で短いパスは交換するから問題にはならないだろう。
「矢吹は──」
僕がボールを受けた途端、前で矢吹が動きだしている。
しかしそこは対戦経験もある院帝のディフェンスが警戒していた。
ならまずはシュートを撃っておくか……
攻撃をシュートで終わらせておくのは、試合の流れを引き寄せていくためにも有効な手段だ。
そうそう決まるものではないが下手に敵陣の深いところでボールを奪われカウンターを食らうよりはよほどいい。
ここは思いきってミドルシュートを狙ってみるのがいいと判断した。
「──危ない!」
二野田とポジショニングの駆け引きをしていた田貫が叫ぶのが聞こえた。
田貫はどうやらAチームのフォーメーション3-3-1の左MFに入っているようだ。彼が邪魔に来ないのはかなり助かる。
僕は伸び伸びと右足を振り抜いた。
ゴールマウスの右上、かなり際どいところを狙ったシュートは速度申し分なく、押さえも効いて浮き上がり過ぎずに翔ぶ。
欲をいうとアウトに回転が掛かりすぎたか。
Aチームのキーパー後藤が突きだした手から逃げるように、カーブを描いたシュートはゴールの枠の角、内側に当たる。
そして──そのままネットを揺らした。
「あ……入ったか」
まずはBチームの先制点が決まった。




