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曾お爺様を負かしてから来て下さいませ。  作者: み〜さん


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紫色のヒヤシンスの花

コレもできておりました。……前の話を迷っていたため。


前の話をエイ!ヤァッ!と出しましたのでコレも続けて投稿します。


どうぞよろしくお願いします。

 





「お、とぉ………まぁ」


「どうした?どこか痛むのか?」


 優しい…優しいお声。愛しんで甘やかしてくださる私のお父様。


「何か飲むか?それとも何か口にするか?」


 力が入らないから、僅かに頭を振って要らないと応える。


「ーーーそうか、ならば欲しければまた呼びなさい。」


 少し残念そうな声質に私の心が震える。


 いつからかしらーーー?


 私が小さかった頃はお父様もまだ若く、そのお声も強くて大きくて時々怖いと思うほどだったけど。


 こんなにも柔らかく、私を気遣うようなお声でお話しされるお父様。




 ……………ああ、そうだわ。




 私がトゥラジールのヴィラへ移った頃。


 社交も、淑女であることも、()()()がいなくなって何もかもがどうでもよくって。


 ただ毎日が無気力に過ぎて行く中で心配した家族に勧められて行ったトゥラジール。


 海に面した避暑地。


 ゆっくりと流れる時間。


 ただ、息をして時が過ぎるのを待つ優しい日々。




 そう、どうでもよかった。




 使者の方が読み上げる言葉はルーベンス様の言葉では無く国王様の言葉で、理由も何も無いただ白紙にすると言うことだけ。


 私は、ルーベンス様の言葉が聞きたかった。心を知りたかった。



 でもーーーー




 それは叶えられなかった。望んはいけなかった。


 私の十四年の想いは行き場を失って心は空っぽ。



 だから何もかもどうでも良かった。



 そんな毎日を無気力に過ごしていたときに出会ったのがサンジュラム夫人と呼ばれる女性。


 このトゥラジールの社交場の頂点に立つ謎の多い美しい女性。


 誰も彼女の素性を知らない。サンジュラム夫人と言う名前だけ。


 夫人は何かと私を気にかけて下さって、ある日の夜会で一人の男性を紹介された。


『ジュリアース・マイレと申します。』


 金色の真っ直ぐな髪とバイオレットの瞳。


 手の甲に落とされた柔らかな唇は手袋の内側の肌にも感じて、上目づかいで私を見つめるバイオレットの瞳が妖しく揺らめき………一瞬で心を持っていかれてしまった。


 余りにも似過ぎていて。


 差し出された彼の手をーーー手袋を着けていない男らしい手を私はとってしまった。



 自分の心の平穏のために。



 それからの日々のなんと眩しく心湧き上がること。


 ドキドキして、フワフワして、胸がギュッとして。


 まるで少女のように夢中だった。


 私の理想としたあのお方に似たジュリアース様に深く傾倒していった。


 たとえそれが紛い物の世界だとしても、私は幸せだった。






 ………………でも、





 心安らぐ毎日が終わるのは突然だった。






『ホラ!御覧になって、王弟殿下ですわ!』


 ーーーそれは偶然だった。


『まぁ、いつお戻りに?』


 ーーー美味しいと評判のお店にジュリアースと一緒に向かう途中だった。


『さぁ。でも驚きましたわぁ。あちらでご結婚されていたなんて!」


 ーーー大きな声ではしゃぐ女性達で先へ進めなくて。


『とても可憐なお方ですのね。ご子息も今から楽しみですこと。」


 ーーー落ち着いた濃い緑色に金色で縁取りされた扉から出てきた人物に心臓が凍えた。

 i




 どうして?ねぇ、どうして?


 今更なぜ私に現実を見せつけるのです!


 考えたくもなかった最悪の現実を!




 気持ちがぐちゃぐちゃで耳鳴りが痛くて、目の前が真っ赤に染まって身体から力が抜けて………




 目に焼き付いて消えない深紅の艶やかな髪。凛とした佇まい。けぶる上質な薔薇の薫りに息ができない。


 その慈愛の表情を向ける先に、愛おし気に微笑む年を重ねた、精悍な風貌のかつての………婚約者。


 そして………二人の間で嬉しそうにはしゃぐ真紅の薔薇に良く似た美しい子供。




 それがいったい何を意味しているのか、わからない。わかりたくない。



 私の心に刺さった沢山の鋭い棘でできたキズから止めどなく流れる真っ黒な怨嗟。





『愛しい貴方、私に命じて下さい。貴方を苦しめる者達から救ってくれと。』


 ジュリアースが頬を濡らして囁くの。


『深く傷つく貴方の姿に私はーーー心の底から怒りが湧き上がってくるのです。貴方の憂いた表情に胸が締め付けられるのです。』



 枕元で私の手を握るジュリアースに掠れた声で言ったの。




『………タ、すぅけぇ……てっーーー』









 気が付くとーーーー



 見知らぬ小さな部屋の中ーーー




 そこで知らされたのは、私が十日近く意識が無かったこと。


 ここが修道院で私はここから一生出ることはできないと言うこと。



『殿下の奥方とご子息の殺害を画策し実行した罪。』



 意識の無い人間が画策?実行?


 聞いたとき、思わず失笑しそうだったけれど、私がそれを望んだことは間違いはなかったから。



 ーーーそう、願ったから。



 消えてしまえと………何度も、何度も、何度も強く願ったから。



 私の心に焼きついて離れない美しい真っ赤な薔薇。



 睦まじく寄り添う姿は、私が望んでいた理想のカタチ。






 でもそれは………私自身に跳ね返って来る恐ろしい成就。



 いつの間にか気持ちが歪んで、考え方が卑屈になって、それはどんどん膨れ上がって醜くなっていって、身体を蝕んで。




 私が罪を犯したと言うなら、どうして生かされているのか。




 この意味を私は知らない。




 知る必要もーーーー無い。














 今はただ………


 弱々しく打つ鼓動と、浅い息遣が静かになることだけを願うだけ。









 ですからどうかお父様、このように身勝手な私のことなど………見限って下さいまし。








新しく描きたい物が頭のなかでグルグルしているこの頃。


でも色々やると収拾がつかなくなるのが怖いので、頑張ります。


読んで頂きましてありがとうございました。

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