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12 Gates City  作者: 澤群キョウ
08_A waking dream 〈紅に身を染める〉

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33 炎上

 赤い風景が霞んで消えていく。

 奥底からのっそりと起き出してきた意識が、夢だったのだと告げてくる。視界はひどく暗くて、いや、真っ黒で、普通の状態ではない。

 それは夜の闇ではなく、目の上に置かれたなにかのせいだった。頭の動きが鈍い。目覚めたばかりだし、仕方がないか。だが、体がひどく重い。だが、動かなくはない。

「ウィルフレド、いけない。起き上がったり、包帯を取っては駄目だ」

 声の主が誰なのかは、すぐにわかった。同じ部屋で暮らす青年、フェリクスのものだ。

「声も出してはいけない。少なくとも今日の間はすべて我慢だ。なにか用事があるなら俺たちが手伝う。後からキーレイさんがまた来ると言っていた。医者も一緒に」


 目の周りがじんじんとして痛かった。喉もだ。自身を緩やかに焼いている痛みに気付いて、ウィルフレドはゆっくりとあげかけていた腕を降ろした。

 動く気配を感じる。冷たい水を染み込ませた布が、そっと口元に当てられていた。

「あの時入って来た男が投げたのは、『紫』で取れる毒草を粉にしたものだそうだ」

 それを顔に浴びたから、包帯を巻かれているのだとフェリクスは言う。

 すべてが伝聞なので、語尾がどうしても曖昧になってしまうらしい。だが口調は真摯で、ウィルフレドは黙ったまま小さく頷いて答えた。

「アデルミラのお蔭で軽く済みそうだけれども、念のためにと。ニーロさんたちが」


 アデルミラ。あの小さな花のような神官は、無事だったのだろうか。

 駆け寄り、守ってくれたが、一緒に毒草の霧を浴びたのではないか?


 ウィルフレドの思いに気が付いていないのか、フェリクスはなにも言わない。

 だが、酷い疲労や悲しみの気配は感じられなかった。アデルミラになにかあったとして、一番悔やむのは間違いなくフェリクスだろう。


 だから、きっと、大丈夫だ。




「次はとうとう十三層だな」

「赤」の迷宮に足を踏み入れて二日目、その終わり。

 下り階段の手前のスペースで、ウィルフレドたちは夜明かしの準備を進めていた。

 十層から突然、魔法生物たちの顔ぶれは変わった。大型のものばかりになったし、どれもこれも頑丈(タフ)だった。けだものばかりではなく、石で出来た人形や、ぼんやりとした影のような得体のしれないものも現れるようになっていた。

 ロビッシュは床を這いずり回りながら罠を外し、ニーロの魔術はますます冴えわたる。前衛を任された二人には、新たに後ろの三人を「守る」役割も課せられていた。二人が倒されれば、パーティは一気に「終わる」。九層と十層、二つのフロアを結んでいるのはこれまでと同じ三十段ほどの階段だが、まるで次元を超えてしまったかのような変わりようだった。


 まさに「迷宮」らしくなってきた「赤」に、更なる変化が訪れるのか。ウィルフレドは髭をそっと撫でると、マリートへ向けて問いかけた。

「十三層にはなにがあるのですか?」

「罠がある」


 直線で描かれた迷路に、魔法生物の出現、仕掛けられた罠、気紛れに現れる便利な道具。ラディケンヴィルスの地下にこしらえられた迷宮の基本が「橙」だとしたら、「赤」はその上位版だと言えた。曲がり角は増え、敵は強くなり、罠の仕掛けは難しく、落ちている道具もより有用なものになっている。だが、捻りはない。他の色のような邪悪さや工夫はなく、基本に忠実な造りを貫いている。


