『奇妙な死体のとんでもない事情』を読む
『奇妙な死体のとんでもない事情』(巽信二著 河出書房新社)を読んだ。とりあえず言っておくが、別に「奇妙な死体」は出てこない。多分、こういう題名にした方が売れるってんで編集者側が推したんだろうな。出てくるのは、実際にあった「死」の、驚くような話と厳粛な心情だ。
この巽先生は近畿大学の法医学教室の主任教授だそうだ。で、この本は数多くの実例と、阪神淡路大震災そして東日本大震災で多くの遺体を検分した先生の法医学者としての心情と、態度を書いている。実に真摯に遺体と向き合うその姿勢に、静かに心をうたれた。
さて、最初は池に落ちて溺死、と報告のあった遺体の話。溺死と聴いていたのに、首から上が鬱血してるし、眼球全体が真っ黒になっている。これは溺死などではなく、頸動脈を絞められた時に出る典型的な症状だった。で、身体を見ると背中に、水平に走り僅かに湾曲してる圧迫痕がある。
それで先生は、「現場に柵はなかったか? 鉄製で円筒形、高さは1mくらい」と捜査員に聴くと、「現場を知ってるんですか?」と尋ね返される。真相は他殺であり、犯人は連絡者だった。いつも使いっ走りにされて馬鹿にされているのが腹がたって、被害者が鉄柵にもたれているところを後ろから近づいて、首を絞めて殺した上で、池に落としたのだそうだ。
法医学者が、こんな風にドラマみたいに遺体の痕を見ただけで死因から現場の状況まで推理できるのか! と驚きだった。それに別の驚きのことも書いてあった。法改正して殺人には時効がなくなった。しかし死体遺棄事件に関しては時効がまだあり(2020年時点)、時効はたったの三年なのだそうだ。
これを利用した連続殺人犯の話が載っていた。京都、兵庫、奈良と場所を変えて、この男の周囲で人がいなくなる。警察は絶対殺人犯だと思っているが死体が見つからず逮捕できなかったのが、なんとか逮捕して死体を見つけた。しかし今度は、『殺人』を立証できるかどうかが問題になる。
しかし一年以上地中にあった死体の死因を特定し、殺人を立証するのは極めて困難だ。しかし胸腔内にあったプランクトンから「溺死」を特定し、犯人の自供の裏付けしたという。いや、他にも興味深い例が幾つもある本だった。




