想像を止める術がわかりません!
よろしくお願いいたします。
カロリーナ様が持って来て下さったのは、一枚のお皿に何種類かの料理が少しずつ綺麗に盛られたものでした。
「少しの量でしたら食べられますでしょ?野菜の彩りも綺麗でお食事されるのも楽しくなりません?」
「フィルマール様は目を離すと直ぐお食事が疎かになりますから。」
そう言う二人の前に置かれた山盛りのサラダとお肉の塊。
ーーー何故でしょう。解せません。
「そうそう、今日は西門通りにできたお茶の専門店[デリー]で購入した茶葉と、ルマン通りのタルトのお店[ルルド]のプチタルトセットをご用意いたしましたの。お食事の後、私のお部屋でご一緒にいかがかしら。」
「まぁ!なんて素敵なお誘いでしょう。では、デザートの分の余力を残しませんと。」
そのとおりですわカロリーナ様!
なんとタイミングがよろしいのでしょう。
これは神の采配?でしょうか。
なれば用意して頂いた美しいお食事を急いでいただきましょう。
あっ、もちろん淑女としての所作は忘れてはいけませんわ。
「ルーシア様………ですか?」
「ルーシア・マクロード男爵令嬢、通称『黄金の君』ですわね。まさか今⁇ですか⁈」
シャロン様のお部屋でタルトと良い香りのお茶をいただきながら聞いてみましたら、お二人に驚かれてしまいました。
「ーーーまぁ、フィルマール様の周りには鉄壁の防御と情報操作がなされておりますから、世俗の事などお耳に入らないのでしょうね。」
シャロン様が小さく息を吐くとその隣に座るカロリーナ様が大きく頭を振って同意しております。
確かに自分でも知らないことに驚いてはおりますが、そう何度も頭を振らなくともよろしいのでは?
「そんなお顔しなくてもいいんですよ。フィルマール様が知らなくて良いことですから。」
「そうですわ。下世話な話しですもの。」
「ゲセ、ワ?」
はて?何処に繋がる下世話でしょうか?
「そもそも、どうしてマクロード様のことをお聞きになりたいのですか?」
シャロン様が優しく聞いて下さいますが私、少し気不味くて磨き輝く床を見つめましたの。
「ーーーキャグッズ様とビスデンゼ様が模擬戦で凄かったと」
「聞きましたわ、ソレ。」
その言葉に少し顔を上げて見れば、ムースとイチゴの小さなタルトを食べながらカロリーナ様がまたもやコクコクと頷かれております。
「私も聞きましたわ。模擬戦と言うよりも決闘のようだったと。今日はその話題で大変でしたもの………でも、それがどうしてマクロード様に?」
シャロン様が不思議そうに仰います。
「あの………それが、マクロード男爵令嬢をめぐっての真剣勝負ではないかとーーー」
するとそれはそれは冷たい、魔物さえひと睨みで凍死するような視線がお二人から向けられたのは何故ですの⁈
怖いです!全力で怖いです!
「ーーー有り得ませんわねぇ。絶対に。」
シャロン様!歪に口角上げるなどお顔が悪でしかありません!
「ち、違うのです!あの、はい、先程食堂で皆様話しておりましたもので、すこぉーし、ほんのすこぉーーし、気になりまして。」
「全くの憶測ですわ。フィルマール様、信じてはいけませんよ。」
カロリーナ様が大きく頭を振って否定されます。
「ですが、沢山の男性がマクロード男爵令嬢を囲っておられると。その中にお二人も入っていて、それで模擬戦が決闘になったとか。」
「確かにマクロード様は人気ですわ………主に男性方から。」
シャロン様が米神を揉みながら嘆息されます。
「そうね、物怖じしない、屈託の無い明るさが貴族の女性しか知らない男性からすれば興味を惹かれるのかもしれませんわね。」
カロリーナ様の言い方も皮肉たっぷりで、先程の下世話がここにかかっていたのだと気がつきましたの。
「事故でご両親を亡くされて、お父様がマクロード男爵様の弟だったそうで、引き取られたようですわ。それまでは貴族では無く平民として市井で生活されていたそうですから、貴族のマナーが全くなっていない状態で学園に入るなんてどうなのかしらねぇ。」
「まぁ………」
ご両親を一度に亡くされたなんて、きっと深い悲しみと傷を受けられたはず。
私はそれを思い、知ることができませんが、想像はできますから。
もしも、と考えただけで胸が痛くなりますもの。
「フィルマール様、マクロード様に同情なんて無駄ですわ。」
「でも、ご両親を一度に………」
「そこはーーーとてもお気の毒だったとしか言えませんわ。ですがあのお方、今はそれを糸口に男性からの同情を受けておりますのよ。」
「可哀想、健気な、からの守ってあげたい。そして愛しい人となるのにさほど時間はかかりませんわ。お茶、お代わりいかが?」
「ほんと、人生経験の無いお坊ちゃんはオツムが単純ですこと。いただきますわシャロン様。このタルト、見た目よりも甘さ控えめで幾らでも食べられそうなんですもの。」
カロリーナ様がオレンジとヨーグルトのプチタルトがのったお皿を掲げてうっとりと見つめております。
そのお気持がとても良くわかる私は大きく頷いて同意しましたわ。
お口に食べ物が入ったままお話しするのはよろしくありませんから。
「お口に合ったのなら良かったわ。でも夕食後ですからそれで最後にいたしましょう。今度は是非お店にご一緒しましょうね。」
シャロン様がはにかんでお誘いくださいました。
もちろん、喜んでご一緒させていただきますわ!
