第三節 王の懐刀 2話目 戦闘! 聖剣七人衆!
「――流石は導王の懐刀というだけあるな!」
「くっ、なんだこの男は!? 太刀筋が読めない!?」
俺に決まった太刀筋など存在しない。抜刀法は決まった形であれど、抜刀後の太刀捌きは完全我流のもので、今までもその場その場で自在に変化させて対応させてきた。
「疾ィッ!」
逆手に構えて切り上げ、そして即座に持ち替えての切り下ろし。刺突をメインに据えるのであれば、それを払いのけるような薙ぎで防ぎきるのみ。
「くっ、貴様、レイピアとの戦いに慣れているな!?」
「当然だ」
同じレイピア使いでもお前よりもはるか上手の竜騎士相手に、こっちは何度も試合をしてきたからな。
そうして相手の剣捌きに慣れてきたところで、徐々に守りから攻めへと転じていく。すると相手の刺突の回数も減り、徐々に回避行動が多くなっていく。
レイピアのような極細の剣では、まともに刀を受けることはできない。しかも下手すれば折れて使い物にならなくなる。そう判断しての回避行動だろうが、そう簡単に回避などさせはしない。
「どうした!? 俺のギルドにいたレイピア使いの方がはるかに素早く、そして鋭かったぞ!」
「くっ、やはり王たる者の実力、侮るべきではなかったか!」
徐々に押し込められているものの、まるでここまで本気で戦っていなかったかのような発言をジェイコブは口にする。しかしこの調子だと本気を出したとしてもどこまであいつにひっ迫する実力になるのか――
「――ピアッシング・ドライ!!」
「っ!? まずい!」
ギキキィインッ!! という三連続の重なった金属音が、辺りに鳴り響く。とっさに刀で受けることはできたものの、三連続のピンポイント刺突全てが、人体における急所を狙って放たれていることには冷や汗をかいてしまう。
「……その技は既に知っている。流派にもよるが、三段突きというスキルは刀にもあるからな」
しかしながら、今の技は確かに素早いものだった。今までのスキルなしのただの刺突とは、明らかにスピードが桁違いだ。
「ほう、ならばもっと回数を増やしても大丈夫そうだな」
「勘弁してくれ。今ので精いっぱいだ」
「ならば大人しく倒れるがいい――ピアッシング・ゼクス!!」
先ほどの倍――六連続の刺突。正中線を狙っての縦一列の刺突を前に、俺は同じく正中線の前に刀身を置いて、その全てを受けきってみせる。
「くっ……ゼクスまで受けきるか……!」
「悪いことは言わない。これ以上はやめておけ」
そろそろこっちも本気で反撃を考えなければならなくなる。もしあいつと同じレベルにまで至るのであれば、俺は自分の身を守る為に、返す刃で殺すことまで考えなければならなくなる。
「……まだだ! ピアッシング・アハト!!」
八連続の攻撃。しかし俺は相手の最初の一撃を払いのけると共にそのまま納刀し、そして再び抜刀を開始する。
「っ――」
――今度は本気で斬る為に。
「抜刀法・壱式――居合――」
再びの雷切でもって、今度こそジェイコブの息の根を止める。
狙いは喉笛。一撃で切り裂き、決着をつけようとしたその時――
「そこまでだ」
俺の一撃を止めたのは直剣とファルシオン。相手のジェイコブのレイピアを止めたのはダガーと曲剣。一人に対して二人がかりで、それぞれの刃が食い止められている。
そしてそれらとは別に巨大な両手剣を持った大柄な男が、ラストの首元にその刃を突きつけようとしている。
「っ、何をする!」
ジェイコブは俺の刀を止めていたロングソードの持ち主である、金髪の男に向かって異を唱える。恐らくこいつがメンバー内のリーダー格なのは間違いない。
そんな金髪の男は表情一つ、そしてこのひっ迫した状況から体勢一つ崩すことなく、冷淡な声色で暴走する身内を窘める。
「先走るなと言ったはずだ、ジェイコブ。大いなる主はこの男との謁見を望んでいるのだ」
「……ラスト!」
「大丈夫です、主様!」
