第五節 王の器、人の器、道具の器 4話目
“ここで話したことは、彼らには話さないでくれ。特に彼ら自身のことについては”――そうした導王との口約束を守るべく、俺は玉座の間を出てからも、中で話したことについては一切口に出すことは無かった。
「主様!? 交渉は無事に終わったのですか!?」
部屋を後にするなり、即座に俺の下へと駆け寄ってきたのはラストだった。
『ああ、無事に終わった』
「一体何を話してきたのか、我々にも教えてもらおうか」
そして相手方のリーダー格であるヨハンが代表してか、俺に詰め寄ってきて導王との取り決めについて聞き出そうとしてきた。しかし俺は約束を守るため、あくまで口を堅く結んだままでいる。
『そんなに知りたかったらお前らが直々に導王に聞けばいいじゃないか』
「そんなこと、大いなる主にまるで問いただすような真似ができるはずがない」
『だったら俺に対しても同じことだ。お前らが本当に導王の事を信じているなら、無理に聞き出すような真似は止めておくことだな』
「それは……そうだが……」
俺の言うことに一理あると思ったのか、ヨハンはそれ以上問い詰めるような真似をせずに口を閉じてしまう。
『……一つ約束できるのは、導王はこのソーサクラフにとっての最大限のメリットを引き出しての交渉を成し遂げたとだけ言っておこう』
「っ、それは本当なのか!?」
『嘘を言うつもりはない。それに、俺自身も導王には感心させられた。あいつは確かに、王としての器を持っている』
――ベヨシュタットの現国王よりも、はるかに大きな器を。
「……分かった。ならばこれ以上の詮索はよそう。大いなる主を侮辱することになる」
そうして一歩身を引いてその場を後にするヨハンと、念の為と言って王の安否を確認するガイデオンとゼバルベル、そしてこの場に置いてなすべきことはないとして、ヨハンの後を追うケファロとジュデス。残ったのはアイゼと、最初に俺に仕掛けてきたジェイコブの二人だけだった。
「…………」
「…………」
『……お前達は後を追わなくていいのか?』
「えっ? あっ、いやっ、その! 私は一応最後まで、大いなる主の客人をもてなそうというだけで、特に他意は――」
「俺はまだ貴様に用がある。初代刀王」
『ほう……』
一体どんな用があるというのか。サングラスをかけているせいか目の表情が読み取れず、こっちとしてはその言葉の意味がどんなものなのかを推し量れずにいる。
『まさか決着をつけたいとでも言いたいのか?』
「いや、違う。むしろ逆だ」
ジェイコブは今までの非礼を詫びるように、俺に向かって深々と頭を下げる。
「大いなる主との謁見を終えた貴様の立ち振る舞いを見て、その言葉に嘘はないと思った。そしてそれと同時に、やはりあの時に浅はかにも戦う行為を選択した自分が恥ずかしいと思ったんだ」
そうしてジェイコブは改めて友好のあかしという意味をもって、俺に握手を求めて手を差し伸べてくる。
「俺は戦うことしかできない。戦うことに知恵を回すことしかできない。だが貴様は違っていた。俺達にはできない対話でもって新たな道を歩んでいた」
それは懐刀として――武器として、という意味なのか。俺はその真意までは読み取れなかったものの、導王の想いに少しでも気づいてくれたらという気持ちも込めて、言葉を返す。
『誰でもできることさ。ただそれに気づくか、気づかないかだけだ』
そうして差し伸べられた手を握って握手をすると、ジェイコブもまた、まるで強く頷くかのようにしっかりとした力で握り返してくる。
「フ……それが出来れば苦労しない」
『少しずつ変わっていけばいいさ』
そうしてジェイコブとの和解をも終えた俺は、ようやくこのソーサクラフにて成すべきことを達成したのだという実感がわいてくる。
「さて、書状ができるまでの数日間、羽を伸ばさせてもらうとしようか」
意外にも難航するかと思われた交渉がすんなりと終わったことで、自由時間ができてしまった。
「……とはいっても、どこから見て回ればいいのやら――」
「でしたら、私が色々と美味しい料理屋店を知っているのでご案内を――」
「待て。お前だけに任せていたらグルメツアーになりそうだ。俺もついていこう」
どうやらここからはジェイコブも散策に付き合ってくれるようだが、アイゼは自分の役割を取られそうなことと、ジェイコブが入ることによって自分の融通が利かなくなりそうなことに口をとがらせている。
「ジェイコブさんが案内すると真面目な話ばかりになるじゃないですかー」
「なっ……真面目な話の何が悪い!?」
『国の案内をするんだったら、少しは真面目さも入れた方がいいと思うぞ……』
「そんなぁー……折角の食べ歩きツアーが……」
裏で画策していた予定が全部パーになったのか、アイゼはがっくりといった様子で大きく肩を落としていた。




