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曾お爺様を負かしてから来て下さいませ。  作者: み〜さん


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リューを怒らせては面倒ですから。

よろしくお願いします。

 





「あっ!あのっ!」


 背後からかけられた声に周りを見回して振り返りますと、そこには両手を胸元で握り深い緑色の瞳が美しい、ふわふわとした可愛らしい方がいらっしゃいました。


 目が合った途端、その可愛らしい方が勢いよく頭を下げられて、


「お聞きしたいことがあります!フィルマール・ガブァレア伯爵令嬢様ですよね。」


 とても勢い良く来られたものですから、思わず足が一歩引いてしまいましたのは、仕方が無いと思いますのよ。


 ーーーどなたでしょう?


 可愛らしくサイドを編み込んだ金色の髪は緩く波打って、今日のように曇っていなければそれは見事に煌めくこと、間違いございませんでしょう。


 身長も小さく華奢ですわね。


 こういう方のことを庇護欲が湧くと言うのでしょうか?


 私は平均的な身長と程良くお肉も着いておりますし、なんでしたらとある部位には、ほんの少し余分なお肉もございますのよーーーええ、ほんのすこぉーし、ですわ。


 何処の部位かは乙女の秘密でございますけど。


「そのっ、お二人が迷惑されています!ですからもう近付かないでもらえませんか。」


 ころころ表情を変えるこの可愛らしい方の言葉にはて?何のお話しでしょう?


「わかります!お二人ともとても素敵ですもの。最近婚約者を()()()()()マール様には喉から手が出るほど掴み取りたい優良物件ですもの。」


 何やら私に抗議?されているようですが、私婚約者は亡くしておりませんのよ?解消はいたしましたけど。


 それよりも、今マールと呼びました?私のことをマールと⁇


「だからと言ってお二人を束縛して従わせるなんて酷いことはやめて下さい!二人とも優しいからあなたに言えなくって、ですからわたしが代わりに言いに来たんです!」


 私をマールと呼ぶのは両親と曾お爺様やリュー、パティにローズ様と私が小さなときから仕える方達だけですわ。


 何故この可愛い方が私をマールと呼ぶのでしょう。


 お友達でも知り合いでも無く、見たこともございません。むしろ初めまして?だと思いますけど、何故か親しげにマールと呼ぶことに慣れていらっしゃるようなんですが。


「お願いします!二人を解放して下さい!これ以上辛い思いをさせないで下さい!」


 お待ちくださいませ、今まさに辛いのは私ではなくて?


 そもそもこの可愛い方はどなた様で、言われている()()とはどちら様のことなのでしょうか?


 疑問は直ぐに聞くべきですわね。何やら誤解が生じているようですから。


「あの失礼ですがーーー」


「お二人とも毎日辛そうで、私ずっと励ましているんです。私といると、とても素敵な笑顔を見せてくれるのに、マール様のお話になると途端に苦しそうなお顔をされて、私このままじゃいけないと思って!」


 口を挟めないとはこう言うことですのね。


 そう言えば似たようなお方がおりましたわね。


 相手構わずご自分が思ったことを矢継ぎ早に仰ってその言葉に酔いしれるお方。


 そう、相手の方の言葉は必要無いのです。ご自分が如何に正しくて、私が間違っているのかを感情的に仰るお方。


「あっ!今欠伸しましたね!酷い!私頑張ってマール様にお願いしているのに!私が元々平民でマナーも知らない子だって言われてるのは知ってますけど、でもそれっておかしいでしょ?だって学校で一緒に勉強している仲間ですよ?どうしてそこに身分が関係するんですか?」


 失礼ですわね!欠伸では無く大きな溜息ですわっ!


 それに何度もマールと呼ぶのは、親しい間柄でも無いのに失礼ではないかしら!と思いまして声を上げようとすれば、


「学生のあいだはもっと自由でいいと思います。だからマール様が二人を束縛する権利なんて絶対にないんです!」


 ーーー学園内だからとて、身分の格差は暗黙の了解ですけど、この可愛い方は入学前に教わることは無かったのでしょうか?


「お二人には私が癒しとして必要なんです!でもマール様に逆らえば()()イグウェイ前公爵様からどんなお咎めがあるかわからないから仕方なくマール様といらっしゃるのに!」


 お待ちくださいませ!今曾お爺様のお名前を出しました⁇


「お願いします!どうか二人を解放してあげて下さい!

 自由にして下さい!」


 何故、曾お爺様が出て来ますの?何故、その判らない方々に対して曾お爺様からお咎めがあると言うのでしょうか?


 曾お爺様を良く知らない方が周りで言われる言葉を間に受けて、誤解したまま拡張した憶測で発言されるのはとっっっても不愉快で大変失礼なことだと、理解していらっしゃるのでしょうか!


「どなたか知りませんがーーー」


「周りの人のこと何も考えずに我儘放題ってほんとうだったんですね。それじゃぁ、誰も相手してくれないでしょう?あっ!だから婚約も破棄されたんでしたっけ!だったら自覚しましょうよ。ご自分のしてきた悪行。」


 先程から私の言葉を潰してくるのですが、これは偶々では無く意図したものなのでしょうか?


 だとすれば最悪ですわっ!


 失礼ですわぁ〜非常に失礼ですわぁ〜曾お爺様にも失礼ですわぁ〜!


 そもそもです。私がこの可愛らしい方に何をしたと言うのでしょう。


 このように人が集まる場所で、私が悪だと声高に責められて、きっと知らない方々はこれを鵜呑みにしてしまい明日には学園中に噂が広まること、間違いございませんわ!


 ああっ!なんて面倒なっ!