刃を突きつけられるとほぼ同時に宙に浮いて離脱することで、ラストは身の危険から離れることができていた。
しかしそれにしてもいつの間にこれだけの人間が集まったというのだ。全くもってそれまで気配の一つもなかったはず。
「……一体いつから潜んでいた?」
「なぁにを寝ぼけたことを言ってやがる……そんなこたぁどうだっていいだろぉ? 問題は貴様等が大いなる主に仇なすのか、仇なさないのか……それだけだ……それ以外にこの場に理由はいらねぇッ!!」
ラストを抑えようとしていた大男が、俺の問いに対してドスの効いた声を交えて乱暴な答えを返す。文字通り本来ならば両手で持つはずの大剣を片手で軽々と振り回すあたり、こいつも相当の使い手と見受けられる。
「失礼ながら、こちらの身内が先に手を出したとはいえ、これ以上は敵対行動となるが故に止めに入った次第だ」
ファルシオンを持っていたのは老人だったが、その目はいまだ衰えず。あのグスタフさんにも負けず劣らずの老騎士が、事情を説明する。
「決してこのようなことまでには至るつもりは無かったのだ。ジェイコブが手を出さず、そしてお主が本気で殺す気まで至らなければ、ここまでの事にはならなかった」
「だったら今すぐに剣を納めろ。全員だ」
「……いいじゃろう。じゃがまず、お主から納めてはくれぬだろうか? その方が皆納得できる」
「おいおいおいぃ! 耄碌したかゼバルベルよぉ! 聖剣七人衆とやらは何時から生ぬるい集団になったっていうんだぁ!? 敵が剣を抜いちまってるんだ、そのままぶっ殺しちまえよぉ!!」
随分と血に飢えた獣を飼っているようだな――と、心の中で呟きながら、大男の意に反するように、俺は静かに刀を納める。
それに呼応するように俺の近くからファルシオンとロングソードが身を引き、そしてジェイコブもまた腰にレイピアを挿げて黙ってこちらを睨みつけている。
「……チッ! ここまで来たら興ざめだぁ………」
そして最後に大男も背中に大剣を背負いなおしたところで、改めてリーダー格の金髪の男から状況整理が提案される。
「では改めて名乗らせて貰おう。我々は大いなる主の命の下に集いし七つの剣、“聖剣七人衆”だ。そして私が形式上の長をやっている、“正義”のヨハンだ」
『七人衆……六人しか見当たらないが』
「最後の一人はアイゼだ。お前達の水先案内人兼、見張りという訳だ」
ジェイコブの言葉を耳にした俺が改めてアイゼの方を向くと、ばつが悪そうにこちらから目を背けつつ、手を小さく挙げている彼女の姿がそこにあった。
なるほど、だからこそあの時ラストの一撃に即座に対応ができていたのか。
「事情はどうあれ、こうなった以上は当初の目的通り、大いなる主との謁見をしてもらう。全ての沙汰は大いなる主の言葉次第で決まると思え」
『なるほど、いいだろう。こっちも元から導王に書状を一通届けるつもりでいたんだ。ついでに茶の一杯でも飲ませてもらうとしよう』
「ぐぬぅぁ、異端者風情が、舐めた口をききおってぇ……!」
「やめろガイデオン。大いなる主の命だぞ」
とりあえず現時点で一番警戒すべきはこのガイデオンという男か。年は五十手前といったところだろうが、その身に纏う殺意と殺気は活き活きとしている。
『……そろそろ降りても大丈夫だぞ、ラスト。ついてこい』
「……承知しました」
そしてラストも俺と同じで周囲に対して警戒を怠っておらず、いつでも魔法を発動して俺を連れて離脱ができるよう準備をしていた。
そんな極限の緊張感の中、俺とラストは聖剣七人衆によって囲まれるような形で石橋を渡っていく。
「女……貴様、魔族か……悪魔の手先が……」
「それ以上話しかけるな銀蠅が。その気になればいつでも消し飛ばせる事を頭に入れておけ」
「……ふっ、ふははっ! いいぞぉ! 貴様は敵性対象となり次第、このガイデオンが処刑してくれるわ!!」
どこまでもピリついた空気の中、俺達は王城の中へと姿を消していった――




