顔に書いてあると良く言われますが?
よろしくお願いします。
朝、校舎までの道のりがここまで長く感じたことはかつてございません。
「それでね、ならばここで尋常に勝負!となりまして、エキサイトしたわけです。授業の一環ですし、刃も潰した剣での模擬戦ですから大事になることも無いのですが、何故かそれが学園中を騒がすことになっているらしく、、、」
もちろん、校舎へ向かっているのは私達だけではございません。
多くの生徒が同じ方向へと向かっております。
ーーー厳密には私達から少々離れるように校舎へと向かっているのが正解ですわね。
「それも根も葉も無いことを貼り付けて好き勝手人の口に乗ってるらしいと耳にしたので、フィルマール様には事実のみを当事者としてお伝えするのが当然だと思いまして朝から出待ちしておりました。」
先程から振り撒く笑顔の乱反射で辺りに屍………では無くて女生徒が倒れているのがわかりませんの?
もしかして周りが見えないのでしょうか?
これほど騒ぎになっていますのに?!
「フィルマール様、真実は一つです。僕とビスデンゼ様が模擬戦で打ち合った理由はプロムのパートナーの申し込みの権利を勝ち取るためなんです。」
俗に言う死屍累々とはこのような状況を言うのでしょうか?
と、饒舌にお話しされていたはずですのに、不意に足を止めたルーヴィル様に引っ張られるように身体が後ろへと傾いてーーー
「ごめん!大丈夫?」
ルーヴィル様に抱き留められて危機を免れましたけど、咄嗟のことで私も理解が追いついていないのですが、辺りから聞こえる悲鳴は確かでございます。
「怖い思いをさせてごめん。エスコートしているにもかかわらず急に止まるだなんて!」
あのっ?ルーヴィル様?そのぎゅー〜っと腕に力入れるのを止めてくださいませんか?!
それに!公衆の面前で婚約者でも無い男女が密接ーーーみみみみみっ密接?!
「ルーヴィル様っ!」
腰に回っているルーヴィル様の腕をバシバシと叩いて身体を捩ってこの恥ずかしい状態からの脱出を試みます!
ええっ!それはもう必死で!
こんな恥ずかしい場所から一秒でも早く抜け出さないと、今日の終業時には尾鰭が付いた壮大な物語が学園中に広がっていると想像できますもの!
「ほんとうにごめん。言い訳になるけど、止まった理由を聞いてくれる?」
みみみみみみみ!耳がぞわぞわしますからっ!
こんなにも“み”ばかり連呼するだなんて、心の中だとはいえ動揺し過ですわ!
「離れて下さいませ、ルーヴィル様!」
「あっ!重ね重ねごめん!」
ルーヴィル様の手が離れた途端に小走りで距離をとります。
ええ!振り返って睨むのは当然ですわよねっ!
淑女として、いついかなる時も隙を見せてはいけないと教わりましたのに何てことでしょう。
ーーー反省文は何枚になるのかしら。
「あ〜〜っ、とにかくごめん。その、大きなハチが飛んでたから咄嗟に止まってしまって。」
「ハチ?」
辺りを見渡しましたが大きなハチ?は、飛んでませんわ。
ルーヴィル様の見間違えでは?
「そう、悪いハチどもがね。でも大丈夫だよ。フィルマール様には近寄れないから。」
「ハチが?近寄れない?」
「鉄壁のディフェンダーがね、阻止するから大丈夫なんだ。」
「それはどう言うーーー」
「マール!!」
「えっ、ぐぅわっ⁈」
いきなり後ろから力強く首を締め上げられたら息がっ!!
「マール!おはよう!大丈夫?朝イチ変なのに付き纏われて無い?」
「おはようございます。パティーシャ・イグウェイ公爵令嬢。」
首!!腕に力入ってますわっ!
「アラ、何?マール。叩くの止めてちょうだい。」
違います!首を締めておりますの!
「………フィルマール様が死にますから腕、外して下さい。」
と、スルリとルーヴィル様に囚われること再び?
………今は兎に角落ち着いて息を調えましょう。
「ーーーキャグッズ様おはようございます。あーっ、マールごめん。抱き付くのダメだった?」
「違います。パティの腕の力で息ができなかったんです!」
「えっ?!」
えっ?!じゃありません!何度目だと思っておりますの?
「抱き付くのはバルドラン様限定だとパティには言っておりましたでしょう!!バルドラン様以外は禁止だと曾お爺様からも言われてますのに、身内から殺人者は困ります!」
「なんかマールが酷いっ!」
お顔を真っ赤にして叫ぶパティを渾身の睨みで返しますわっ!
