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曾お爺様を負かしてから来て下さいませ。  作者: み〜さん


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忘却のレジュレ

お待たせ致しました!


よろしくお願いします。

 





 木々の間を縫うように走るディルヴァイスに並行して走る《ドゥール》が三人。


「夜目が効くのか!」


 追い立てるだけで剣を交え無い《ドゥール》の中に、闇夜にも関わらず弓を射る者がいた。


 木が乱立する暗闇の中、何本もの矢がディルヴァイス目掛けて飛来する。


 風を切って向かって来る矢音を頼りに何とか躱しているが、頬や肩、腕などに矢が掠った後ができていた。


「どちらにしろ不利ならば!」


 ザッと音を立てて走りを止めれば《ドゥール》達も音を立て止まる。


 踏みしめた足に力を込めて身体を押し出せば、前方の《ドゥール》目掛けて一気に駆け、ディルヴァイスが剣を振り上げた。


 しかしそれを正面で難なく受け止め薙ぎ払えば剣を真横に振るう《ドゥール》。


 ディルヴァイスは後方へ飛び退き躱すとすぐさま《ドゥール》に向かって剣を繰り出した。


「ーーーーーっっ!」


 が、その直後放たれた矢がディルヴァイスの右腕を裂き、そこを狙って振り下ろされた剣を既の所で弾き返し身を躱す。


 双方が暫し牽制するように間が空けば、ディルヴァイスがおもむろに首を左右に倒しながら剣をクルリと回し、


「終わらせる!」


 言いながら駆け出し剣を振り上げた。


 《ドゥール》が後ろに身を引きそれを躱すがディルヴァイスは読んでいたように一気に距離を縮め剣を叩き込んだ。


 胴へまともに剣を受けた《ドゥール》の身体がゆっくりと前に倒れていくーーーと、その背後に構えていたもう一人の《ドゥール》が体勢を立て直す間の無いディルヴァイスに襲いかかった。


