8話「クエストをバンバンこなすぞー!」
朝のまぶしい日差しが窓から差し込んでいる。
透けるような下着のヤマミは慎ましやかに普段着に着替えていた。おっと見惚れてる場合じゃねぇや。
「ヤマミ……」
「なに?」
着替え終わったヤマミはキョトンと。
「この『刻印』は邪魔にならない?」
オレはシャツをすくって、ヘソを囲む小さな『刻印』を見下ろす。
異世界へ行く際に師匠から施された『封印の刻印』。五分の一くらい出力を抑える。だから先輩に見せた威力値も低かった。
師匠いわく「戦闘力の高さにかまけていると、本当の強さを見失いがちだから!」とのこと。高い戦闘力は己を慢心させるらしいな。
とは言え、緊急時には自動的に開封されるようだ。
「師匠も言ってたでしょ? 自惚れない分、このままの方がレベルアップしやすいし、開封時の戦闘力も上がるからね。お互い頑張りましょ」
「ああ……そうだな」
「ふふっ」
ヤマミの笑顔愛しい。
朝飯を済ませ、オレたちは冒険者ギルドへ向かってクエストを求めに行った。
壁に取り付けられたクエスト掲示板には多くの依頼票が貼られていた。簡単なものから難しいものまで多種多様。報酬額も難易度に沿って違うようだ。
「こ、これが本物の……ギルドのクエスト!!」
「ファンタジーでよく出てきた設定が、ここに……」
異世界では本当にギルドが存在していて、クエスト掲示板がある。この目で見れるとは思わなかった。本当に異世界転移してるんだなと実感させられた。
住宅地の屋根の上をオレたちはピョンピョン飛び移っていた。
「感触した!! 二時、五時、九時の位置!」
「分かった!」
オレの広大な『探索』で該当するモノを感触し、ヤマミが黒い小人を三人散開させた。それぞれの分身が住宅地の狭い隙間を伝播で通り抜け、逃げる猫を捕まえた。
「フニャー」
興奮してあばれる三毛猫。ヤマミの小人は「よしよし」と宥めた。
次第に「ふにゃ……」と大人しくなった。ごろごろ。
「九時の方向だったわ……」
「よし! クエストクリアだな!」
オレはガッツポーズで拳を振り上げた。
「ありがとうございます! ああ~ミアちゃん帰ってきてくれてよかったー!」
「にゃあ~」
涙目の婦人が三毛猫を抱きながら、嬉しそうに頭を下げていた。
依頼票にハンコをポンと押してもらって終わった。婦人と猫が安心して笑ってるのを見て、なんかこっちも嬉しくなってくるなぞ。
……オレは元いた世界で、そういった事はなかった。
生活するのに必要な給料をもらう為に淡々と作業するだけの、ゴールも何も見えぬ無為な仕事。連なる会社で経済社会が成り立つ最中で、一体どれほど充実した日々を送れる人はいるのだろうか?
だがオレは今無性に充実感がしてる!
「困った人を助けて、その人が喜ぶの見てるとさ」
「うん」
「嬉しくなってくる。だから、もっともっと頑張ってみんなの笑顔を見たいって思えるようになるんだ」
「私も分かる。あなたの笑顔好きだから……」
そう言われると気持ちが暖かい……。
ヤマミが一緒にいてくれるだけでもすっげー幸せだなって思えるし、オレに共感してくれるともっと嬉しい。
二人でクエストをやって充実感も味わえる。
好きな人と憧れた異世界来てよかった────!
家を蝕む黒ネズミの駆除で、犬の獣人喜んでくれた。
王国外の薬草の収穫で、ケガしていたエルフの魔導士が喜んでくれた。
引っ越しの手伝いで、ホビット夫妻が喜んでくれた。
荷物の届けで、老夫妻が笑顔でありがたってくれた。
数日の間にF~Dランクのクエストを中心に依頼をことごとく解決していった。
受付のオッサンは上機嫌で報酬の金袋を出す。それを確認して受け取る。
「おつかれさん。お前さんたちの評価がすこぶる良い感じだ」
「うん」
「……一つ聞いていいか? Aランク冒険者に高飛びしたのに、なんでランクが低いクエストばかりやるんだ?」
ヤマミが前に出て「私たちは、ここを知らないので地理を知り馴染む為にやっていました」と答えた。
オッサンも目を丸くして「ほぉ~」と感心してた。
「お、オレは……もう一つ。たくさんの笑顔みたいから、かな」
照れくさく思うオレに、オッサンはニッと快く笑う。
「お前さんたち、中々しっかりしてるな。大概、他はランクが上がるたびに高いレベルのクエストへこぞって挑戦する事が多い。それで身の程知らずが命を落としたりするのも少なくない。中には出世が成功してのし上がるヤツがいるんだが……、ソイツは下の人を見ずで終始不人気ってのも多い」
「そんな事が……」
「それを見込んで、特別な依頼を引き受けてもらいたい」
なんかマジ顔で言ってきたぞ? と、ヤマミを見ると頷いてきた。
「どんな依頼なんです?」
「これだ」
依頼票がカウンターの上に乗せられた。
「クエストの割に報酬額が少ねぇから掲示板貼ってても誰も引き受けねぇ……」
【バカ弟子の世話】Cランク
依頼者:リエーラ
「バカ弟子のおてんばが日々手に負えなくなっていくねぇ。七日間、世話引き受けてくれんかねぇ。頼むから腕のいいヤツよこしな。威力値が低い半端もんは要らないよぉ大怪我したくなかったらねぇ。そんなワケで『深緑の森』の一軒の小屋まで来なぁ」
報酬額:800円
安っす……お小遣いレベルだ……。
これまでの依頼は数千円から数万円くらいだったぞ……。
分かりやすいように日本円で表記してるけど、実際は銅貨銀貨金貨で流通してるんだぞ。
「ああ。最初は初心者の冒険者が行く事が多かったけど、いずれも挫折。しまいに誰も引き受けねぇ……。でもあの婆さん、意固地と取り下げないんで預かってたワケだ」
「報酬額上げればいいのにね」
「その説得はしたが、頑と聞かないんでね……」
どんな婆さんかは知らないけど、頑固そうだ……。
しかしバカ弟子でおてんばって書くからに、相当じゃじゃ馬なんだろうか? それとも不良なんかな?
