豊かな暮らし、豊かな心
ラジオを聴いていたら、北島三郎の『与作』がフルでかかった。いや、フルで聴くのは初めてだ~、とか思って聴いてたが、あれ一番では女房は機を織ってトントントン。二番では藁を打ってトントントンと、あそこは同じフレーズなんだね。で、「あ~、これは失われた日本の原風景なんだろうなあ」とか思った。
その後、リスナーさんが電話で喋るコーナーが始まって聴いてると、お爺ちゃんが出てきた。お話の内容は、「交差点で子供が渡ろうとするので止まってやると、渡りきった後に子供たちが丁寧にお頭を下げるのが、とても可愛い。一日それでいい気分になる」という話だった。ああ、いうなれば『老人の「ちょっといい話」』か、と思った。
その爺ちゃん、何しに行ってるのかというと道の駅に野菜を卸しに行ってるという。何作ってるのかと訊かれると、ネギ、葉物野菜、大根、芋などとズラズラと並ぶ。それでこの前、年に五人くらい表彰されるうちの一人に入ったという、農作物の量が多いことに対する表彰だそうだ。この爺ちゃん、86歳だと。
その元気にパーソナリティが驚いてると、「去年は女房と世界一周のクルーズ旅行に行った」という。え~! 85歳で! しかもよく聞くと、産地で有名なブランド干し柿を生産してるのだけど、「周りに手伝ってもらって」200箱とか出荷するという。どんだけ、元気なん?
で、今、何やってるかと訊かれて、お正月飾りを作ってるという。え? 一月から、もう年末の正月飾り作りが始まるの? なんかその地域の独特の名前があったけど、それは覚えてない。それを五千個作るのだそうだ。五千か!
で、爺ちゃん何言うかと思ったら、「いやあ、さっき『与作』がかかったとったでしょう。あれ聴いて女房と『うちと同じだなあ』って笑っとったんよ」と言うではないか。どうやら正月飾りで、藁を打つらしい。つまり爺ちゃんの家では『失われた風景』ではなく、現役の光景なのだ。
正直言うと、感動した。なんと豊かな老年だろうと。豊かな暮らしで、豊かな心だ。だから子供の挨拶で気分がよくなるのだ。かたや公園で遊んでる子供の声がうるさいという人もいる。それはちょっと貧しいんじゃないかな。豊かな暮らしをしてるから、心も豊かなのか逆なのか。かくありたいな、と思った。




