9話「ウニ魔女の末裔クックさん!」
豪勢な装飾の壁画にシャンデリア。そして高貴に拵えた祭壇には教皇キラリストがいた。
その眼下の血のような真紅の絨毯に、二人の信者が跪いている。
「……あれから一週間経つ。ナウォキの馬鹿は捕まったようだ。元から期待していないが、ここんところ信者が次々と捕まっていくのは腹立たしいですねぇ……」
ギリッと悔しそうに表情を歪ませる。
跪いている二人の信者はその畏怖にピクッと竦む。
「この私が直々に国を落とせば早いんですがねぇ……。正直言って貴様らクズなどいなくても私一人いればいいんですよ。でもね……私はそんな暴力的な解決は好きじゃない」
「さすが平和主義者の鏡ですね」
「ははっ、左様です」
ギロッと二人を睨みつけ、苛立ちのままに掌を向けた。
すると赤い劇薬が四錠転がってきた。
「これは……!?」
二人は二錠ずつ手に取り、まじまじと見つめる。
「ナウォキの馬鹿は一錠だけでしたが、貴方たちには特別に四錠与えましょう。この一つで己の基本ステータス分、倍になる。二つなら基本ステータスは三倍。ありがたく思ってくださいよ」
「は、ははぁー! この上ない恩恵ありがたき幸せです!」
「ははっ! ありがたき幸せじゃ!」
「まずこれで『新緑の森』にいる魔女の末裔を屈服させて、洗脳しなさい!」
二人は「おお!」と舞い上がる気分で、この場を後にした。
キラリストは「フン!」と侮蔑そうに吐き捨てながら思案する。
王国の壁は思った以上に厚すぎて、我が戦力では届かない。自分が出向けば容易かろうが美しいこの地を荒らしたくはない。そのまま自分の物にしたいのだ。
白く美しく煌びやかな王国を、我ら『マリシャス教』総本山として新たに変える事ができれば真紅熾天使・五十聖神王に昇格した時に泊がつく。
まずは気になっている魔女の末裔を洗脳すれば、この上にない戦力になる。
膨大な知識と多彩の薬精製があれば、貴重な劇薬も改良と大量生産が狙えるだろう。和平新聞の強化も狙えるかもしれない。
「そして本格的にライトミア王国を内部から侵食していくのだ!」
ククク……、と歪んだ顔で含み笑いする。
モンスターを勝手に倒して、木の枝の上でドヤ顔するロリ少女。
青色のデフォルメ気味の太いトゲのウニ髪の毛でツインテール。エリとスカートが水色のセーラー風ワンピース。ハイニーソックス。
彼女は自ら『ウニ魔女の末裔クックさん』と名乗ってきた。
「……驚いたわ。まるでウニ魔女クッキー様が子供になったみたい」
「むー! 子どもじゃないっぞー!!」
トオッと降り立ち、頬を膨らまして不機嫌に唸り始めた。うー!
「確かに師匠そっくりだな。名前はクックサン……」
「ちがうー!! 本名はクックだけど、愛を込めてクックさんって呼べー!! クラスは『僧侶』だぞー!」
なんか怒ってるクックさんは掌からウニメイスを生み出す。師匠クッキーと同じ、分霊であるウニッコをそのままメイスにしたような形状で、トゲトゲの頭にキュートな肌色の顔が付いている。つぶらな目が二つ。口があるか見えないくらい小さい。
「うにあ──ッ!!」
なんとクックさんは全身からエーテルを噴き上げて、地響きしていく。
地を蹴ると大地が爆発。エーテルの尾を引きながら間合いを詰めてくるクックさんに、オレは慌てて星光の剣をかざす。しかし振り下ろされたウニメイスはそれを砕き、地面を穿って飛沫を噴き上げた。
飛沫と破片が散らばる最中、オレは絶句。
「子どもじゃないやーい!!」
「くっ!!」
いきり立って飛びかかるクックさんに戦慄を感じた。
オレは「おおおおお!!!」とエーテルを噴き上げて、太陽の剣でウニメイスを受け止めた。ズン、と大地が陥没して余波が周囲に広がった。周りの木々がバサバサ揺れる。
「うにりゃりゃりゃりゃあ──っ!!」
「くおおッ!?」
まだ小学生くらい小柄なのに、クックさんの猛攻は重い。ガンガン太陽の剣を連打で叩いてくるたびに手がしびれていく。連打を受ける度にオレの足元が地面にめり込んでいく。
マイシを思い出すな、と口を綻ばせた。
「今笑ったなー!! もう怒ったー!!」
「おーっし! 勝負だぁーっ!」
クックさんが突っ込んでくるのを見計らい、オレは通り過ぎるように横を駆けた。更に木々を足場に、そして滞空手裏剣を利用して、全方位からアクロバティックに太陽の剣を振るう。
縦横無尽に駆け抜けるオレの猛攻も、クックさんはウニメイスで器用に弾き散らしていく。余裕さえ窺える。
「フォォ────ルッ!!」
高角度から流星のような急降下しての渾身の一撃を、クックさんはウニメイスをかざして受け止めた。ズン、と地面が陥没。
ビリビリと互いを貫く衝撃。
ガン、と反発して弾かれ、オレとクックさんは間合いを離れて着地。タッ!
