あり得ません!
「だから君は、何においても平々凡々と言われるんだよ。ちゃんと聞いているのかい?僕のように優秀な婚約者がいるのだからそれはさぞ不安な日々を送っていたのだと、悲しみに暮れて毎日枕を濡らしていたのだろうと、そこは申し訳なく思っているんだ。」
ーーーまだ続くのですか?今日はいつもより執拗ですわね。
イヤですわね……。
何とも思っていない方の思考が読めてしまうなんて。
と、言うよりも相手に思っていることがダダ漏れーーー失礼。相手に心内を簡単に知られてしまうなんて、外交官であるボンゴールド侯爵様の後を継ぐなど到底無理なのではなくて?大丈夫ですの?
まぁ、私には関係ありませんわね。早々に破棄しますもの。
16歳になったばかりだと言うのに!早く行動しなくては優良物件と呼ばれる殿方から先に手が付いていきますのよ。すでに出遅れておりますから、この件をさっさと終わらしてしまいたいのです!
まぁ!さっさとだなんて!淑女としてはいただけませんわね。
「まぁ!まだこんな所にいらっしゃったの?急がなくてはお茶の時間が無くなってしまいましてよ。」
そう言って私の目の前に現れたのは、シルバーブルーの髪をかきあげながら、エメラルドの瞳を優しく細めて首を傾げる妖精。
殿方の服装をしておりますが、ちゃんと女性で、しかも私の従姉。
パティーシャ・イグウェイ公爵令嬢。
別名【妖精姫】
私と同じく曾お爺様のひ孫ですわ。
内と外(内孫と外孫)の違いでこの容姿の違いはとても大きいと思っておりますわ。
「そうそう。可愛らしい頬っぺがこんなに冷たくなって!さぁ行きましょう。マール様。」
そう言いながら私の頬をムニムニするこのお方。
燃えるような赤い髪色に、金色の瞳のこの令嬢は、メイローズ・キャグッズ侯爵令嬢。
私の憧れ、キャグッズ侯爵夫人のお嬢様です!
「失礼だが、イグウェイ公爵令嬢もキャグッズ侯爵令嬢も今、私がガブァレア伯爵令嬢と話をーーー」
「終わりましたのでしょう?いつも一緒ですものねぇ。毎日ご苦労サマでございます。」
優雅に礼をとると、ニッコリと微笑むローズ様。
対敵用の微笑みですわね。さすがですわっ!
「程々にしておくようにと言っている筈ですわよね。ボンゴールド様。マールが可哀想です。」
殿方の服装で令嬢言葉は何と申しますか……イエ!妖精姫ですから、中性的でよろしいかと!
「フン!アイラが受けた事に比べれば、些細なことーーー」
「こちらでしたか!随分探しましたよ、マール!」
ーーー三人目の登場人物です。
シルバーブルーの髪を靡かせて、頬に薄っすら赤みをさしエメラルドの瞳がやっぱり私を優しく見つめます。
ええ、ご想像通りでございます。
サリューシャ・イグウェイ公爵子息。私の従兄ですわ。ちなみにこちらは【妖精王子】
パティとリューは双子なんですの。服装も同じなので、他の方達からすると、見分ける事が難しいようです。でも声でわかりますけど。
もちろん!私は姿だけで判別できましてよ!
「どうしたの?リュー。何かありました?」
パティが怪訝な顔で聞きます。
「パティ、今連絡があって、曾お爺様が時期こちらに着くそうだ。」
「エッ⁈ 曾お爺様⁈ 」
「ホントですの!リュー!曾お爺様がお見えに?」
思わずリューの腕に飛び付いてしまいました!
淑女としては失格ですが、従兄という事で、大目に見てくださいませ。
リューが私の頬に手を添え親指で優しく撫でます。
「マール、君が呼んだの?」
優しく言っていますけど目が、エメラルドの瞳がとても冷たいのはなぜでしょう!
「そうですわ!でも、お手紙を出したのは二日前で、ハヤブサでお願いしましたけど、これ程早く着くわけありませんわ。魔法でも使ったのでしょうか?」
ちなみにこの世界に魔法はございません。
「………マール、どうして」
パティまで、何ですか?
「気持ちはわかりましてよ、マール。でも御前を呼び出すのはどうかとーーー」
まぁ!ローズ様まで!
「でも!これでも我慢しましたのよ!私、もうスッキリしたいの。であれば、曾お爺様をお呼びするのが手取り早いと思いまして。」
リューとパティがそれぞれ反対方向を見上げ額に手を当てております。まぁ、鏡のようですわね。
ローズ様は私の頭を撫でてくれています………?
「イグウェイのーーー御前が、お見えになるのか?」
顔面蒼白のマティアス様。
ですわよねェ。それが普通の反応ですわよねェ。
イグウェイの曾お爺様。
ゴディアス・イグウェイ前公爵はその昔【破壊王】と呼ばれた方で、戦の多かった時代、勇猛果敢に攻め立てる姿は鬼神の如く。駆け抜け去った後には石一つぶても残ってはいないと、近隣諸国にまで武名を馳せたお方でございます。
曾お爺様を未だ尊ぶ方達は多く、曾お爺様自身、軍部には今も足を運んでいらっしゃるようです。お元気で何よりですわ。
お顔にはいくつもの名誉傷があり、小さな子供が見れば、泣き叫ぶやら気を失うやらでその場が酷い事になります。
でも、本当はとても優しく温かい方なのです。
それを知っている方々は多くありませんけど。
曾お爺様の噂はそれは酷い言われようで、よく知らな方達はマティアス様のような反応をいたします。
私が小さい頃、子供だけの集まりで知りもしないで曾お爺様のことを悪く言う子供達に無謀にも立ち向かい(靴を投付け体当たり)一カ月の自宅謹慎と半年のおやつ抜きをお母様から申し付けられましたわね。
でも、大好きな曾お爺様を悪く言われたんですもの、怒っていいと思いますの。
私にとって曾お爺様は勇者様で、できれば曾お爺様のようなお方と添い遂げたいと思っておりますの。
その点におきましても、マティアス様ではあり得ませんでしょう?
私にだって選ぶ権利はあると思いますの。
読んで頂きまして、ありがとうございます。