「言ってるそばからまた欠伸なんてっ!酷すぎだと思います!」


 イヤですわ。欠伸では無くて大きな溜め息だとーーー本当に面倒ですわ。


「伯爵家よりも格上の侯爵家のお二人を奴隷のように使うなんてどんな弱みで脅しているんですか⁈」


 ーーー侯爵家⁈


 私に近しい侯爵家と言えば、前婚約者のマティアス・ボンゴードル侯爵令息とビスデンゼ様とルーヴィル様ですわ。


 でもマティアス様には相愛のアイラ様がいらっしゃいますし。


 となれば、ビスデンゼ様とルーヴィル様⁈だとすれば、我儘でお二人を振り回していると言う人物は私のことですのっ⁈


 えっ⁈奴隷ですって‼︎


 いぇいぇいぇいぇ!妄想が暴走するにしても、何が楽しくてこの場所エントランスホールだなんて、流行ですの?もしや二度目と言うことは三度目も………


 あああっ!理解不能ですわ!私いったい何に巻き込まれておりますの?


 そして何度も言いますけど、この可愛らしい方は何処のどなたですの⁇


「騒がしいと思えば朝から災難じゃないか、マール。」


 聞き慣れた声に条件反射で振り返れば、やぁ、と片手を挙げて近付いて来る清涼感溢れるリューの姿。


 今日のように曇った空でもキラキラはまったく霞みませんのね。


「まぁでも、騒ぎの中心はだいたいマールだから今更?」


 にっこり微笑む妖精の王子様が朝から神々しい光を放っておりますわ。やはり空模様は関係無いようです。


「サリューシャ様!私を迎えに来て下さったのーーー」


「毎回面倒事に巻き込まれているんだから躱すことをそろそろ学習したほうがいいと思うよ?相手に隙を見せるから一方的に言われるでしょ?」


 まぁ!綺麗な笑みでこの言いよう。


「私全く心当たりが無いことに巻き込まれておりますの!言わば予期せぬ事故に遭遇してますの!なのにその言いようはあんまりですわっ!」


「ほら、頬を膨らませるのは淑女としてどうなの?」


「これは不可抗力であって私は被害者なんですの!」


「相変わらずマールは(にぶ)チンさんだね。まぁでも、それがらしいっちゃぁ、らしいンだけどね。コレもマールを取り囲む環境の賜物だから仕方がないかぁ。因みに僕も構成員の一人だから、あれこれ言えたことではないんだけどね。」


 などと言いながら、なぜ私の頭を撫でますの?それも溜息を吐きつつ。


「サリューシャ様?私を迎えに来て下さったーーー」


「まぁでも、そんなマールだからみんな構うのだけど。でも流石にこの状況はよろしくないかなぁ。ほらぁ、マールってば脳内で色々言ってるけど言葉に出して言わないでしょう?特にこう言った場面では。口挟めないのはわかるけど、相手の思う壷だと思うよ?」


「………言葉を出すならば慎重に」


「でもそんなこと言ってる間に謂れのない状況が発生して周りが間違ったマールを認識するんだよ?」


「………でも」


「マールはさぁ、今の状況わかってる?」


 状況?


「はて?なんて顔しないで。可愛いけど今はダメ。」


 リューが腰に手をあてて言いますが、まず、状況とはなんですの?


 そもそもです。朝のオープンなエントランスで、この可愛らしいご令嬢に意味不明な言葉を浴びせられておりますこの状況を!リューは理解しているのかと私に聞きますの⁈


「ムッて口を尖らせないの。それも可愛いけどね。」


 頭!撫でないでくださいまし!


「サリューシャ様!」


 すると、リューの纏う雰囲気が一瞬で刺々しくなって、


「君に名を呼ぶ許しを僕は与えてはいない。」


 低い声音と、すがめた視線で周りが一気に静まり返ってしまいました。


 この状態のリューを敵にしてはいけません。非常に怖いのです。逆らわず、誠心誠意謝罪するしかないのですが、謝罪の仕方もございまして、何故そうなったのか、どうして悪いのか、どうすれば良いのか、再発防止への取り組みをどうするのかと、それはもうみっちり三時間コースでの教育的指導と言うお説教なんですの。


「妄想癖があるって聞いていたけど、それ以前に会話が成立しないんじゃない?それって人じゃないよね?あっ!魔物?」


「まぁ、素敵ですね。でも私は癒しの女神と言われておりますから魔物ではないです。サリューシャ様って可愛いんですね。」


「魔物と言われて素敵って、頭大丈夫?あっ、それ狙ってる?わかっててやってるの?だったら凄いよ。ドュバリー(劇場)の看板女優に直ぐなれるよ。」


 それはそれは満面な笑顔で応えるリューの目がギラギラとして見えるのですが、えっ⁈怖いんですけど。


 こんなリューを見るのは初めてで、(パティが色々やってしまう人なので、幼少の頃は良く見ていたことなのですけども、それとはまた質が違うと言うか、お怒りが沸点に近いと言いますか………)私では無いとわかっていても身体が震えそうで。


 ………でも、このように怖いと思う笑顔を何処かで見た気がしますの。


 対峙する可愛らしい方の笑顔もそれはそれは怖くて、やはり私、怖い笑顔を何処かで見た覚えがあるようです。


 でも一体何処でーーー見たのでしょう?考えても思い出せません。


 考えてもわからないときは、考えるのをやめてしまえばその内に思い出すこともあるだろうからと、曾お爺様が仰っておりましたわ。


 ですからここはリューにマルっと投げてしまって、敵前逃亡一択でも良いのでは?と、ふと思ったのですが………ダメかしら?







読んでくださってありがとうございました。


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