「へへ──っ! つっよいな──!! もっとやろ!」
「ちょっと待たんかい!!」
嬉しそうな好戦的なクックさんに、オレは慌てて掌を差し出して制止を訴える。
やはり聞かないクックさんがエーテルを纏ってオレと格闘を繰り返すハメになった。ズガガガガと打撃音が鳴り響く。その度に地響きと旋風が広がる。
「ヤ、ヤマミ、見てないで止めてくれ!!」
「これ修行にいいんじゃない?」
あっけらかんに笑うヤマミに、諦念すら抱いた。
「くそー粘るなー!! 前来てたヤツはすぐ倒せたのになー!」
こちらへ猛攻が通らなくて焦らされたクックさんは腕を交差し、収束される光子。次第に地響きが大きくなっていく。
な、ま……まさか……師匠同様、大爆裂魔法を!?
「止めんかぁ!!!」
森を震わせるような怒号で、クックさんはピタッと止まった。なんか青ざめてブルブル怯え始めた。
呆気に取られ、声がした方に振り向くと人影がこちらへ歩いてくるのが見えた。流れる金髪。漆黒の頭巾とドレスを纏ってしなやかなボディを揺らめかして現れる女性。
艶かしい毒を含んだ美人。
「ようこそぉ、いらっしゃったねぇ」
「漆黒の魔女アリエルッ!!!」
思わず叫んでから、ハッと気づいた。アリエルそのものではなく、背の低い老婆で漆黒の頭巾とローブを着ていた。
婆さんはこちらをジロリと細目で見やり「何しに来たぁ?」と怪しんでくる。
……老いたとは言え、顔付きも口調もアリエルと似ていた。まるでアリエルが婆さんになったかのようだ。
「いきなりですみません。ギルドの依頼で来ました」
「ふん! そうかぇ、ったく……」
婆さんはクックさんの方へ振り向く。ビクッと竦ませるクックさん。
「またイキナリ突っ込むのはどうかねぇ……、とことぉん説教して欲しいワケぇ?」
「すすすっすみませんでしたぁ~~!!」
クックさん涙目でペコペコで頭を下げ続けていた。
ポカンとしてしまったが「いや、オレがケンカ吹っかけました。クックさんには罪がありません」と庇ってみた。クックさん本人はパッと笑顔見せた。
「下手な嘘ねぇ。まぁいいさ、依頼人に免じて許してやる。付いてきなさ」
ホッとするクックさん。可愛い。
ヤマミを見ると頷いてきたので、言う通りにして婆さんの後を付いていった。
「見破られてたな……」
「ええ」
婆さんは半顔で「加害者がわざわざ喧嘩吹っかけました、と言うのかねぇ」と呆れてきた。
確かに言われてみれば……。しかし初対面のオレでも言動を察するのは凄い洞察力だ。長く生きてきた年の功かな。
年老いてても、滲み出る威圧は相当なもの。
あの凶暴なクックさんでさえビビるくらいだから、相当強いだろうなー。
……っと、木造小屋が見えた。
ずっと前から木を重ねて建てられた古い小屋っぽい。表面が腐食してるのもあり、緑の苔が覆ってるのもある。しかし簡素な造りの割に丈夫に拵えた感じがする。
婆さんが入口手前の階段を上り、扉を開くと、振り向いて「入りなぁ」と一言。
クックさんが当然のように婆さんを通り過ぎ、オレたちは「は、はい! お邪魔します!」と会釈して、後に続く。
小屋の中は意外と広く、いくつか部屋が分かれていた。
玄関、応接間、書斎、研究所、寝所、台所など生活に必要な環境が揃っていた。見渡すオレたちに婆さんは「そこら辺に座りなぁ」と台所へいそいそ向かう。
つい「失礼します……」と少し汚れたソファーにヤマミと一緒で座り込んだ。
「えへー、ゆっくりしてってなー!」
側のイスにクックさんが元気よく座ってきて、足をバタバタさせている。
ほどなく婆さんは二つのコップを手に現れてきた。それを手前のテーブルに置く。
「茶でも飲みなぁ。毒とか入れてやしないよぉ」
よっこらしょっと、と婆さんも向かい側のソファーに腰掛けた。
「私は“森の魔女”リエーラだよぉ。このバカ弟子の世話をするという依頼を引き受けたんだねぇ?」
「は、はい! あ、オレは城路ナッセ」
「そうです! 私は友夏ヤマミです」
うう、緊張するなぁ。ジロッと見てくるから面接みたいだ。
側でクックさんが「あたしウニ魔女の末裔クックさんだー! クラスは『僧侶』だぞー!」と言っていたが、それ最初に聞いたぞ。
「その前にナッセ、あんたぁ『漆黒の魔女アリエル』って言ってくれたねぇ」
「あ、いや……。知り合いと雰囲気が似てたもので」
まさか、世界の法則をねじ曲げて『洞窟』と『魔界オンライン』運営してるアリエルの仲間?
「本人と会った事があるのねぇ?」
「え?」
「ええ、存しております」
緊張しててもヤマミは受け答えできてていいな。
「…………フン! まさか先祖さまが本当に実在してたとはねぇ」
あとがき雑談w
クックさん「ねー森を出ちゃダメなの?」
リエーラ「待つんだよぉ……。運命の人をねぇ」
クックさんはパアッと明るい笑顔で目をキラキラ。
クックさん「王子様が来て、そんで求婚されてお姫様になってー、それで王妃になるの!」
リエーラ「はいはい」(また願望かねぇ)
クックさん「そんでリエーラ婆さんも一緒にお城で幸せに暮らすのー!」
リエーラ「ふ、フン、できるものならねぇ」(本当は内心感涙しててジーンしてる)
森でナッセとヤマミを見かけたクックさん。
クックさん「白馬っていうか、白髪の王子様?? そんで付き人(ヤマミ)かー!」
次話『意外な事実!? クッキーとアリエルの子孫なのに何故?』