 マリートの口調は静かで、穏やかなものだ。故に、ウィルフレドは強い禍々しさを感じた。


「とにかく今日はここで終わりだ。よく休んでくれ」

 夜明かしの準備も、食事も、なにもかもが手早く進んでいく。ベテランの探索者たちは初心者になんのアドバイスもしないまま、さっさと横になってしまった。


 ウィルフレドの中に不安はない。だが、緊張はあった。


 剣の腕には自信がある。全盛期よりも衰えたとはいえ、体力もまだまだ。充分行ける、はずだった。あとは経験。迷宮に入った回数はまだまだ、足りない。だが、これまでの人生で何度も戦い、何度も勝ち、何度も負けた。成功も失敗も、幸せも、苦渋も、噛みしめてきた。

 ここが最期の地だ。自分が望んだものがある。そう信じてやって来て今、望みが叶おうとしている。彼らと共に行けなければ、意味がない。


 胸のうちにともった炎を持て余しながら、ウィルフレドは目を閉じた。

 眠ろうと思えばどこででも寝られるはずが、精神(こころ)が昂っているのか、短い夢を見ては起き、また短く奇妙な夢に囚われては起き、を繰り返した。目を開ければ紅の天井があり、隣で眠っているのはまだ知り合ったばかりの、自分よりもずっと若い探索者たち。

 眠るのは諦めて体を起こし、ウィルフレドは目の前に伸びる赤い通路を見つめていた。


「眠れませんか?」


 いつの間に目を覚ましたのか、振り返るとキーレイが立っている。

「目が覚めてしまいまして」

「安心しました」

 神官はまた笑う。何を安心したのか問うと、キーレイは慌てたように手を振りながら答えた。

「いえ、あなたも緊張するのだなあと思って」

 ごく普通の初心者ならば、わずか一ケ月で「赤」の踏破など目指せないし、目指さない。キーレイの言葉に、ウィルフレドは苦笑いを浮かべている。

「これまでの経験だけではとても対応しきれない場所です、迷宮(ここ)は」


 キーレイは穏やかな表情で頷き、微笑みを浮かべた。

 当たり前のように仲間の一員になっているが、目の前の神官は明らかにマリートたちとは人種が違うように思える。ウィルフレドは口を開きかけたが、質問をそっと飲み込んでじっと床を見つめた。

 探索者の過去は問わない。彼らはウィルフレドの過去を探ろうとしない。ただ、今、共に行けるかどうか。問題はそれだけの、単純(シンプル)な世界を作ってくれている。


 だから、少し早起きの探索者の会話は当たり障りのない話題――、つまり迷宮の話になる。


「十三層には罠があるとマリート殿は言っていましたが」

「そうですね。私も全容を知っているわけではありませんが」

 「赤」の中で次の層は特殊な場所だとキーレイは言う。十三層のある場所には「あからさま」な宝が用意されており、それを取りに行こうとすると罠が大量に待っているらしい。

「すべての罠が連動しているので、一つでもひっかかれば大変な目に遭うのです」

「そこを抜けなければ下へは行けないのですか?」

「いいえ。避けて進めば、すぐに階段がありますよ」

 余りにも「良いもの」が、「手の届きそうな場所に置かれている」のが罠なのだ、とキーレイは話した。

「足を踏み入れたことは?」

「神官ですから、一歩手前辺りで待っているんです、いつも」

 なるほど、とウィルフレドは頷いてみせる。

「長い時間誰も帰って来ないと不安になります」

「帰ってこなかったことは?」

 ありません、が神官の答えだった。

 なんと幸福な話だろうと、髭の男は微笑んでしまう。

「マリートは失敗した経験(こと)があって、その時はカッカー様に助けられたそうです」

「なるほど」

 スカウトの失敗が後ろに続く誰かに降りかかるような構造になっていると、説明は続く。

「いつも一人で待つのですか?」

「一人か二人か、その時によります」


 共に剣を振りながら進んでいるのはマリートだけだ。ニーロには魔術という戦う技があり、ロビッシュも幅の広いナイフを腰につけていてそれをうまく使いこなせるらしい。まだ、目にしてはいないが、そう聞いている。

 キーレイの実力はどの程度だろう。体格は悪くない。それほど逞しくはないが、頼りなくもない。それとも、神の力を借りて敵を消し去るような術があるのだろうか?

