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十一月十日。
ラキとまるもちの三人で音声通話アプリのグループを作った。グループ誕生経緯は、かなり複雑だった。ツイッターでスペースという不特定多数の人にラジオを聞かせるようなシステムができた。生配信するとリスナーが集まり、そのリスナーが発言権を希望して、ホストが承認をすると音声通話に上げることができる。雑談をするのには、なかなかスリリングで楽しい機能で、毎日入れ代わり立ち代わり知らない人と知り合っていくことは、はじめての体験だった。といっても、完全に知らない人が来るわけじゃない。主に来るのはツイッターのフォロワーさんだ。ツイッター上では文面でコミュニケーションを取っていたので、実際に会話してみると、性別の誤認があったり、そもそも私も男のふりをしてツイッターをしていたので、お前女だったのかよと驚かれたりして面白かった。
ただ、厄介な人もいて、プロの作家さんだからと安心していたら、次々にアマチュア作家をナンパするような人だったり、そもそもまったく知らない人もスペースにやってくるわけで。まじめに小説の書き方を私とラキの二人で話しているのに割り込んで来た男性が、カラオケをはじめるというカオスな状態になった。ネット上のつき合いとはいえ音声通話中にカラオケ音源含め、音楽を流すことは著作権侵害にあたる。人のスペースでやめて欲しい。
私、ラキ、まるもちのほかに二名が増えて五人で通話することが多くなった。
私はたいてい、風呂上り後、執筆前のだいたい夜八時から九時ぐらいに音声通話を開始する。別に私が開始しなくても、ラキやほかの二人がはじめることもあった。途中から話に参加するだけでいいので、毎回違う話が聞けて新鮮だ。なにも執筆の話ばかりするわけじゃない。お互いの趣味や家族構成にまで踏み込んで話した。
ニ三日して、ほかの二人がスペースに入って来なくなった。見れば、ほかのフォロワーさんのスペースに遊びに行っている。スペースの困ったところは、フォロワーがスペースを開始したら、それが見えるところ。良くも悪くもお知らせが来るのだが、わたしたちのグループから抜けているのが丸わかりだ。別に私たちだけと仲良くしてもらわなくてもいいけれど、私たちより価値のある話をする仲間ができたのか? と不安になる。
ホストは絵師さんでほかの二人はそちらへ入り浸っている。小説より絵を描く方が好きだと言っていたから、そちらで絵の話でもしているのだろう。
一時的なものだろうと思って、二人のことは放っておいた。それに、私のリスナーさんはご新規さんと、帰る人と出入りが激しく、いなくなった二人にはかまっていられない。私、ラキ、まるもちのスペースの開始時間は毎日ばらばらだったので、ラキのフォロワー、まるもちのフォロワー、私のフォロワーが入り乱れてやってくるので接待しないといけなかった。「はじめまして焼肉三昧さん。ラキさんのフォロワーさんなんですか? 気軽に発言して下さいね。リスナーのままでいいんですか? いつでも発言に上がって来て下さいよ」
十一月二十九日。
狂っている人がスペースに入ってきた。とあるライトノベルの新人賞の一次選考通過者の発表がホームページ上であった日だった。はじめて見る顔で、いきなり発言権を求めてきたので、度胸がありそうで面白そうな人だなと思って、即『承認』ボタンを押したら、いきなり歓声を上げて入ってきて、「〇〇賞の一次選考を通過しましたー! ラキさん、まるもちさん、中村アベレージさんはこの賞に応募したことありますか?」ともうプロデビューしたかのようなテンションで話しかけられた。
ラキはないと言い、まるもちは今回応募して駄目でしたと素直に、悔しさを感じさせないでさらっと答えた。私は去年応募したけど駄目で、今年は送っていないと答えた。すると、歓声の訪問者は「やっぱり、俺ってすげーんだ」と満足そうにして退出して行った。
「ほんと、今の笑えるよね」とラキがまるもちに同意を求めた。
まるもちは「嵐のような人でしたね。それとも、台風ですか?」
「ほんとそれ」
私も「人のスペースに入って来てまで自慢しなくてもいいのにね」と言うと、ラキはまるもちに「まるもちの短編思い出したよ。宝くじが当たって自慢して回る男の話」と私のことは興味なさそうにまるもちに話を振る。
まるもちは奥歯の方から息を吐くようにして笑った。
「あれっぽいんですかね?」
私はまるもちのその短編小説を見せてもらっていなかった。見せてくれるときは、スペースに小説投稿サイトのリンクを貼ってくれていた。私の知らないところでラキと作品を共有したのだろう。別に小説仲間だからって、すべての作品を三人で見せ合う必要はなかったし、アドバイスをし合う暗黙の了解があったわけでもない。それでも、ずっと三人でやってきたのだから、短編でも、まるもちの作品を読んでおきたかった。だから、まるもちに催促してみた。
「私もその作品読みたいな」
すると二人が声をそろえて「えー」と嫌そうにする。私は二人に何か悪いことをしただろうか? どう言えば読ませてくれるのだろう。やはり下手に出ていた方がいいだろうか。
「前さ、私の短編ファンタジー小説読んでくれたよね? お返しにそれ読むよ」
そう言うと断れないだろうと思った。しかし、まるもちは悩んでいるのか、唸っている。
「中村には理解できないと思います。元ネタは落語ですし。落語は興味ありませんって言ってませんでした?」
「落語なんだ。でも、元ネタってだけなら、知らなくても楽しく読めるよ」
「いや、僕は評価が欲しいのであって、楽しんで読んでもらいたいわけじゃないんですよね」
「そうだよ中村。まるもちの作品は中村の読解力じゃ、読んでもたぶん理解できないし、面白くもないと思う」
どうして読む前から否定されなければならないのか。馬鹿にされているようで胸の内にしこりのようなものができた。
まるもちとラキが親密になりはじめたのは、このころだろうか。まるもちは家族構成を言わなかったが、よく読む漫画だと教えてくれた漫画が古い漫画だったので、その年代からおそらく四十代から五十代の独身男性だと推測した。
独身男性が夜になると音声通話を終了する。決まって、深夜十二時頃だ。見たいテレビ番組があるわけでもないらしい。理由を深く聞く必要もない。小説でも書いているのだろうと思った。
深夜になって私は布団に入る。寝つけなくて、ツイッター上でうろうろしていると、ラキがスペースの部屋を立ち上げているのに気づいた。その中には当然のようにまるもちが入っていた。




