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曾お爺様を負かしてから来て下さいませ。  作者: み〜さん


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19/56

私、伯爵令嬢ですの!

節分の日からの始動です。


今回乱暴な表現がありますので、ご注意下さい。

とばしたい方は終盤の夢の部分までとんで下さい。


よろしくお願い致します。

 



 私は今腕をプルプルさせ硬く茶色いパンを両手で引っ張っております!くぅぅぅっと歯をくいしばって千切ろうとしているのですがっっ‼︎


「なぁなぁ、お嬢様ぁ。本当におキゾク様のお嬢様なのか?」


 何日放って置くとこんなに硬くなるんでしょう!硬くって千切れないんですが?このパン!


「なぁなぁなぁーーったらなぁ!聞いてんだろ!」


 スープだと思われる液体も冷たくなっておりますし。硬いパンを浸して食べれば少しはマシになるのかしら?でも冷たいのは…………。


「お前!耳聞こえないのか!」


「お前じゃございませんし、聞こえておりますわっ。」


 溜息を吐いて騒ぎたてる人物を睨んでやります。


 大判の布で目以外をすっぽり包み隠し、黒い外套をまとったこの人物。


 硬いパンと薄い具なしスープを運んで来たこの方……身長や雰囲気?からすると、私と同じぐらいの年齢ではないかと思いますの。言葉遣いや声音では性別が判断できないのですが。


「じゃぁちゃんと答えろよ!」


 面倒ですわね。


「……それを聞いてどうしますの?」


 すると目が細まりました。なぜか嬉しそうなのですが?


「だってよぉ〜、伯爵様の娘だって聞いてたのにあんた綺麗じゃないし、顔いっぱいそばかすじゃないかぁ。オレ、おキゾク様の娘はみんな綺麗なんだと思ってたから、間違ったんじゃないかと思ってさぁ。」


 はぁっ⁈ 顔一面にそばかすはございません!頬に散っているだけですわっ!なんて失礼なっ‼︎


「一緒にいた他の二人はあんなに綺麗なのに、あんただけ町娘みたいだったからさぁ。もしかしたら貰い子かもしれねぇと思ってな。」


 よりによってあのお二方と比べなくともよろしいのにっ!


「……私、歴とした伯爵令嬢ですわ。」


 正真正銘!お父様とお母様の子供でしてよ!その証拠にお父様と同じお顔ですの!不本意ですがっ!


「……ふぅ〜ん。そう。じゃぁ、おキゾク様だからって綺麗な人ばっかりじゃ無いんだ。そっかぁ……そうなんだぁ。それならオレもおキゾク様のご令嬢になれそうだよなっ!オレ、お前よりも綺麗だしモテモテだし。そばかすなんて無いしなっ!」


「ふざけるのも大概になさいませ!淑女とは一日や二日でなれるものではございませんのよ!小さな時から積み重ねた学習の賜物なんです!いくら顔が美しいからと言って貴婦人にはなれなくってよ!」


 私だって日々頑張っておりますのよ!


 ……最近は淑女も難しいのですが……もちろんビスデンゼ様のおかげですわっ!あの方が私の淑女への道を阻んでおりますの!


 と言うか、この方女性ですの⁈ それも自画自賛⁈


「しゅ……くど?ぎぼ?何だそれ?それが大事だってことか?変なの。一番大事なモンは金だ!金が無けりゃ飯も寝る所も困っちまう。まぁ、おキゾク様には分かんねぇことだがな。」


 フンと鼻で笑われたんですが!何ですの失礼な!お金が大事なことぐらい分かっておりますわ!貴族だからって関係無くは無いんですのよ!


「まぁいいや。そんなことよりサッサと食っちまってくれよ。この後詰まってんだよぉ。」


 この後?


「何ですの?何がーーー」


「ほらほら!チマチマ食ってねぇーでよぉ!」


 私から茶色いパンを取り上げると、フン!とパンを千切って冷たいスープに入れ、その勢いで私の口の中に手ごと入れてきました‼︎


「ふガッ‼︎ ゔーーーーぐぅ⁉︎」


「ほら!早く呑み込めよ!それじゃぁ世の中生きていけねーぞっ!」


 パンを千切ってはスープに浸して容赦無く私の口の中に入れてきます!喉に詰まります!というより呑み込めません!それより何より!あなたの手!綺麗なんでしょうねっ!口の中に入ったんですがっっ⁈


「ノロイなぁ……。ほれ、スープで流し込め!」


 今度はスープの器を口元に押し付けてきました!


 これはすでに命の危機なのでは⁈


 手で押しとどめようとしましたが、アッサリ払いのけられてしまいました!


「飲め‼︎ 」


 傾けられた器からスープが口の中に入ってきますが、入りきらずに口の端から漏れ出し首を伝ってお洋服に染み込まれていきます!


