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その10:こんなところに何故ジンさんが!?

目が覚めた。

これから日が昇るかと言ったような時間。

静まり返った辺りは記憶にある昨日の協奏を脳裏に浮かべる白いキャンバスになり、覚醒を促す。


確かに昨日は最高だった。

あの「想い」が交差する不器用な初セッションはニュートリノが通過するスーパーカミオカンデの様にとても小さい、しかし確かに存在する煌めきを感じさせた…


たが、これは俺を目覚めさせた要因じゃない。

要因は…何か言いようの無い、漠然とした不安…

例えるならイナリちゃんに会えなくなってしまうような…


そう思ったときに身震いがした。

それは、急に寒くなった朝方の気温のせいなのか…それともイナリちゃんのいない自分を想像したのか…


居心地の悪くなった俺はなんとなしにバイクを何時もの場所へ向かわせるのだった。




バイクを走らせて何時もの林道に向かう道の手前に人影が見えた。

そして、その人影はどうやら知っている顔だった。


「…ジンさん!?何故ここに!?」

「何って…機材貸す場所の下見だよ、ソウイチ。この辺でやるんだろ?そう言えばステージとかこの辺にあったか?とおもってな…やっぱり野外か」

「えっと…そうですね…マズかったですか?」

「いや、野外用の機材も一式あるから大丈夫だ!まぁ、任せておけ!」


そう、何時もの調子で軽く言ってのけるジンさん。そして俺の様子を一瞥して


「…と言うか大分顔がひどいぞ、ちゃんと寝てるのか?」


と声をかける。

なかなか痛いところを突かれてしまったが、それにしたってジンさんが早朝にこんな所にいるとは思ってもみなかったというのも多分顔色に出たんだと思う。


「…あーいや、昨日のテンションもあってあんまり寝れなかったんですよね…」

「昨日は、確かに良かったな!でも…それだけって顔じゃないぞ?ソウイチ」


半端確信を持っているような様子のジンさん。

俺はたまらず、降参と言うような手振りをしながら少し恥ずかしい己の胸中を語ることにした。


「なんとなくなんですけど…嫌な予感がしたんですよね…」

「…ほう?嫌な予感?」

「あの…気になっていると言うか…機材を借りるキッカケになった娘が居るじゃないですか」

「ああ、お前が完膚なきまでにゾッコンの娘か?」

「うぐっ!?…まぁ、その娘なんですが…えっと、なんというか…消えてしまう?…ような気がして…」

「消える?」

「もしかしたらジンさんには言ってなかったでしたっけ?…実は、例の言っていた娘って神仏案件の人で、どうやらこのあたりに昔あった村の守り神?的なものだったらしいんですよ」