 ウィルフレドの思いが伝わったのか、神官は苦笑いを浮かべながらこう話す。

「戦いは得意ではありません。ニーロがあの線を描いて、その中でなんとかやり過ごすんです」


 こんな他愛のない話をぼそぼそとしている間に、通路の向こうを何体もの魔法生物が通り過ぎていく。

 そのたびにウィルフレドは剣に手を伸ばして備えたが、彼らは皆探索者たちに気付きもせず、去っていくだけだった。ニーロの描く線はおまじないの域を超えて、仲間を力強く守ってくれている。


 やがて他の三人が起き出して、三日目の探索の準備が始まった。

 途中で倒した鹿の肉をマリートが手早く調理していく。ニーロの出した炎であぶる様子を見て、魔術師がいかに便利で万能な存在か、ウィルフレドは思い知っていた。

 かつて働いていた場所に、魔術師だと名乗る人物はいた。だが、彼は自分の主にこそこそと耳打ちするばかりで、火や水を出すことも、風を吹かせることもなかった。


 目の前で灰色の髪が揺れる。肩よりも伸びたまっすぐな長髪が、ニーロにはよく似合っている。ウィルフレドはそう思ったが、マリートは「伸びすぎだ」とぶつぶつ文句を言った。しょっちゅう言われているらしく、ニーロはうんざりした顔を作ると、地上に戻ったら切ると約束をした。


 保存食と現地調達された食料を腹の中に収めると、この日の探索が始まった。

 すぐに下りの階段があって、一行は件の十三層に足を踏み入れていた。


「今日は何が用意してあるかな?」

 マリートは嬉々とした表情で仲間達を振り返る。

 足取りは軽やかで、とてもこの層で命を落とした者とは思えない。


 階段を降りてまっすぐ、まっすぐ。やがて左手に、曲がり角が見えてくる。

「このままずっと道なりに進めば、十四層に辿り着く。この通路には敵が出ない」

 剣士はそこまで話すと、ニヤリと笑った。

「曲がればお宝が待っている。なにがあるかは、その時によって違う。俺としては、やってきた愚か者がよだれを垂らして欲しがるものをわざわざ用意してくれていると思う。なあ、ニーロ」


 十三層はご褒美の階。マリートは上機嫌でこう話す。階段を登って少し歩けば癒しの泉があるから、多少のダメージはすぐに治して下を目指せるのだと。

 だから剣士は、迷うことなく左へ曲がった。ウィルフレドもついていく。後ろでキーレイが小さくため息をついたような気がしたが、確かどうかはわからなかった。

「見ろ、ウィルフレド」

 通路の先には銀色の輝き。眩い光を放つ防具一式が、突きあたりに置かれている。

「歓迎されているぞ」


 「行くな」と言う者はいない。それどころか、三人は明らかに行く気でしかないようだ。責任が最も重いであろうロビッシュは腕をぐるぐると回して、さっそく通路へ入り込もうとしている。


 曲がった先はさほど長くない通路で、置かれた防具の輝きはもうすぐそこにある。

 ロビッシュがゆっくりと地面を這うように進む姿を、ウィルフレドは眺めていた。

 このまままっすぐ、ではなく、巧妙にしかけられた罠を外して、ぐるりと遠回りをしてようやく手に入るはずだ。背後ではニーロが待合室を作り終わって、追いかけてきたところらしい。若い魔術師の足音は、スカウトの神経に触らない静かなもので、これもまた迷宮をすすむ技術のひとつなのだろう。

