表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曾お爺様を負かしてから来て下さいませ。  作者: み〜さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/56

忘却のレジュレ

遅くなりました。


よろしくお願いします。

 





「 今日は大岩まで行ってみよう。」


 真っ赤な髪は癖っ毛で、襟足で短く刈り込み金色の瞳をきらきら輝かせてとても楽しそうな男の子、エルヴィーダがフィルマールの小さな手をとった。


「お……お、いわ?」


 薄い金色の髪を揺らしながら頭を傾げ、小さな鼻と頬にソバカスを散らした女の子、フィルマールがアイスブルーの瞳をキョトンとさせて聞き返す。


「 きっと、フィルが喜ぶものがあると思うんだぁ。ねっ、行ってみよう。」


「それってなぁに?」


 手を繋いで歩き出す二人の傍には真っ白な犬が付き従っている。


「着いてからのお楽しぃーーー」



「エル!今日は剣の相手をしてくれる約束よ!」



 歩みを阻む大きな声が後ろから飛んできた。


「………くそっ。」


 エルヴィーダの口から思わず出たよろしくない言葉にフィルマールが金色の睫毛をパチパチと瞬かせた。


「マールと遊びたいのは分かるけど、約束は約束よ!サッサと着替えて剣を持って来なさい。」


 エルヴィーダと同じ真っ赤な髪は波打ち背中で一つに括られて少しつりあがった瞳は金色。


 男の子のようないでたちの女の子は腰に剣を帯剣しているが、その姿はエルヴィーダと良く似ていた。


「えぇーーーーっ」


「うるさい!」


「あぁ、そんな乱暴な言葉使いをされてはお母上が嘆かれますぞ。メイローズ様もあと三年もすればデビュタントを迎えるのですから、言葉使いは丁寧に優しく。」


 のしのしと後ろをついて来た大きな身体の白髪混じりの男が苦笑しながら言う。


「私はいいの!騎士様になるのだからデビュタントなんて出ないもの。」


 金色の瞳が後方の男をキッと睨みつける。


「そもそもキャグッズ侯爵家はメイローズ様しかお子がいらっしゃらないのですよ。騎士なんぞになるなど婚期を逃してしまいましょう?」


「あら、それは大丈夫よ!エルがいるもの。」


「はぁっ⁇ 」


 突然のご指名に思わず出た声が辺りに響き渡る。


「だってそうでしょう?私とエルが結婚してェ、私の家を継いでェ、マールが私達の娘になるの!良い考えじゃない?」


「待って!待ってローズ。ウチも僕が家を継ぐんだからそんなの無理だよ。それにマールを娘って絶対おかしいよね ⁈ 」


 そう言うと何故か慌ててフィルマールを抱き込むエルヴィーダ。


 メイローズが頬を膨らませ腕を胸の前で大仰に組んで見せる。


「 それを言うならマールのお家もマールだけよ。だったらエルも除外でしょ?マールはお婿さんをもらってお家を継ぐんだから………おっ!」


 ポンと手を叩き極上の笑顔を向けるメイローズ。


「そうだは、お友達のシャルのお家から弟のランディス君にマールのお家を継いでもらってマールが私のお家に入れば姉妹にーーーー」


「却下!却下!却っっ下ぁぁぁぁっ! 」


 エルヴィーダの張り上げた大きな声に堪らず耳を塞ぐフィルマールとメイローズ。




 因みに、「 お友達のシャル 」とはフラジリル子爵家の三女、リリーシャルのことで六人兄弟の五番目。三男のランディスは六番目の末っ子である。フラジリル子爵家はキャグッズ侯爵家の遠い親戚で子沢山の子爵家として名を知られており、メイローズは遊んでもらうためにフラジリル子爵家のタウンハウスへわりと頻繁にお邪魔していた。




