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ランディはさすがに、今度こそ、本当の『無理』かもしれないと思った。タイムリープの回数もさだかではなくなってしまった。
自分がランディたらしめているものは何か。自我はあるが、ランディは自分で自分のことを説明する場合に何回目のランディであると説明すべきだと無意識に思っていた。だが、タイムリープ回数の分からない自分は、n回目のランディであって、一回目のランディでも二回目のランディでも、百回目のランディでもない。
海に面した洞窟の中で友人のアルフレッドは、湧水で何も知らずに水浴びをしている。
「ぶはっ冷たい」とn回目のアルフレッドが言う。
聞き飽きたその言葉に何か意味があっただろうか。
これからランディらの町が大火に見舞われるというのに、何度タイムリープしても阻止する方法が見つからない。
ランディは顔を両手で覆って、涙を隠した。アルフレッドはそれが、湧き水で顔を洗っているように見えたのか、妙に大人しくしていた。アルフレッドが押し黙るのはn回も繰り返した同じ日の出来事の中でははじめてだった。だが、ランディはそれには気づけない。
ランディは憂いていた。自分の中に滴る水と、自分を満たすそのどす黒い色に自惚れた。
こんなに不幸なのに、どこにも逃げ場がないと思った。学校ではいじめられる。先生は根本的な解決策を見つけてくれないし、校長先生はいじめなどなかったことにしたがっている。
唯一の理解者であるアルフレッドは学校に通うお金がないので、牧場で牛の面倒を見ている。いつも牛臭いアルフレッドが最近できた女の子の友達のために、こうして洞窟で水浴びするようになったのは一週間前のことだ。n回目のランディにはもう一週間前など、遠い昔だ。
同じ時間に閉じ込められているアルフレッドの関心ごとは、町の火事ではなく、その女の子のことなのだ。ランディはこれから起こる未来の火事に彼の注意を向けさせようとして、失敗している。
ここまで書いて私は煩悶し、席を立ち、冷蔵庫から猛暑日のためにと買って結局食べることなく、真冬まで残ったアイスを取り出す。
自分の為のセルフご褒美に預かりながら、ふと、『落選』の二文字が頭をかすめた。
ランディは結局、アルフレッドが女の子になびくのを阻止したいのか、自分の町を救いたいのか。
私の設定したタイムリープはとても頑強な牢獄で、何か謎を解けば解決するような類のものではない。
十代のランディはやがておじいさんになる。アルフレッドも同様だ。この話は実はタイムリープしているとはいえ、肉体は年を取っていく。生身の肉体は時間の経過に耐えられない。
アルフレッドはランディといっしょに成人して、はじめてランディが伝えようとしていたタイムリープの恐ろしさに気づく。そのころにはランディは正気を失うが、アルフレッドは成人になってから好きな女の子を求めて、捕らわれた時間の中でランディから離れていく。
私は急に何もかも書きたくなくなった。
アルフレッドは主人公ランディを食う勢いで活躍し、女の子を気が狂うほどに探し求めるだろう。
私はおじいさんになるよりも前の成人段階で、疲弊したランディを描きたい。若くして夢も希望も失ったランディがおじいさんになる前に自死を求めるファンタジーを描きたい。
でも、それは私の可能性も閉ざしてしまうだろう。
n回目の落選を回避するためには、読者の望む能動的な主人公が必用だ。それは、私の描きたいランディではなく、おそらくアルフレッドの方だろう。