「ほう」

「…でも、その彼女曰く今持ってる存在の力?はもうすぐ尽きてしまうらしくて…」


ジンさんは左手を軽く顎に手を当てて軽く考える素振りを見せたあと


「…なるほどな、だからこんな僻地で会ってたりした訳だ」


と、直に納得した様な表情を浮かべた。

恐らく、ジンさんはある程度予測はしていたんだろう。


「はい…今まで言ってなくてすいません…」

「気にすんな、大体の神仏案件なんてそんなもんだ」

「ジンさんとこでもあるんですか?」

「いくつか知り合い…とかがな?」

「そういうもん…なんですかね?」

「そういうもんだ。惚れた腫れたも珍しい事じゃない」

「…ちょっと気が楽になりました」

「おう、そんで何かあったら俺を頼れよ?」

「今、頼りまくってますよ」

「これからも、だ。神仏案件なんぞ大体、一人でどうにかなることの方が少ないからな」

「…ありがとうございます」


変わらない調子のジンさんで安心する。

勢いに任せこうして手前まで来て思うが約束をしてくれたイナリちゃんに会っていたずらに力を消費させるのは良くないのかもしれない。


そんなとりとめないことを考えていたら、ふと嫌な予感がそれを証明するかの様に、薄くなった?気がした。

そんな様子をジンさんも気がついたのか


「どうかしたか?」


と声を掛けてくれる。

特に隠す意味もないので正直に伝える。


「なんと言うか…嫌な予感が何故か減った様に感じたんです」

「嫌な予感が減った…か…」

「いや、あくまで感じただけですよ!?多分、言ってた彼女の事でさっきまで自分が不安になってるだけだと思うんで!」

「…だがソウイチかそう感じているならきっと悪い事じゃないんだろうよ」

「だといいんですが…」


そう俺が声を吐いた少しあとに別の道の奥から1台、場違と言えるほど違和感のある高級車が目の前に止まった。

右ドアから窓を開けた助手席の人物だが、どうやら知り合いだったみたいだ。


「あら、ソウイチ君じゃない」

「ヒルさん!?それにヨルさんも!?」

「ソー君お久しぶりねー?主人がお世話になっていますー」

「いやいや、寧ろお世話になってるのは自分の方ですよ、ヒルさん」


昼子さんは会話の通りジンさんの奥さんで…ヨルさんの姉妹らしい。

年齢?何かしら?と言わんばかりの美貌のおっとりした人で印象こそ正反対だが二人が並んでるとやはり姉妹なんだなと言うこと分かる。


「それより、どうして二人が?」

「ジンが下見に行くって言ってなかった?端的に言うと私達はその送り迎えよ」

「ジン君がね?あんな場所に何かあったか?とか言ってたのよー」

「まぁ、それらしい所でやる訳ではないっぽいがな?そうしたらソウイチ、俺は帰るが…朝飯…家で食うか?」


そう言って帰り支度をしながらネコ科の動物がモチーフの車に乗りこむジンさん。


「…いえ、俺はもう少しここで森林浴?してから戻ります。誘ってくださってありがとうございます」

「…まあ、程々にな?」


俺はジンさんたちを見送った後、イナリちゃんと何時も会う場所の少し手前でバイクを停めて文字通りの森林浴をした。

多分今日は会う日じゃない。会う日は2日後、その時まで伝えたい気持ちを取っておく。

けれど、なんとなくだけどこうして木に背中を預けていると彼女がとても近く感じられた気がした。




「ソーさん、譜面で言うここの所、やっぱりこう歌った方が員も踏めるしこの音とかと合うんじゃないな?」

「うーん…ちょっと試してみようか、そしたらコーちゃんのここの音なんだけど、こういう感じで弾けないかな?」

「オーケー、やってみるよ」


2,3フレーズの音の線がサッと交差する。

細かく修正を加えたその箇所は劇的にと言うわけではないが、「想い」のディテールをより深くしたフレーズになった。

それはさっきよりも確実に良くなっている、と2人で実感出来る程だった。


「うん、これで行こう」

「だね」


夕方過ぎ夜と言っても差し支えないほど日も落ちた時間。曲の細かい修正を日本語警察ことコーちゃんと行っている。


朝の1幕の後、俺は仮眠と内職を挟んでそれぞれの空いてる時間にマンツーマンで曲の仕込みをジンさんの所で行っている。

既にハカセとミコトとは1度やっていてコーちゃんは3番手なのだが、2人は明日も各々少しづつ時間は取れるらしい、

なので必然的にコーちゃんとは本番前の最初で最後の練習になる。


「そういえばソーさん、昨日言ってたキーボードの事前準備ってどんなのがあるの??」

「んー?…まぁこの後つづけてくれるなら言っといた方が良いのかな」

「うん、今のうちチョロっとでも聞いときたいな…ってふと思ってね」

「…サンキュー、そしたらブレイクがてらちょっとコイツを使って話すか」


少し根を詰めて練習していたのでブレイクをとコーちゃんが聞いてくれた話題は明らかに今後も見据えてくれている話題でやはり嬉しくなってしまう。

ヤバいな、つい話し過ぎないようにしなくては。


「コイツの場合だとキーボードの音の作り込みの他に大きく分けて2つ位、事前に仕込めたりできる物があるんだ」

「ふむふむ」

「1つはキーボードの音色とか自動演奏?的なやつだね、要は鍵盤1つ叩くだけで色々出来るってやつ」


そう言って以前のライブでジンさんと作った音のパッチに変更して鍵盤を叩く。

ファーと空気を綺麗にするようなストリングス音の後ろにキラキラとしたガラスの粒のような音が聞こえ、コーちゃんを驚かす。

左手でコード抑えながら右でゆっくりと人差し指と中指の運動をすると先ほどの神秘的な雰囲気に色が宿るような複雑なメロディーが紡がれる。


「まるで1つの楽器で演奏してるようには聞こえないや」

「まぁ、ここまで仕込んでいても本番で合わないと台無しなんだけどね?ホントにそういう意味でもキーボードは事前準備が大切な楽器なんだよ」

「なるほどね…昨日のあれはほんの初歩の初歩だった訳だ」

「ピアノプレイヤーとしての実力だったり、音色の仕込みの緻密さだったり…キーボードはそう言う面白さがあると個人的には思ってるよ」

「あ、ソーさんもう1つの方は?」

「おっとわりぃ、もう1つは鍵盤じゃないこの部分なんだけど…」


ありがたい事にハカセ、ミコト、コーちゃんはかなりヤル気と理解力が高くて俺の教える事をどんどん吸収していってくれる。

正直、現場のちゃんとした理論らしい理論でもない付け焼き刃で知識で申し訳ない気もしているが…これから自分達が自分達らしく「想い」の乗せた音楽を作れたらと、やはり否応なく期待をしてしまっている。


こうしてコーちゃんを含む3人のマンツーマン練習は無事一巡出来た。

全力をぶつけたい相手に思いはせながら、俺はコーちゃんのキーボードの音色に乗る如く声と弦の振動を共振させる。


残り2日。


こういう、修行パート的なの結構好きです。


そういうの好きな人はよければブックマークお願いします。

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