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  作者: アワヨクバ
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 ランディはもう無理かもしれないと思った。今何十回目かのタイムリープ中だ。もしかすると、百回を超えているかもしれない。目覚めるのは決まって、海に面した洞窟の中だ。友人のアルフレッドは、洞窟内の湧水で何も知らずに水浴びをしている。頭まで潜って、すぐに浮かんできてこう言うのだ。


「ぶはっ冷たい」と。


 聞き飽きた。


 洞窟内は真夏の太陽も届かず鬱蒼としており、なおかつ自分たち二人だけの声しか聞こえない静謐な場所でもある。ここからランディは記憶を徐々に呼び覚まし、彼らの町が大火に見舞われてしまうことを予見する。




 きっと、これから書き上げる新作も落選するのだろう。そう思うと執筆の意義が感じられず何もかも投げ打ってしまいたくなる。いや、捨てるのは無理だ。では、最適な言葉は?


 落選するだろうから、もう書きたくないが正しいのか? いや、それもおかしい。書きたくないのに私は書いていることになってしまう。執筆は義務だ。私の好き嫌いに関わらず、午後の九時から十時の一時間だけは必ず執筆する。これは、娯楽でも趣味でもなく私がプロデビューするための訓練だ。


 ならば、私は落選すると分かっていても駄作を送りつけていることになる。その意味は?


 審査員に私の駄作で時間を費やさせ、こんな作品を送りつけてくるなと、苛立たせ痛い目を見させたい? そんな馬鹿な。


 いや、そもそも一次選考は下読みというバイトまたは新人作家が選考することが多いはずだ。編集や看板になっている選考委員会の面々には二次選考、または三次選考と高次選考に進まなければ目を通してもらえない。


 それでも、私は下読みという、どこの誰とも分からない人に嫌がらせがしたいのだろうか?


 仮想敵なのかもしれない。どこの馬の骨とも知らぬ誰かが私の作品を鼻くそをほじりながら、最初の十ページ、もしくはもっと少なくて二ページほど読んでゴミ箱に捨てている可能性もあった。たぶん、今はコンプライアンスでシュレッダーが基本かもだが。


 小説の新人賞の採点は減点方式だ。仮に文章にいい部分があっても加点はしてくれない。仮想敵である下読みは私の作品の誤字脱字を見つけてペンでマイナスをつけていくだろう。私が良い表現方法や言葉を見つけられずに、悩み抜いてやっと書けた一行も不必要と判断されるかもしれない。いや、三日もかかった冒頭のシーンで駄作認定をしているかもしれない。


 渾身のラストシーンに辿り着くこともなく途中で減点数が一定のラインを超えて、私の原稿を捨てるまで行かなくとも、机の隅へ投げやっているかもしれない。


 どんどん、悪い方向へ考えてしまうというよりは、少しでもましな投げ捨て方をされたいと願っている。


 新しい作品で恨みを晴らすべきだ? 私は恨んでいるのか? だとしたら、誰を。下読みをだろう。誰か分からない人間を恨むのはなかなか難しい。


 人を恨むには顔が必要だ。あるいは態度が。無碍にされた私の作品は一体、どんな意味を持つというのだろう。主人公は私の分身だ。内気なくせに負けず嫌い。理不尽を嫌うが、世界がどうしようもない理不尽で溢れかえっていることに気づき始めている少年。今まで世界は性善説的で、白一色だった。善も悪もない。悪とは善人の中にあるものだと信じていた。


 台風や津波は自然災害だが、私は自然災害とは呼びたくない。理不尽な悪だと思う。人間の利害を強制的に断つという意味では自然は悪だ。悪はイコール理不尽なものだと私は思う。


 このあと私の小説の展開では、ランディは親友のアルフレッドを炭鉱で見つけたダイナマイトで死なせてしまう。これでいいのだろうか?




 ランディはもう一度死のうと思った。タイムアップで自動的に死ぬとはいえ、自発的に死ぬことで早く次のタイムリープの冒頭に向かいたかった。




 私はため息をつく。手元に置いていたカフェラテが冷めていた。


 タイムリープしているランディは何度も時間の中から脱出が成功するまで、色々な方法を試してやり直すことができるが、私はそうではない。ランディは時間に囚われているが、私が失敗すると私の時計は落選した事実を刻みながら確実に進んで行く。私は年を取る。おばあちゃんも老衰した。




 私より年下の二十代や十代の人がコンテストで受賞したり、書籍化が決定するのを発表欄やSNSで見ると、自分の喉をかき切るイメージが私の眼前にちらつく。


 もし実行に移していれば、私はもう何度死んでいるだろう。


 私の作品はユーチューブで創作論を話しているプロ作家さんの話によると、経験値として溜まっていくらしいが、その落選作そのものが評価されて本屋の棚に並ぶことはあり得ない。


 落選作を書店の棚に押し上げるためには、何等かの形で私がプロデビューし、ストックとして残っている落選作品群を編集に見せて「こういうのもあるんですが、どうですか」と提案するしかないだろう。


 そのためにもプロデビューしなければならない。


 何か自分だけが特別になれるものが必要だ。例えば行先不明の切符とか。


 私の欲しいその切符はきっと血の色をしている――なんてことを書くから、中二病で、落選するのだろうか。

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― 新着の感想 ―
>私の欲しいその切符はきっと血の色をしている いいフレーズに感じますけど。 また、受賞歴や書籍化歴のない下読みさんの存在が疑問ですね。
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