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第21話 支援魔術師、地下闘技場で囲まれる!

 隠し通路の先には、監獄のような場所があった。広大な円形の広場を囲うように、鉄柵の牢屋が並んでいる。


 その牢屋の上側には、劇場の座席のようなものが広場をぐるりと囲うように設置されていた。


「か、監獄? ──え!? 魔物!?」


 ミアは鉄柵の中に魔物が閉じ込められていることに気がつく。


 閉じ込められている魔物は、ゴブリンが一番多いようだ。他にはオークやダイアウルフなどちらほら見える。


 レイナが呟く。


「恐らくですが、ここは地下闘技場。古代に禁止された剣闘技ですが、その後もしばらくはこうした地下の闘技場を使って興行を打っていたようです」

「それがどうして、魔物の住処に」


 困惑するミアに、レイナが答える。


「魔物を使った催しでもしていたんでしょう。人間同士だけでなく、ね」


 レイナは観客席のほうを見上げた。


 そこには数名の人間の男たちがいた。商人風の装い。皆、目を丸くしてこちらを見ている。


「ま、まずい! 役人だ!!」

「ど、どこから入ってきたんだ!?」

「いいから早く消すんだ!! 入り口閉めて、檻を開けろ!!」


 その言葉が響くと、俺たちが通ってきた通路の入り口が鉄柵で閉ざされてしまう。


 一方で魔物たちが閉じ込められていた牢の扉が開かれ──魔物たちが襲いかかってきた。


「う、嘘!?」


 近衛騎士の二人は慌てて武器を構える。


 しかしミアは落ち着いてこう答えた。


「大丈夫! あたしたちにはトールさんがいるから!」


 そう言われるとなんだかむず痒い。


 だが今は恥じらっている場合ではない。それに、そこまで信頼してくれるミアや、レイナに格好悪いところは見せられない。後ろでは、俺の支援魔術に興味がある子も来ているしな。


「ミアたちは敵を惹きつけてくれ! 俺が支援魔術を! レイナが剣で攻撃する!」

「いえ、先生、私が──っ!」


 何か言いたげなレイナだったが、すぐに迫り来るゴブリンへ刀を振るった。


 一方の俺は、ミアを始め近衛騎士たちに【加速】と【鉄壁】をかける。


「おっ!? なんかすごく速くなっているんですけど!」

「いつもの数倍の速さで動けるわ!」


 近衛騎士たちは風のような速さでゴブリンに剣を振るう。


 一方のミアは、腕力に優れるオークを惹きつけてくれた。


 敵に強力な魔物はいない。殲滅できるのが遅いか早いかの違いでしかないな。


 なら、さっさと片付けるまでだ。俺は魔物たち全体に、【遅延】をかける。


 するとそれに呼応するかのように──レイナが走りだす。


 レイナが通り過ぎる横で、バタバタと魔物が倒れていく。どの魔物も、首に一本だけ傷がついていた。


 二十秒もしない内に、三十以上いた魔物は皆倒れてしまった。


「す、すごい」


 レイナを見て思わず息を呑む近衛騎士たち。


 俺も気がつけば、パチパチと拍手をしていた。


「本当にすごい……」


 一方のレイナはハアと溜息を吐き、何故か憂鬱な顔をしている。


 結局レイナ頼りになっちゃうんだよな……呆れられているのかも。


 そんなことを気にしていると、観客席のほうから震え声が響く。


「う、嘘だろ……こんなにあっさり」

「べ、ベーダ……いや、ボスを呼ぼう!」

「よ、呼んだところで──ひっ!?」


 男たちは何かに怯える。その視線の先には、ルーナがいた。


 ルーナはこちらに目も向けず大声を上げる。


「ああ、せっかく来たのになー! なんで先にあいつらがいるんだろう!」


 なぜ大声で言うのかわからない。それにルーナのやつ休んでいたんじゃなかったのか。しかも、いつの間にか閉じられていた入口に鉄柵が破壊されていた。


 ともかく、ルーナが観客席のほうを制圧してくれたみたいだ。


「……降伏しなさい。もう衛兵も呼んでいるから」


 ルーナが杖を向けると観念したのか、男たちはその場に腰を落とした。


 やがて衛兵たちが地下水道のほうの通路からやってくる。階段を上がり、男たちを逮捕するらしい。


 ミアは上機嫌な顔で言う。


「さすが、宮廷魔術師の方々は仕事が早い」

「一人は宮廷魔術師ってより、剣士だけど……」


 近衛騎士の一人がレイナを見ると、レイナはこちらに顔を向けて言う。


「先生! 先ほどの魔術、本当にお見事でした! あれだけ速く動けたのは、ただただ先生の魔術のおかげ!!」


 レイナはそういうが、俺は皆に同じ魔力で【加速】をかけた。ほとんどあれは、レイナの速さによるものと言っていい。


 近衛騎士たちもあっと何かに気がつくような顔をする。


「確かにすっごく速く動けた」

「おっさん、さっきの魔術なんなんですか?」


 興味深そうに聞いてくる近衛騎士二名。


 レイナが呟く。


「知りたいなら、今度先生の授業を聞きに来てください!」

「ふーん。じゃあ今度行ってみようかな」

「時間があったら行ってもいいかも」


 そう呟く近衛騎士二人。


 俺としては興味を持ってくれただけでも嬉しい。でも、ずっと俺をつけてきた子は気がつけばいなくなっていた。


 ありゃ。飽きちゃったかな……


「トールさんの授業聞きたいなら、あたしの許可がないとダメだからね。ともかく、私たちも上行って施設の捜索手伝うわよ」


 ミアはそう言って、観客席のほうへ上がろうとする。


 俺たちもそれに続こうとするが……


「──うん?」


 俺は牢屋の一箇所に、微かな魔力の反応を感じた。


 魔物の生き残りだろうか。


「先生?」


 レイナの声を背に、俺は牢屋に近づく。


 すると声が聞こえてきた。


「ワレに気づくか……人間」

「人? ──いや」


 牢屋からは、先ほどの曖昧な魔力ではなく、膨大な魔力の反応が返ってくる。


 魔力の反応はゆっくりとこちらに歩き、その姿を露わにした。


 金の装飾が入った黒のローブを身に纏った骸骨。手には黒檀の杖が見える。


「リッチか──」


 俺たちの前に、新たな魔物が現れるのだった。

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