第五節 王の器、人の器、道具の器 1話目
ラストの転送魔法によって戻されたのはいいが、場所としては城壁の外側に転送されてしまっている。
『首都を指定して飛ぶようにしたはずだが?』
「大いなる主による巨大な防護魔法は、いかなる直接的な転送魔法であろうと阻まれるように魔法陣を組まれている」
ガイデオンの解説により外に飛ばされた理由は理解できたが、近くに検問用の門などが見当たらない以上、徒歩で街の周りを歩く手間がついてくる。
『面倒だな。ここから検問までどれくらいかかる?』
「少し待っていろ。我々が到着したことが知れたら、ここから強制転移で玉座の間へと飛ばされる」
そうして数秒後には再び俺達の体は光に包まれ、気が付いたころにはほんの数時間前までいた玉座の間へと戻ってきている。
そこには玉座に座る導王ただ一人だけが、俺達を出迎えていた。
「首尾よくいった、というより、行き過ぎたと言った方が正しかったかな?」
『そういうことになるな』
「そうか……それは上々」
恐らくは俺の知らぬ間に連絡を取っていたのであろう、既に導王は俺の戦いぶりを知っているような口ぶりであった。
「それでは、今度こそ書状の条件を飲むかどうかの判断を下したい。そのためにも、最後の質問をしたいと思う……ガイデオン、アイゼ」
「はっ!」
「この場を私と初代刀王の二人きりにしてくれないか」
「なっ――」
「何をおっしゃいますか!? 大いなる主よ!!」
ガイデオンの反応はもっともだった。この場に一人で戦況を覆すことができる存在と二人きりにしてくれなどと、自殺行為と取られても不思議ではない。
「このような異端者と二人でなどと、何かあってからでは遅いのですよ!!」
「分かっている。だが、この者がそのような事をするとは思えない」
「し、しかし――」
『分かった。だったら俺もラストに武器を持たせて、丸腰でこの場に立つとしよう。それなら文句が無いな?』
「ぐっ……しかしっ……!」
「あら? まさか従者でありながら、自分の主の事を信用できないとでも言いたいのかしら?」
ここで意外にも挑発的なもの言いをしたのはラストだった。
「戦えというのであれば戦い、死ねというのならば死ぬ……なら、外で待てと言われたのなら待つのが、“道具”として正しい姿ではなくて?」
「魔族の貴様に何が分かる!? その道具にすらなれないアバズレが――」
「道具にすらなれない、ではなくて道具になったつもりはない、と最初から言っているわ。私は主様に忠を尽くす一人の女として、主様の言葉を信じて外で待つという選択をさせて貰うわ」
そう言って俺の手から刀と脇差を預かると、ラストは一足先にその場を去っていく。そして背中を向けたまま、ガイデオンに対する侮蔑の言葉を残していく。
「精々そこで喚いてなさい。道具にも従者にもなれない“半端もの”として」
「ぐっ、ぎぅぁ……言わせておけば……良いだろう!! だが少しでも我が大いなる主に何かあってみろ!! 貴様等二人とも八つ裂きにしてやるからな!!」
捨て台詞を吐きながら、怒りのこもった足取りでその場を後にするガイデオン。最後まで残ったアイゼはというと、結果として同じ行動を取りながらも、対照的な二人を目にして、自分はどうするべきかと迷っている様子。
「……アイゼ」
「っ! は、はい!」
「現段階で我々の中で彼と一番長く時を過ごしたのはお前だ。自分の気持ちを信じなさい」
確かに、あの中で一夜を一緒に過ごしたアイゼならではの、俺達に対する考えというものがあるだろう。導王はその思いを尊重して、アイゼの決断を背中押しするように言葉を並べている。
そうしてアイゼは俺と導王を交互に見やると、頭を垂れてこう言った。
「私は……お二人を信じて、外で待つことにします」
「……そうしてくれると嬉しい」
『俺も、その信用を裏切らないことを約束しよう』
そうしてアイゼも去っていく中、俺と導王は遂に真っ向から相対する。
「……さて、ここからはお互い腹を割って話そうか」
『いいだろう。俺の腕試しという意味でも、先の戦争である程度の実力を知って貰えただろう。それを踏まえて、今度はどういう条件を出すつもりだ?』
「そうだな……まずは――」
――全ての戦争が終わった後の話でもしようか。