「右の壁が開く」

 ロビッシュの発言はいつでも突然で、壁も唐突に口を開けていた。

 壁の真ん中にぽっかりと開いた穴へ入りこむと、それまでとは違った薄暗い空間が広がっている。そこでも目を凝らしながら、スカウトの男は這いずり回りつつ進んでいく。


 先頭はロビッシュで、続こうとしたウィルフレドをマリートが制した。

「二番手が一番ヤバいんだ。だから、俺が行く」

 もちろん、初心者に対する「親切心」などではない。

「あんたなら俺一人くらい運べるだろう?」


 前を往くマリートの背中の向こう側に、かつて共に戦った男たちの姿が重なっては消えていく。


 世界が変わったのだと、ウィルフレドは感じた。

 思い出に心を馳せている暇はもうない。

 狼狽えず、諦めず、倒れない。

 自分がどれほど得難い人材か、今ともにある四人に示す。今しているのはそういう旅だ。


 だからウィルフレドは、素直に頷いた。

 マリートが振り返って放ったこの台詞に黙って頷いて、剣を抜いた。

「ウィルフレド、今回のご褒美はお前のためのものだから、お前が倒せ」


 マリートの向こうに浮かび上がっている影。薄暗い通路の先にはぽっかりとあいた空間(スペース)が用意されていた。そこはきっと、闘技場だ。のこのこと迷宮の奥へ、宝欲しさにやってきた愚か者と、特別に用意された強敵が戦わされる場所。


 影の周囲に漂う白は、荒い息遣いか、それとも闘気か。


 待っていたのは、ウィルフレドよりもずっと大きな、馬の姿をした魔法生物だった。

「馬と戦った経験は?」

「残念ながら」

 地上にいる馬と同列に語るには少しばかり無理があるだろう。一回りどころか、倍ほどの高さがある。脚はまるで丸太のようだ。


「そいつの蹄は高く売れるんだが、初めてだからな。いいぜ、採れなくても」


 背後から聞こえる仲間たちの「他人事」は、初心者の心に雨を降らせる。

 冷たく激しく降り注ぐ豪雨だが、渇いた心にとっては「恵み」だ。激しくとも雨は、雨。潤い、満たしてくれるものに違いはない。


 赤い小さな部屋で、巨大な馬は動き辛そうに見えた。全速力で走ればすぐに壁にぶつかる。最初にそんな予想をした自分を、ウィルフレドは恥じた。

 いななきと共に駆け出した魔法生物はまるで稲妻のように戦士を打ち抜き、自身へのダメージなど考えもしないのだろう、野生の赴くままに、敵と一緒になって壁へ衝突している。挟まれるという最悪の事態はなんとか避けて、床を転がりながら体勢を立て直していく。相当な勢いでぶつかっただろうに、馬はひっくり返ってもいないし、フラつく様子もない。戦士同様、壁から離れてまっすぐに立っている。

 魔法生物から殺気は放たれないようだ。明らかに殺しにかかっているにも関わらず、彼らから邪悪な気は出ない。人工的に作られているものだと思うと、ニーロは語っていた。彼らには意思はなく、ただただ命令通り、足を踏み入れた人間(愚か者)を排除していくのだろう。

