第八節 王の証明 3話目
二刀流――この段階で既に抜刀法の壱式から参式はほとんど使えない。つまりは抜刀状態でしか使えない肆式ぐらいが唯一まともに抜刀法として運用できる。
だが知っての通り、肆式では相手のLPはゼロにできない。つまりはとどめを刺すことはできない。そうなれば二刀流の運用は何が正解か?
――答えは簡単。大殺界による死式への変化。つまりは相手を必ず殺すと決めた時にしか、二刀流は使いものにならない。
止めを刺せない戦い方など、必要ない。
「…………」
今にも戦いは始まりそうな空気だが、まだ一人邪魔者がその場に残っていることを互いに理解している。
「ふっ、ふざけるな!! 今の貴様を前にして、アイゼがどう勝てるというのだ!!」
そしてガイデオンは俺の姿を見て危険度を一発で見抜いたようだが、当然ながら俺はガイデオンがこの場にいる限り、仕掛けるつもりはない。
「何度も言わせてもらいますが、見苦しいですよガイデオン。初代刀王との一騎討ちに泥を塗るつもりですか」
「泥を塗る塗らないではない!! 貴様では勝てないと――」
「勝てる勝てないでやる戦いなのですか、これはッ!!」
「っ……!」
誰もが分かっていることだ。これがアイゼではなく自分自身が前に立っていたとしても、同じことだ。
「……俺の手を借りないというなら、倒した証明にそいつの素っ首を持ってこい。必ずだぞ」
「……ええ、必ず」
そうしてガイデオンがその場を去り、民衆もまたガイデオンの時以上に感じられるただならぬ空気を察知してか、蜘蛛の子を散らす様に姿を消していく。
ラストは……どうやらジェイコブを無力化したのか上手くまいたのか、遥か上空で俺達が一騎討ちをするのを見聞きしていたようだ。上空から感じる気配からして、戦いに乱入せずに見届けてくれる様子。
「……戦う前に一つだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
遥か上空にラストがいることを分かっているのかはさておき、アイゼはこの場で俺と二人きりになったことで、初めて問いを投げかける。
「俺が本当に王を殺したかどうか聞きたいのか? だとしたら答えはノーだ」
「冗談はよしてください。そんなことを聞くくらいなら一騎討ちを申し込みません」
「だったら何だ? 端的に答えられるものなら答えるが」
「……貴方にとって、王とはどういったものだと思いますか?」
それは導王の事を指している訳ではないと、俺は問いの意味を理解した。
――かつての初代刀王として。王という立場が何なのかを、王の存在の意味を俺に聞いている。
「……その問いには、すぐには答えられない」
「だったらなぜ、刀王の座に貴方はついたのですか?」
「それは……」
ゲーム的には、王の座につくことで特殊なスキルが解放されるから――それがすべてになる。
だがこの時にアイゼが聞いていたのは、この世界にプレイヤーとして現れた存在としてではなかった。
この“世界”そのものに住まう者にとっての、玉座に座ることの意味を聞いている――そうなると問いの意味は大きく変わってくる。
「……なんでだろうな。俺はただ、刀を扱う者としての最高位という意味合いでしかとらえていなかった」
「だったら貴方には、王としての器は備わっていないとしか言いようがありませんね」
「……確かに、そうかもな」
というよりも、俺のような一般的な人間であれば殆どが備わっていないだろう。
王になるということ――それは一国の主となることであり、国の代表として下にいる民を護る責務を負う存在になる。間違っても俺のような、自分が強くなれればいい、生き残ればそれでいい、なんて考えているようなプレイヤーが就くべき位ではない。
「……確かに俺は王には向いていないかもしれない。だが王になったことで得た力で、俺は成し得たいことは全てやってきた」
「それは一体何ですか?」
前作において、俺が刀王の座について最初に思ったこと。それは――
「――同じギルドの皆の役に立てる。俺は皆の後ろで護られるのではなく、常に皆の前に立って、最前線で戦うことで皆を護ってきた。……規模は違うかもしれないが、俺は俺の国を護る為に王位に就いた。この気持ちは国を護る王と、何ら変わらないと俺は思っている」
「……そこまで分かっていながら、貴方は私達からその王を奪ったのですよ!」
「奪っていない。誤解だ――」
「誤解ってことにしたいですよ私だって!!」
アイゼの悲痛な叫びが、想いが。俺の口を閉じさせる。
「単なる道具としてではなく、貴方は私と対等に接してくださった! 皆が自分のことを王の為の道具と自覚し、そして私自身もずっと、王を護る剣として過ごしてきたというのに!! ……貴方があの時、私を本当に道具として見てくれていたのなら、こんなことを聞かなくてよかったのに……”守る”だなんて、言ってくれなければよかったのに!!」
「っ……!」
……俺は本当のことを教えたかった。導王もまた、お前達のことを道具として見てはいなかったと。戦争を終わらせて、お前達に本当の自由を与えたかったのだと。
だがそれら全ての機会を、誰かが奪ってしまった。そして現場に残されているすべてが、ある一人の人物がやったと示そうとしている。他の誰かを疑おうにも、そんな時間などない。この怒りを、悔しさを、憎しみを、悲しみを――誰かにぶつけないと止められない。
「…………ならば俺からも問いを投げかけよう」
「えっ……?」
本当ならこんなことはしたくない。何とか戦わずしてこの場を、アイゼの想いを受け止めてやりたい。
だがそんなことなどできない。その道は既に閉ざされている。だったらどうするべきか。
――本気で交える刃を通して、その全てを受け止める。その上で、俺は俺自身を証明し押し通る。それしかない。
「――今のお前の目に、俺はどう映っている?」
俺はここで敢えて、かつての導王が俺にした問いかけと同じものを、アイゼに聞く。それは自覚を促す為に、わざと投げかけた問い。
するとアイゼはいつの間にか流したであろう涙を拭い、そして決意を秘めた表情を固めて、敵対者として真っ直ぐに俺の目を見つめて答えを返してくれた。
「……世界で一番恐ろしい、人斬りの姿が映っております」