「リエーラ、その婆さんはどんな人なの?」
「“森の魔女”と呼ばれるほど高名な『魔道士』だ。だが『錬金術士』も顔負けの、あらゆる知識を持ち、数多の薬を生成できる。しかし滅多に社会に関わってこない偏屈婆さんだからなぁ……」
「森の魔女……?」
「引き受けましょう!」
なんとヤマミがグッと拳を見せて、こちらに振り向く。
オレも「あ、ああ……」と流されるままに引き受けてしまったぞ。オッサンは成功したら額は自前で弾むから頼むよって言ってくれた。
今日は遅いのでホテルに泊まって夜を明かす事にした。
その内、マイホーム構えたいなぁ……。
ライトミア王国から出て、山脈へ続く獣道へ歩いて行った。側で広大な湖が広がってて圧巻させられた。
距離的に『深緑の森』は王国から三十二キロ離れた所にある。
異世界特有の広い草原と、点在する木々。側面の緩やかな下り坂に湖。
通っている獣道を行き交いする人と手を振って軽い挨拶を交わしたりした。たまに馬車も通り過ぎていった。
しばらく歩いていると、道に分岐があって一方が森へ続いていた。
「森の方へ行きましょ」「ああ」
ようやく浅かった森も深くなっていって暗く感じるくらいになっていく。辺り湿っぽく、緑の苔がびっしり。木の幹にキノコまで生えていた。枝から枝にぶら下がるツタ。奇妙な鳴き声が不気味。
道も狭くなっていって心許ない。
数時間歩いていると、穿り返されたようなクレーターが見えた。
「あちこちあるわね……」
「ホントだ」
何か凶暴なものが暴れた感じで、木が倒されてるのもあり、崖が崩されてたり、滅茶苦茶に荒れた風景が続くようになった。
荒らされてから数ヶ月経ったものや最近のものまで様々だ。
「モンスターならエンカウントするんだよな……?」
「そうね。野生動物にしても、これはありえない。多分人為的」
「人為的?」
目を細めたヤマミは頷く。
すると途端にエンカウントして反転世界へ誘われていく。
なんとピンクの恐竜が「グルル……」とこちらへヨダレを垂らしながら殺気向けてくる。
【ピンキューザウルス】(恐竜族)
威力値:16000
桃色の肉食恐竜。意外と素早く器用に顔を動かして噛み付いてくる。獰猛で凶暴。建物ごと噛み砕くので逃げるのが難しい。咆哮を空気砲として放つ「咆哮波」も厄介。
突然、口を開けたかと思うと「オアッ!!」と何か吐いた。
ドグオッ!!
咄嗟に飛び退いたが、さっきまで踏みしめていた地面がクレーターに抉れていた。
ヤマミは「咆哮波ね……」と腰を低くして構えていく。オレも光の剣を生成する。しばしピンクの恐竜と睨み合い……。
「うにりゃー!!」
突然、甲高い叫びと共に小さい人影が急降下。
なんとトゲトゲのメイスを振り下ろして、ピンク恐竜の頭を地面に叩きつけて土砂を噴き上げた。
──煙となって霧散。エンカウントが去り、オレたち呆然……。
スタッと木の枝に乗り、一人の少女が胸を張って誇らしげにしていた。
「さぁー! ウニ魔女の末裔であるクックさんがきたぞー!」
ハキハキした自信満々の笑顔。青色のデフォルメ気味の太いトゲのウニ髪の毛でツインテール。エリとスカートが水色のセーラー風ワンピース。ハイニーソックス。
あの恐竜を一撃で倒したギャップもあり、オレとヤマミはポカンと見上げた。
「ロリだ────────ッ!!?」
あとがき雑談w
コソコソ異世界話。実は依頼人全員『十二光騎士』なんですよ。
猫抱く婦人=“光鱗”ヘリュアレ。
三毛猫=“火烈獣”ミアちゃん。←猫も入ってたのか~!?
犬の獣人=“水連”フフモウ。
怪我したエルフ=“五光”ジュエネーブ。
ホビット夫=“穴抜け”リアモッド。
ホビット妻=“綱手”レマ。
ギルドのオッサン=“樽巻”ビアテーザ。
ナッセ「キャラ設定面倒だからって、こじつけた~~!!」
※でもマジで、そういう設定ですw
次話『まさかクッキーの子孫!? ヒモ解かれる系譜』