 ぐっ‼︎ もゔゔーーーーっ‼︎‼︎ 無理 っ‼︎‼︎


「がほっっ‼︎ 」


「ひゃぁっ!吹き出しやがった!」


 うううっっ……苦しい……ですわ。


 ケホケホと出る咳やあがる息を落ち着かせようと首元を擦っておりますと、滲む視界がゆらゆら揺れておりますが……どうして?


「こんなことならスープだけ飲ませれば良かった!ソッコーセイ?らしいからな。」


 身体に力が入りません……瞼も重く閉じていきます……耳鳴りが頭の中で鳴り響いてーーー


「次、目が覚めたら狩の始まりだ。もちろんお嬢様は獲物。あんたを捕まえるのはオオカミだ。まぁ、せいぜい頑張って逃げなっ。」


 そこまで聞こえた時点で完全に闇に呑まれてしまいました。













『みんなと同じじゃぁイヤだから、ぼくはフィルって呼ぼう!』


 ニッコリ笑って私に話しかける真っ赤な髪の男の子。


『フィルは小さいからぼくとダグで守ってあげる!』


 男の子の横でちょこんと座ってフサフサの尻尾を千切れんばかりに振っている真っ白な犬。


 周りを見渡せば、小さなお屋敷とそれを隠すかのように生茂る木々。


『フィル!今日は何をする?うさぎを探しに行く?それともお花を摘みに行く?あっ!新しい本もあるよ?』


 これは……夢?


『よぉ〜し!今日は綺麗なモノを探しに行こう!フィル!さぁ、手をつなごう。ぼくがちゃんとフィルをエスコートするよ。もちろん、ダグも一緒にね。』


 目の前に差し出された、白くて柔らかそうな小さな手と優しい微笑み。


 幾つぐらいでしょう?


 私の周りにこのぐらいの子供がおりませんので、よくわからないのですが……私の視線の位置が上向きだとしますと、今の私は彼よりも更に小さいのでしょう。


 つないだ手を振り楽しそうに鼻歌を歌い歩く男の子。その後ろを真っ白な犬がついて来ます。


 夢にしてはあまりにも現実的で、もしもこれが夢の中で見ている私の記憶なのだとすると……私はこの男の子を知っているのでしょうか?


『ほら!あそこに綺麗な蝶がいるよ。お花の蜜を吸ってる。フィル!見てごらん。』


 金色の瞳がキラキラ揺らめいて私を見ます。


 木々の間から降り注ぐ木漏れ日に真っ赤な髪が美しく輝いてまるで【 戦さ神ガイビル 】のように神々しく見えますわ。


『フィル!いいもの見つけたよ!』


 知らない男の子のはずですのに、私の心が嬉しいと訴えております。この男の子と一緒にいることを喜んでおりますの。


『フィル、はい!これ。』


 差し出された小さな紅い石。


『ほらっ!こうやってお日様を見るとキラキラしてるよ。見てごらん。』


 この石ーーーー


『フィル綺麗でしょう?』


 私の宝石箱に……入っていたような……?


『これ、フィルが持っていてね。ぼくとずっと友達だって言う約束の石だよ。』


 約束……やく………そ……く?


『無くさないでね?大切に持っていてね。』


 真っ赤に燃える美しい髪は肩で切り揃えられていて、白すぎる肌とピンク色に染まった頬。薄い唇は紅をさしたように紅く艶やかで、とても美少年です。


『さぁ、誓いを立てよう。フィルの好きな物語に出てくるように、ぼく達も友の誓いを立てるんだ。』


 お互いの手で石を挟み込み、ギュっと握り締められます。


『汝、フィルマール・ガヴァレアと吾ーーーー』


 金色の瞳に捕らわれるこの感覚……なぜでしょう?覚えがあるような気がいたします。


 同時に呼び起こされた記憶は、咲き誇る紫色のリラの花と辺り一面に漂う甘い匂い。


『吾、エルヴィーダ・ガディベルアは炎の魔石に誓いを立てる。この先いかな困難に見舞われようとも決して道を違えぬことを、友と共に立ち向かうことを騎士の命である剣と盾ーーー剣も盾も無いけど、にかけて誓約いたそう。』


 エルヴィーダ・ガディベルア?


 エルヴィーダ?


 エル?


 ……ヴィ?





『家族はエルって呼ぶんだ。だからフィルはぼくのことヴィって呼んでね。誰にも呼ばせない。フィルだけに許す呼び名だよ。』




 突然の風に捲き上る紫色のリラの花弁が視界いっぱいに広がって………





『フィル 』





 身体に絡みつくリラの甘い匂いと、男の子の私を呼ぶ声に意識が重く沈んでいくような感覚に襲われます。







 ああっ……



 私、思い出しましたわ……ヴィ。













ありがとうございました。

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