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曾お爺様を負かしてから来て下さいませ。  作者: み〜さん


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紫色のヒヤシンスの花

大変遅くなりました。


よろしくお願いします。

 





 クルクル。キラキラ。





 漂う美しい音楽と、乱反射する眩ゆい光。花開くように舞う色とりどりの美しいドレス達。





 クルクル。キラキラ。





 人のさざめきと、ガラスの音。それと香水やアルコールの匂いが混ざり合う独特な空気。





『お嬢様、ほら、あちらにいらっしゃいますよ。』





 指し示された方に身体を向けて首を伸ばす。





『人が沢山集まったところがございましょう?そこにいらっしゃいますよ。』





 そう言われて爪先立ちしてみるけれど。





『………見えない。』





 侍女に無理を言って連れて来てもらったのに、沢山の方々が取り囲んでしまってチラリとも見えない。





『王弟殿下は何処でも大変人気でございますから。』





 右に左に首を伸ばしてみても見えない。





 三日後にはラジグール王国へ留学されてしまうのに。





『 昨日ご挨拶できたのでございましょう?』





 クスクス笑う声にちょっとムッとなったけど、今はそれどころではないの。



 だってお父様やお母様やお兄様や執事のムーガルやヒヨナには内緒で連れて来てもらったんですもの。





 クルクル。キラキラ。





 楽団の後ろのカーテンで隠された扉。



 見つからないように、煌びやかな大人の世界をそっと覗く。



 私のデビュタントは半年後。



 その前に留学されてしまうから、エスコートはお兄様がして下さることが決まってる。



 そう、ファーストダンスもお兄様。



 いつもダンスの練習相手はお兄様なのに、ファーストダンスって可笑しいと思うのだけれど。




 と、不意に浮かんだ優しい笑顔に胸を打つ鼓動が小さく痛み両手で押さえる。




『 ルーランド様………』




 幾度心の中でその名を唱えたか。




 どれほど湧き上がる熱い吐息とともにその名を呟いたか。



 私の名前を紡ぐその声にどれだけ心が震えたことか。



 手袋越しに触れた指先が熱をもって大きく高鳴るのを何度持て余したことか。





『 お嬢様、お出ましですわ。』





 人垣からスルリと現れたのは私の愛おしい婚約者様。





『 まぁ、最初のダンスのお相手は奥様ですわ。』




 輝く金の髪が眩しくて、微笑むお顔が眩しくて、ホールの照明が眩しくて、ルーランド様のお姿をちゃんと記憶に刻みたいのに私は目を細めてしまう。




 だって、留学されるラジグール王国は遠い。




 王都から港まで馬車で五日、港から船でラジグール王国まで六日。そしてラジグール王国の王都まで馬車で三日。



 今までのようにお会いできない距離。



 だから、いつでも思い浮かべられるように。



 今のルーランド様を焼き付けて。




 そしてーーーー




 三年後。




 今のルーランド様よりもずっと大人になったお姿でお戻りになったとき………



 素敵なレディになってお出迎えすると約束したんですもの。



 ルーランド様に相応しいレディに。



 きっと、美しいバイオレットの瞳を優しく細めて抱きしめてくださるわ。



 子供をあやすものではなく………愛する婚約者を慈しむように。



 そのためなら苦手なマナーやお勉強も頑張れるわ。



 大丈夫。思っているよりも三年なんてあっと言う間に過ぎるはずよ。





 クルクル。キラキラ。





 クルクル。キラキラ。





 ルーランド様のエスコートが完璧で、辺りから熱い吐息がさざ波のように漏れ広がる。





『 なんて優雅なダンスなんでしょう。周りにいらっしゃるご令嬢方もウットリされてますわ。』





 誰もが羨むルーランド様の隣を、この幸運を決して手放さないように。








 クルクル。キラキラ。クルクル。キラキラ。








 クルクル。キラキラ。クルクル。キラキラ。








 ーーーーーーーでも






 予定の三年が過ぎても、ルーランド様は帰国されなかった。






 四年経って、手紙の返事さえままならなくなって………






 五年後ーーーーーーー私達の婚約が白紙となった。







 それは理由もなく、書面だけの一方的な婚約破棄。







 ルーランド様からのお言葉さえも無く、








 帰国されることも無く………








 …………私は二十一歳になっていた。





次も回想です。

二話ぐらいだと思います。

お爺様のターンはまだです…。


待っていてくださってる皆様、ありがとうございます。

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