「………何でよ。」


 耳を押さえて眉間に皺を寄せるメイローズに、ビシッと指指すエルヴィーダ。


「 だいたいローズには婚約者がいるだろう!」


 この指摘にメイローズの眉間の皺が更に深くなり、イライラと足を踏み鳴らす。


「ーーーーそうね。でも私は納得していないわ!所詮じじい同士の戯言で決まったようなものだし、相手だって迷惑だと思ってる筈だもの直ぐ白紙にしてやるんだから!」


「 だからってさっきの話は無しだからなっ!フィルは渡さない!」


「フォッホッホッホッ、今日もフィルマール嬢人気は熱いですなぁ。」



 顎に携えた髭を手で梳きながら好々爺然とした表情で子犬のじゃれあいを見守る男。子供達の護衛と剣の指南としてゴディアスが付けた者で名をカダルと言う。




「………私はいつも一緒がいいわ。」




 エルヴィーダの腕の中に捕らわれ、つま先立ち状態のマールが小さく囁く。


「ヴィと…ローズと…曾お爺様と、パティとリューとみんなと一緒が好き。とっても楽しいもの。」


 可愛らしい声で紡ぐ言葉に二人の動きが止まる。


 それは魔法のように全身を駆け巡り、お腹の底から湧き上がる歓喜にたまらずもだえ、エルヴィーダは腕に力を入れ抱きしめるフィルマールの身体を左右に振り回した。


 突然の暴挙に爪先立ちのフィルマールがエルヴィーダのシャツをギュッと掴み堪らず足はたたらを踏んだ。


「 くぅ〜〜〜〜〜ッ!何て可愛いんだっ!フィル!」


「 もぉぉぉう!なんて可愛いこと言うんでしょう。ホント、マールの可愛さは最強よっっ!て、エル !あなたまたフィルって呼んだでしょう。いつも言うけどフィル呼びはマールの可愛いさが半減しちゃうからヤメテって !」


 そう言いながらメイローズが一歩踏み出せば、それを妨害するかのように進路を塞ぐ真っ白な犬ダグ。


「 ………ダァーーーグゥッ!邪魔っ!」


 メイローズの不満げな声もフサフサの尾っぽを一振りしただけでそっぽを向くダグ。


「 ダグは任務に忠実なだけだよ。」


 したり顔のエルヴィーダにメイローズが腰に下げていた練習用の剣を掴んだ。


「 主人が主人ならその犬も犬よねッ!もういいから剣の練習するわよ! 」


「 ローズはしつこいからなぁ………」


「何ですって !」


 ギロッと下から睨み上げるメイローズにこれ見よがしに大きく息を吐いてみせる。


「 フィルごめん。大岩は明日行こう。キナヤにサンドイッチ作ってもらって。フィルの好きな鴨肉のサンドイッチを持って僕達だけで、ねっ。」


 腕の囲いから解放したフィルマールの顔を覗き込むエルヴィーダに、フィルマールは真っ赤な顔で首を振る。


「 大丈夫。私も剣のお稽古一緒にするから。」


 一瞬何を言ったのかわからずニッコリ微笑んだまま動きが止まるエルヴィーダ。


 フィルマールの言葉を頭の中でゆっくり噛み砕いてみる。


「・・・・・・・・・・・」


 と、いきなり両目を大きく剥き出しアワアワと両手をバタつかせるエルヴィーダがまくしたてる。


「いやいやいやいやいや!ダメダメダメダメダメっっ!フィルはそんな危ないことしなくていいから!」


「エッ?危ない?」


 首を右側にコテンと傾げるフィルマールの小さな頭を優しく撫で、ゆっくりと言い聞かせるようにエルヴィーダが言う。


「 そう、危ない。いくら練習用だと言っても剣は剣だから。それに近くで剣の稽古なんてされたら心配で僕が稽古に集中できないよぉ……ね?僕が強くなってフィルを守るから、僕のために剣の稽古はやめてくれないかな?」


「あら、マールなら六歳からパティと剣の稽古してるわよ。それに小さな馬だったら鞍無しで乗れるって聞いたわ。ねぇマール。」


 しれっともの申すメイローズを驚きの表情のエルヴィーダが二度見した。


 そんなエルヴィーダを見上げメイローズの言葉にコクコクと頷くフィルマール。


「 本当よ。私も一緒に閣下に教えてもらっていたもの。まだ小さいから力では負けちゃうけど、マールは上手なんだから。」


 表情筋を強張らせエルヴィーダがゆっくりとフィルマールへ顔を向ける。


「フィル、剣の稽古を閣下………曾お爺様に見て頂いてるの?」


 ぎこちない笑みを向けるエルヴィーダに「えっとぉ」と呟き一つ頷くフィルマール。


「 それはーーー危なくないの?怪我はしないの?女の子なのに手にマメができたりしないの?」


「フィルマール嬢はご自分を守るための剣を教わっているのですよ。メイローズ嬢のような激しい稽古はしておりません。」


「そうよ!だって私は最強の騎士様になるんですもの。」


 メイローズよりも二倍以上は大きいカダルに首を伸ばし満面の笑みでこたえると、そのまま流れるように顔をエルヴィーダへと向けたがその表情は打って変わって険しく睨みつけるものだった。


「私やエルがやってる剣の練習とマールの剣の練習は違うのよ?いざと言うときのための護身用の剣なのに、練習してはダメなの?危ないからって何もかもダメダメダメって、それってエルの我儘じゃない?マールはね、大人しくお部屋で刺繍してるような女の子じゃないのよ!外に出て元気に走り回るのがマールの本当なんだから、エルの理想を一方的に押し付けないで頂戴!」