 ディルヴァイスは咄嗟に受け止め《ドゥール》を剣ごと押し返せば、無防備になった胴体へ躊躇いなく剣を撃ち込ん

 だ。


 崩れる《ドゥール》の背後に回り込んでとどめを刺し素早く姿勢を低くすればそこへ矢が何本も飛んでくる。


 ディルヴァイスは振り向きざまに剣を左右に振り矢を払い退けながら幹の陰へと身を隠した。


「どこだーーー」


 今さっき躱した矢の軌道を思い浮かべ、弓を射る《ドゥール》が何処にいるのか大まかな辺りをつける。


 剣を持つ手に力を入れ、静かに息を吐き出すと目的の場所目掛けて走りだす。


 ディルヴァイスがいた場所から対角線上少し右側寄りの高い位置から飛んでくる何本もの矢を振り払い《ドゥール》が潜む木を探した。


 だが暗闇と乱立する木と《ドゥール》達が着ている黒い衣装が同化して上手く探し出すことができずディルヴァイスを焦らせる。


 すると一本の矢がディルヴァイスの左肩を深く抉った。


「くそっーーー」


 近くの木の幹を背に蹲み込んだディルヴァイスが傷ついた左肩を押さえて呻く。


 見る物全て黒く、全て同じように見えて何処の木の上にいるのかわからない苛立ちが焦りを誘発する。


 一刻も早く三人に追い付きたいと言う思いが気持ちを揺さぶる。


 けしてページルを信頼していないわけではない。


 しかしミュリネアの護衛としてこの国まで付き従ったディルヴァイスにとって今、この状況の中で姿が見えないことは想像以上に不安を煽った。


 ジッと、息を潜めて周辺に神経を集中させ少しも漏れ逃さないようにディルヴァイスは眉間にシワを寄せ、固く目を瞑る。


 《ドゥール》もまた同じでディルヴァイスの動きを掴もうと息を詰めているようで不自然なほど静かだった。



 ーーーしかしその静寂は意図も簡単に破られた。



 《ドゥール》が潜むだろう方向から微かに聞こえた軋む音。


 ディルヴァイスが足元に転がる石を咄嗟に拾い上げると、その方向目掛けて振りかぶる。


「ごっっ!?」


 飛んできた石に反応が遅れ《ドゥール》がガサガサと音を立て地面へ落下した。


 石を投げつけた方向へ直ぐに移動していたディルヴァイスが、地面に辛うじて着地した《ドゥール》にその勢いのまま剣を叩きつける。


 《ドゥール》の身体が前屈みに倒れるのを見ることもなく、デルヴァイスは剣を一振りすると鞘に納め走り出した。


 その走りに迷いは無かった。


 木々が行く手を阻むがディルヴァイスは臆することなく突き進む。


 暫く走ると、それまで険しかったディルヴァイスの顔が安堵の表情を浮かべ詰めていた息を小さく吐き出した。


 前方に小さく浮かび上がった駆ける後ろ姿。


 無事な姿に緊張していた身体が弛緩する。


 と、ページルに抱えられていたミュリネアがディルヴァイスに気がつき、手を振りながらページルとエルヴィーダに声をかけている。





『ごめんなさいーーー』





 ふと、脳裏を過ぎたのは淡いグリーンの瞳を涙で潤ませたミュリネアの姿。





『あなたの夢を………私が駄目にしてしまった。』





 ーーー兄に憧れ騎士になり、先鋭部隊である近衛を目指していたころ、剣技を競う大会でミュリネアの祖父であるクラン侯爵から声をかけられ、騎士の籍を残したまま護衛としてミュリネアに就くことになった。


 着任して早々号泣するミュリネアに、それまで異性との接触が皆無だったディルヴァイスはどう対応していいのかわからず慌てたことを何故かこのとき思い出した。


 こちらに向かって大きく手を振るエルヴィーダに思わず目を細め微笑むディルヴァイス。


「ーーー守るために私がいる。」


 その呟きは自分自身に改めて強く示す言葉。


 ディルヴァイスは表情を引き締め、駆ける速度を上げた。











 ピィィィ……ィ……ッ




 木々を分断してできた道を馬に乗った一団が駆けていた。


 無数の星が瞬く月の無い空から聞こえる鳴き声に、先頭を走っていたゴディアスが目をすがめ見遣る。


「ーーーー閣下」


 ゴディアスの斜め横を走っていたゾルゲルが、口元を覆った布を下ろし声をかける。


「ゾルゲル、呼んでみてくれんか?」


 ゴディアスに言われゾルゲルは顔を上げ指笛を吹いた。



 ピュィーーーピィーーユゥーーーッ



 それに応えるように鳴き、その姿を目視できる位置で大きく旋回させるのを見たゾルゲルが強く頷き、ゴディアスを見る。


「こんな夜更けにいったい………」


「閣下!あの鷹は?」


 後方から駆けてきたルーランドが険しい表情で捲し立てる。


「それがーーー」


 バァウーーン!バァウ!バァウ!バァウウーー!


「ギルダーグ!?」


 真っ暗な前方から白い大きな犬が低い声を発しながらこちらへと駆けて来る。


 ゾルゲルが手綱を手前に引き馬を止めてその背から飛び降り駆け出せば、ギルダーグもゾルゲルへ真っ直ぐ駆けて来た。


 ゴディアスとルーランドも馬から降りてゾルゲルの後を追う。


 後方から来た者達も馬を止めて後につづいた。


「閣下、何事か起こったようです。」


 そう言ってギルダーグを撫でていた掌をゴディアスとルーランドに向けて差し出した。


「ーーー煤?」


 見せられた掌は夜目でもわかるほど黒くなっていた。


「ミュリネア、エルヴィーダ!」


 ハッと表情を強張らせたルーランドが踵を返し駆け出す。


「ボイス!殿下に付けっ!」


 ルーランドが馬に素早く跨ると、腹を蹴って駆け出した。


 ボイスは近くにいた二人に声をかけ、慌ててその後を駆けていく。


「ゾルゲル、ギルダーグを伴って来てくれ。」


 そう言い後方から来た者が差し出す手綱を受け取れば、背に飛び乗り、駆け出すゴディアスの後を他の者達も追随して一斉に駆けて行った。


「いったい何がーーー」


 ギルダーグを撫で付けながらゾルゲルは厳しい表情で、砂煙を巻き上げるその後ろ姿を見送った。










前回から大きく間があきました。ごめんなさい。


進み方がカタツムリのため、色々ウン?と思う箇所を発見しますが、ここは敢えて先に進むことにします。


あ、ちなみにギルダーグはモスダーグの父です。


この後2話できていますが、見直ししてから投稿させてもらいます。


沢山の方々が待ってくださっていることで続けていられます。(カタツムリですが…)


今回も読んで下さりありがとうございました。

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