「それで、兎に角なのですが。」
幸せため息でうっとりしていた私の目の前に突き出されたカロリーナ様の美しい人差し指。
「フィルマール様はけっっっっして!マクロード様と接触しないで下さいませ!よろしいですわね!」
「今まで何事も無かったのはきっと妖精のご加護だと思いますわ。いくら学園内広しと言えどもいつ何時偶然、バッタリ、遭遇する可能性がまったく無いとは言えませんもの。おわかりですね、フィルマール様。」
「自分の身は自分で守る!本来、これが鉄則ですから!」
………それは私がポヤポヤしていると⁇
「そこはポケポケでしょう?」
「えっ⁈」
今私口に出てました⁈
「シャロン様も私も学園卒業までフィルマール様のことを任されておりますから。」
カロリーナ様とシャロン様、お二人が視線を合わしてニッコリと微笑み合っておりますが、どう言うことですの?
と言うよりも、この状況に既視感を感じて胸がザワザワしてしまうのはなぜでしょう?
「ビスデンゼ様とのことでいろいろございましたでしょう?フィルマール様も免疫が少ぉし付いたのではないかしら?」
「ですわよねぇ。この様なことは体験できるようでなかなかできませんもの。」
………確かに?長い人生の中で全ての人達が体験することではないのでしょう。
でもそれは不可抗力で、私に非は無いのです!
それにビスデンゼ様のときは、マティアス様のときのように単体では無く団体でしたから、皆様の言っている言葉を拾うだけでどれ程の聴力、思考力、体力を削ったことか。
………そう言えばマティアス様。何だかとても懐かしく感じますけどその後アイラ様とはどうなったんでしょうか?
曾お爺様は難しいようなことを仰っていましたが、私はマティアス様とアイラ様が真剣に想い合っておられるのであれば大丈夫なのでは?と思っておりますの。
マティアス様のご両親のように。
マティアス様のお母様はとても厳しい方ですが、愛情深いお方でもございます。
ただ、少しーーー他の方よりも家柄を重んじられる傾向がお強いだけなんですの。
元婚約者の私が心配することでは無いと思いますが、上手く纏まれば良いなと願うばかりですの。
………ええ!本心ですとも。
「そうですわ。あんな根も葉も無い噂に踊ろされてフィルマール様に対して攻撃するだなんて!ちゃんと確認すれば良いのに。手出し無用と言われたら成す術がございませんのよ!」
「あの時は全身の毛が抜けるおもいでしたわ。」
「全身のーーー」
「ですからできるだけマクロード様には近づかないよう、何度も言いますがご注意下さいね、フィルマール様。」
と、微笑するシャロン様の全身の毛が抜ける発言は私にはダメージが大き過ぎますわ!
必死で想像しないよう目の前のプチタルトをしっかりと見つめておりますけど、気を抜くと考えてしまいそうな私の頬にどなたか一発気合いを入れていただきたいのですが、………アラ?そう言えば、ルーヴィル様が決闘のお話をされていたようなーーー?
読んでくださりありがとうございました。
気付けば50話をとっくに過ぎておりました。
えっ?まだ終わらないのですが………