 メイローズの言葉にエルヴィーダが顔を背ける。


「まぁまぁ。メイローズ嬢、そう熱くならず。」


「でも、カダル! 」


「エルヴィーダ殿はフィルマール嬢を心配して言っておるだけで、何もかもダメと思われておるわけではないのですよ。そうですよね?エルヴィーダ殿。」


 エルヴィーダは伏せた顔を少し上げチラッとカダルを見るも直ぐ戻し前髪に右手を差し込みギュッと握る。


「………まぁ、男というものは、見栄と意地と自惚れと執着でできた者達でしてな。傾倒する者に対しては特に顕著にそれが現れるのですよ。」


「………どう言うこと?」


 意味がわからないと表情で訴えるメイローズにニッコリと微笑むカダル。


「剣に傾倒されている メイローズ嬢にはまだ理解できないことでしょうなぁ。」


 フォッホッホッホッと笑い声を上げ髭を梳くカダル。


 それを胡乱な目で見上げるメイローズ。


 しばらくして頭を上げたエルヴィーダが小さく息を吐きフィルマールを見る。


「フィル………ごめん。やっぱり僕の前では剣の稽古ーーーしないでほしいな。フィルに何かあったらと思うだけですっごく怖いんだ。」


 そう言いながらエルヴィーダはフィルマールの小さな身体に腕を回し、その細い肩におでこをのせる。


「うん。ヴィが嫌ならヴィの前では剣のお稽古はしない。」


 エルヴィーダの身体に細い腕を伸ばし少し丸まった背中をゆっくりと落ち着かせるように摩るフィルマール。


 そんな二人のやり取りにあてられ顔を真っ赤にしたメイローズが空に向かって咆哮した。


「甘いわっ!甘すぎる!マールは甘々なのよぉぉぉーーーーーーッ!! だからエルが勘違いするのよっ!」


 肩を怒らせ荒々しく呼吸するメイローズに、エルヴィーダとフィルマールは驚きの表情を向けた。


「自分が………優位だと思ったら大間違いなんだからっ!マールはねっ!マールの理想は閣下なんだからっっ!」


 メイローズの言葉にエルヴィーダが丸めた背中を跳ね上げ、薄いアイスブルーの瞳を瞬きさせるフィルマールをそろりと見る。


「本当なんだから! いつも言ってるんだから!そうよねっ!マール!」


「ーーーうん。曾お爺様だぁい好き。」


 頬をほんのり赤くして嬉しそうに頷くフィルマール。


 そんなフィルマールのはにかむ可愛らしい姿を目の当たりしたエルヴィーダが白目を向きその場に力無く崩れ落ちた。


「ヴィーーーッ!! 」


 慌てて手を差し出すフィルマールに向かって右腕を突き出して止めるエルヴィーダ。


 勢いよく突き出された腕に驚いてフィルマールは差し出した両手を胸の前に引っ込めた。


「………ヴィ? 」


「………………イヤ、僕はまだ十三歳だ。大丈夫だ。まだ大丈夫。強くなる。なれる。だってまだ未知数だ。何も決まっていない。」


「ヴィ?」


 フィルマールが顔を覗き込むが、ブツブツと何事かを呟くエルヴィーダに思わず半歩後ろに下がってしまった。


 そんな仄暗さを醸し出すエルヴィーダに身体を寄せ、フワフワの尾っぽを小さく振って主人を伺う空気の読める忠犬ダグ。


 主人の心内を理解しての行動なのか、鼻をしきりにエルヴィーダの顔に近づける仕草はなだめるかのように見えた。


 すると、


「………目標が高過ぎて丁度いいじゃないか。」


 ダグの頭をクシャクシャと撫でエルヴィーダがゆっくりと立ち上がった。


「フィル‼︎ 僕強くなるから!」


 いきなりの宣言にフィルマールの小さな身体が跳び上がった。


「フィルにーーーフィルが僕のこと強くなったって思ってくれるように、認められるように頑張るから !だから見ていて!」


 さっきの姿が嘘のように眩い光を放つエルヴィーダ。


「待って‼︎ 私だって強くなるんだからっ!騎士様になって目標は閣下なんだからっ!」


 負けじと声を張るメイローズが、拳を振り上げフィルマールにずいっと迫りよる。


 なんだかよくわからない状況で妙にテンションの高い二人に囲まれてしまってオロオロするフィルマールが、カダルに助けを求めるように視線を送る。


 それを少し離れた位置でニコニコと眺めていた当のカダルは、


「フォッホッホッホッ、御前は何処でも人気ですなぁ。」


 的の外れた言葉はメイローズとエルヴィーダの喧騒で掻き消され、フィルマールのSOSは届くことは無かった。




終盤に差し掛かり遅々として進まず、読んで頂いている方々には大変お待たせしてごめんなさい。


どうか柔らかく見守っていただけたらと思います。


さて、次も回想です。


長くなるようだと更に回想が続きますが……そこは神のみぞ知る。で、ございますのでよろしくお願いします。


本日も読んで下さりありがとうございました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