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引退していたVRMMOの続編が出るらしいので、俺は最強の“元”刀王として、データを引き継いで復帰することになりました  作者: ふくあき
武闘の章 ~ロンド~

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第三節 立場の逆転 8話目

『――さて、追加の土産もできたところで消えるとしようか』

「では主様、死体はどのように?」

『そのままにしておけ。誰がやったかの方は既にバレている』


 気にしているのはあくまで今の一般市民相手への下手な身バレだけ。それ以外ならむしろバレて貰って構わない。

 このゲームを知る人間にだけ初代刀王が帰ってきたことを示唆できる上、ソードリンクスにとってこれはかなりのメンツ潰しになる。


『これで下手にこっちを潰しにかかろうとしようものならそれこそ大義名分にできる。確かに中央じゃソードリンクスの方が名が売れているようだが、初代刀王の名が公になった時にどうなるのか見物だな』


 そうなってはそれまで息を潜めていた国民議会派閥も息を吹き返すだろうし、他にもこちら側に寝返る者が出てくるかもしれない。

 そういったリスクを踏まえた上で攻め込んでくるのならば致し方ないだろうが、それでもただでこちらを潰せる訳ではない。相手のリスクを考えれば、今の時点で手を出す可能性は限りなくゼロに近いだろう。


『……またレベルが上がったか』


 馬鹿が真っ正面から突っ込んできてくれたおかげで、俺は更にレベルを上げることができた。そしてそれはそのまま相手の戦力を削いでこちら側に奪ったことと同意義となる。


「主様、そろそろ引き上げましょう」

『ああ。この市街地にはもう用はない』


 その場で【転送(トランジ)】の準備を済ませ、俺達はベルゴールを後にした――



          ◆ ◆ ◆



 周りの景色が変わってゆき、次に俺の目が捉えたのは、眼下に広がる広大な草原だった。


「……ここは、どこだ?」

「リーラム草幻といいます」


 ラストが連れてきたのは、一般的には秘境と呼ばれる隠された土地だった。大抵は普通の移動では見つけることすらできず、場所を知っていたとしても大抵は特殊な手段でもって移動しなければならないか、あるいは極限に厳しい環境だったりする場合が多い場所、それが秘境と呼ばれる場所だ。

 その中でも特に無害なモンスターが闊歩する平穏な草原に、ラストは俺を連れてきたのだという。


「……見たことがない場所だ」


 真っ直ぐ照らす日の光というよりも、うっすらと紫色のかかった雲からまるで木漏れ日が漏れ出したかのような柔らかな光が辺りを照らしている。そして兎に似た生き物――カーバンクルという希少生物がそこらを普通に走り回り、額に埋め込まれた宝石をきらびやかに輝かせている。


『そんなことより、どうしてこんな場所に連れてきた? 俺が指示したのはレリアンの筈で――』

「ここは、私が生まれ育った故郷です」

「えっ、そうなの?」


 思わず素で驚いてしまった。てっきり幻獄再深層ミラージュがラストの故郷だと思っていた。それが生まれた場所が、こんなに幻想的な秘境だったなんて想像すらしていなかった。


「……綺麗な場所だな」

「いつか主様を連れてこようとずっと考えていて……でも、結局連れてくることも出来ないまま、百年の時が経ってしまいました」


 ラストのこの言葉に、俺はなんだか胸が痛くなった。俺にとって十年、しかしラストにとってはその十倍の年月。その間もずっと俺のことを想ってくれていた。


「…………」

「ですが、今こうして主様の心を癒やす場所として、この場所を紹介できることが嬉しいんです」

「……心を、癒す?」

「はい……ここ最近、特に今日に至っては、主様が心を砕くことが多くありましたので」


 ラストの言うことに対して、今の俺は「そうでもない」とはいえなかった。

 グスタフさん、ベスとの出会いは確かに会えてよかったものだ。この二件に関しては手放しで喜んでいたといっても過言ではない。

 しかしそれに対し、オラクルの登場によるラストへの危険、虚空機関ヴォイドを名乗るギルドへと離反したキリエのこと、そしてソードリンクスの今の地位――いずれも一つ一つが俺にとっては大きな問題となっている。

 そんな俺を近くで見ていたラストが、独自の判断で俺をここに連れてきたのだという。


『……確かに、ここまで心安らぐ景色は初めてかもしれないな』


 現実世界では常に仕事でパソコンと面と向かうばかりで、旅行どころか景色すら灰色の同じ景色ばかりを見ていた気がする。それがゲーム世界とはいえ、ここまで幻想的な空間を訪れることができたことに、正直感動すら覚えている。


「さあ、主様。こちらに」


 ラストに連れられるままに足を運び、そして草原にぽつんとそびえ立つ大きな樹の下で、俺に膝枕をしようとラストは両膝を折って誘う。


「遠慮無く寝転びください、貴方様」

「…………」


 普段からそうだが、こうしておしとやかにされると余計に色気とか魅力が増しているような気がしてしまい、こっちも自然と緊張してしまう。


「? 貴方様?」

「あ、ああ……」


 促されるまま、膝に頭を置く。そして仰向けに寝転がることで改めて気づかされることがある。


「…………」

「貴方様、いかがでしょう?」

「…………」

「……貴方様?」


 ……改めて言わせて貰おう。ラストの胸が大きい。大きすぎる。眼前まで迫る大迫力で顔が見えないなんてことがあるのか?


「……随分と息が荒いようですが」

「ッ!? だ、大丈夫だ! 気にするな!」


 フードを深く被ることで顔を隠しているつもりだが、恐らくラストには筒抜けだろう。

 しかしいつものようにここぞとばかりに迫ってくることなく、ひたすらに俺に膝を貸し続けてくれている。


「フフ……」

「……いいな」

「? どうしました?」

「いや、なにも……」


 最初は落ち着かなかったが、どうしてだろうか。この景色のせいなのか、はたまたラストの膝枕のおかげなのか。自分が意外にも全ての物事に対して肩肘を張りすぎていたことに気がついてしまった。

 一人で抱えられないのなら、誰かを頼ればいい。そうやって固い絆の六人でできたギルドが、殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーションではなかったのか。


「そうだよな……俺も誰かを、頼っていいんだよな……なあラスト、もう少しだけ、こうしていてもいいか?」


 俺の問いかけに、ラストはすぐに応えない。しかしその表情は見えなくても、俺には微笑んでいるのが分かるような気がする。


「……ええ、貴方様の気が済むまで」


 そうだ、今はこれでいい。

 今はこの安らぎを、ラストが与えてくれた安寧を満喫しなければ――

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