パティは無意識に腕力強なんですもの。いい加減認識していただかなくては婚姻後が容易に想像できて恐ろしいのです。
二つ名の妖精姫は幻で実は剛腕姫であることは身内だけが知っていること。もちろん未来の旦那様もご存知でいらっしゃいます。
本人のために抗議は毅然としなくては伝わりませんもの。
それに、華麗にスルーはパティにとってはお手のものなんですもの。
「おはよう。朝から絡まれてるね、マール。それに周りもうるさい。」
後からゆったりと表れたリューが長い髪をサラリと払えば、短い悲鳴が上がります。
「仕方ないわ。朝からキャグッズ様が女子寮の前で待ち伏せなんてことしてますもの。それに釣られて色々出てきたようだけど、速攻で駆除できたから大丈夫!ねぇ、マール。」
パティの極上な微笑みに地響きのような響めきが上がります。
悲鳴と響めきでこの場の緊張感は五割増しでしょう。
ーーー“素”を知らない方々には絶大だと思いますわ。
「アレは隙を狙って何度も来るから厄介なんだ。まぁ、その都度排除すればいいだんだけどね。」
「先程からパティもリューも何を言っておりますの?」
ハチ、ですわよね?
「アラ!マールは気にしちゃダメよ。」
「そうそう、マールは気にしない。」
「フィルマール嬢は僕のことを考えて下さればいいのです。」
にっこりウィンクなど飛ばさないでくださいませ!周りに悪影響ですわ。
「私だけわからないなんてーーーッ⁈」
話の途中、ルーヴィル様が私のお口の中へと投げ入れてきたのですけど?
「あ、まい。」
ストロベリーの甘いお味が柔らかくお口の中に広がります。
「美味しいでしょ?お土産で頂いたキャンディなんだけど、ストロベリー好きだと思って。ほら、瓶も可愛いからフィルマール様が喜ばれるかと。」
差し出された瓶に入った小さな赤い飴。
『ホラ!こうやって空に向ければキラキラして綺麗だよ、フィ』
ーーー 重なる、重なる、重なる ーーー
ヴィの姿をルーヴィル様と重ねて見てしまう。
どうしても、重なってしまいます。
とっても失礼なことなのに。
私はルーヴィル様にヴィを探してしまう。
「マール?」
パティの声にハッとしましたわ。
「どうしました?飴、美味しくなかったですか?」
私、ルーヴィル様を見つめて意識だけ飛ばしてたようで、気付いた途端恥ずかしさに全身が熱くなってどうしましょう!
「ふ〜ん、本能って凄いよね。」
「何?リュー。」
ナニ?リュー?
「………」
ニヤッと傲慢な笑みでルーヴィル様を見て肩をポンポンと叩くリュー。
「野生の勘?嗅覚って言うのかな?益々望み薄だな。コレは早々に慰めないと。」
リューの大きな独り言?にルーヴィル様のお顔が驚くような表情をされます。
えっ、どう言うことですの?
「どう言うこと?」
パティは私と同じですわね。良かった。
「ところで、マールにはもう言ったの?」
「ーーーまだ序盤。」
「おいおいおいおい。入り口目前なのにここまで何やってたわけ?肝心な話が後回しとは。あっ!そうか、好きな食べ物は一番最後に食べる人でしょう、キミ。」
「………一番最初に食べる方ですね。取られたらたまりませんから。」
「ヘェ〜、そうなんだ。どちらかと言うと大事に大事に取っておく方だと思ってたけど案外お子様なんだね。イヤ、動物?待てが効かないから野生か。」
リューの思考がおかしいことは知っておりますが、とても残念な空気を読んで欲しかったですわ。
「厳しく躾されてるから心配無用。空気も読めるから。」
そう言って私にウィンクするルーヴィル様は絶対に周りの空気を読めていないと確信いたしましたわ。
何故なら二次災害が周りで起こっているからですわ。
ーーーうん?三次だったかしら?
「回りくどくて意味、わからないけど?」
「僕はどちらでも構わないからいいよ。でもここまでやらかしたなら後処理も完璧じゃないとね。」
「心配してくれてありがとう。でもそれもちゃんと読んでるので何も問題ないですよ?」
パティの声にイライラが伺えたのですが、リューもルーヴィル様もマル無視でお話しされております。
パティは拗らせると少々面倒臭いのに。
私、お先に失礼させていただいて宜しいかしら?
「駄目ですよ。教室まで送りますから。」
いつのまにか握られた右手を引かれて行く私に拒否権は無いようです。
では無くて!何故わかりましたの?口に出してはいないでしょう?
「そう書いてますよ?可愛いお顔に。」
嬉しそうなお顔で私の額を指でチョンチョンするのは何故ですか⁇
それでなくとも早朝から他の方々の前でやらかしておりますのに、あらぬ噂が立ち上がってしまうではありませんか!
「ーーー僕は構わないけどね。」
会話が成立しているなんて、どうしてかしら?
そもそも、何故ルーヴィル様は朝から私を待っておりましたの?
「………いつも通り、何も変わらないよ。」
うん?
読んで下さり有難うございます。