 次の突撃をギリギリでかわしながら、ウィルフレドは剣を振るった。今は獣になる時間だ。相手に「倒す」以外の意思がないのなら、自分もそうあらねばならない。


 だが、放った剣は馬のごくうわべの皮を切っただけで、ダメージを与えた様子は見られなかった。怒りもせず、慄きもせず、奇怪な魔法生物はまた巨体を全速力でぶつけてくる。

 左に飛んで避けると、馬は仲間達のいる通路へ突っ込んでいった。

 光が爆発し、部屋を真っ白に染め上げる。ところどころに迷宮の赤がまるで血しぶきのように煌めいている。不吉な光景だが、裏腹に心は躍る。


 戦いに巻き込まれた魔術師はいつも通りの表情で、冷静に馬を弾き飛ばした。

 巨体は逆側の壁に激しく打ち付けられた。だがすぐに立ち上がり、前足を蹴って既に攻撃の態勢を整えている。


 体を低くして、ウィルフレドは剣を構えた。

 視界の端で赤を捕える。激しい爆発や激突があったにも関わらず、迷宮の壁も床も崩れてはいないようだ。死体や落とし物、血も尿も消し去るというこの場所は、タイルが欠ければそれも修繕するのだろうか。そもそも壊れたりはしないのか。しないのだろう。そうでなければ、通路や扉を隠しておけない。壁をぶち抜く暴挙が許される場所なら、迷宮のルールにのっとった探索など必要ないはずだ。


 突っ込んできた巨体をぎりぎりで右に避け、胴体の下から思い切り剣を突き刺す。が、やはり浅い。馬は思い切り壁に当たり、憤怒のいななきを響かせている。借りた剣は半端に刺さって奪われてしまった。もう一本、腰に短剣がある。即座に抜けば、敵はもう目の前。

 体をねじるようにして飛び掛かって来た馬の横っ腹を、のけぞりながら切り裂いてやる。


 マリートと同じように、たくさんの剣を持っていた。買ったものも、与えられたものも、譲られたものもあった。だが連れてきたのは今この手にある短い一本だけ。特別な力はない。ただ、遥か昔に、人生で初めて受けたささやかな栄誉についてきたオマケだ。

 今の自分の手にも、目の前で跳ねる荒々しい獣退治にも似合わない短い剣。だが今はこれしかないので、仕方がない。腹の皮を切り裂きつつ、舌打ちをしながら離れていく。 


 騎馬で戦った経験はある。だが、馬そのものと対峙する機会はこれまでになかった。

 なので、傷を負って怒った馬がどれほど暴れるか、後ろ足を跳ね上げる力がどれほど強いのか、ウィルフレドは知らなかった。ましてや、迷宮の中を跋扈する「魔物」だ。


 離れきる前に巨大な馬の後ろ足が力いっぱい伸びてきて、探索初心者の男の脇腹を打つ。

 紅の壁に叩きつけられ、頼りない短剣が音を立てて落ちた。壁に背をこすりつけながら踏ん張って、ウィルフレドは胸に溜まった空気を一気に吐き出し、気合を入れる。

 動く気配は二つだけ。

 自分と敵の、二つだけ。

 落ちた短剣を拾って握りしめ、突進してきた暴れ馬をかわす。魔法生物は壁に思い切りぶち当たったが、倒れる気配はない。瞬時に体を跳ね上げて、たった一人で戦う男に向けて迫る。

 再び壁に打ち付けられ、息が止まってしまう。


 ウィルフレドは思わず、短くだが、声を出して笑った。

 現状と、「あの頃」との差は思ったよりも大きかったと。だがその更に向こうへ目をやり、立ち上がる。


 自分は、初心者である。

 初めて対峙する獣を、どう捌けばいいのかなど、知らない。


 飽きもせずに迫りくる馬の体を、今度は避けずに、真正面から首にしがみついて、そのまま壁に挟まれ、それでも腕をほどかず、左足で床を蹴って、大きな背によじ登り、ついでにブラブラと揺れていた柄を蹴って長剣を落とし、短剣を首の根元に突き差して、狂ったように暴れる巨体から振り落とされ、踏まれないように転がって避けながら、借り物の剣を拾う。


 威嚇の動き。後ろ足で立ち上がりながら叫ぶ馬の前足を、すかさず切りつける。舞い散る血の霧を幾度も剣で払うと、とうとう魔法生物は倒れた。

 血の混じった咳を一つしながら、ウィルフレドは倒れた馬にまたがって、とどめを刺していく。


 鎧のような筋肉に阻まれながらも何度も何度も突き刺すと、ようやく命の炎は消えた。

 だが勝者も疲労の大波に呑み込まれて、がっくりと冷たい床の上に倒れ込んだ。

 

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