25話「降臨!! 二人の魔女!!」
上空から見下すようなマリシャスの巨大な目玉。
《教皇キラリストよ……! うぬはただの捨て駒に過ぎん……!》
大災厄の円環王マリシャスは以前にも、この世界へ間接的な干渉を試みていた。
ネガティブ濃度を深めて殺伐な世界観へ引きずり下ろそうとしていた。その時に地球側からのヤミザキたちが来ていたタイミングでもあった。
しかし────それは頓挫した────!
とある一人の『鍵祈手』によって!!
だからナッセたちが来た時は平和な異世界に戻っていたのだ。
その事はマリシャスにとってはこの上にない屈辱。まるで自分が作ったオモチャを取り上げられて解体されたような胸糞悪いやられ方だったからだ。
だからこそ教皇キラリストをダシにして聖絶で試みたのだった。
この『聖絶』は条件を満たして発動させさえすれば、その世界を一度滅ぼして地獄へテラフォーミングできる超強力な概念操作系である。
これで通用するならば、越した事はないと!
「デコレーションフィールドッ!! 攻撃無効化ッ!!」
赤い大洪水が王国へなだれ込んでくるのを、必死な面持ちでオレは右手を突き出して発動した。
無効化空間がシュワ────ッと王国ごと覆うほどまでに拡大された。
高々と覆いかぶさる赤い津波がジュバッと蒸発するような音を立てて、おびただしい光飛礫が猛吹雪のように吹き荒れてきた。
「ぐぐっ!」
お、重すぎッ!! つかこれだと無効化そんな続かねぇッ!!
ヤマミがオレの背中から両手で支えて、全力全開で開放する。
しかし向こうは無限かってくらいに赤い大洪水は際限なく流れ込んで、水位は急激に増していく。やがてオレは息を切らしながら膝をつく。
「も、もうダメだッ!! た、た、耐え切れねぇぇッ!!」
「ナッセェ!!」
勇者と魔王は絶句したまま、自分が何もできない無力に打ちひしがれる。
「く……くそ! な、何もできないのか!?」
王国の騎士や冒険者はもちろん、魔族も誰もが無力を痛感していた。対抗できるのが目の前の少年一人しかいないばかりに歯痒く思った人も少なくない。
ティオスも完膚なきまでに無力感に打ちのめされた思いだ。もはや諦めきっている。
クックさんは震えながら「がんばれ────っ!!」と叫んでくれた。
メーミが「ありったけ注ぎ込むわ!!」とMP回復薬の注射をオレの肩に射す。
しかしそれでも焼け石に水だ。
体中が悲鳴を上げる! 心が潰れそうだ!! もう限界だァ────ッ!!
「うううおおおおおおおああああああああああッッ!!!!」
すると眩い明るい光が視界に入った。カッ!
なんと赤い大洪水が空へ流れ始め、それらは上空で大渦を描きながら遥か向こうの『塔』の頂上へ吸い込まれていった。
ズズズズ……ズッ!
あれだけ無限とも思える大量の血を一滴残らず吸い込みきってしまった。
エンカウント空間が収まり、元通りの平和な異世界風景へ戻ってこれた。
「な、何が起きた……??」
「あっちの塔みたいなのが全部……吸い込んだわ……」
激しい息を切らすオレは状況が読み込めず、苦しい体に呻いて屈む。ヤマミが慌てて「大丈夫?」と介抱してくれた。
しかし間一髪で助かった事だけは分かった。
ほうっと安堵して、疲れた体をヤマミに預けていく。ふうふう……。
「…………『星塔』か!」
遥か遠くで聳える塔を眺めながら勇者は呟いた。
オレはハッと思い出す。
確か、二年前にこの異世界に来て、リボナ村のギルドの屋上で見かけた。
遠くの地平線から、薄っすら細々と伸びている直線上の影。それは遥か上空まで伸びていて、霞んで見えなくなっている。
異世界で放浪していたアクトはこう言っていた。
「俺も噂でしか聞いてねェがな……。異世界の古代文明に関係するもので、この星のコアから繋がってるっつー話だァ」
「え? ま、まさか……?」
「あァ、地中深くにまで及んでるってな。そんで頂上は宇宙にまで飛び出してるっつー話だァ……」
「何の為に?」
ヤマミは怪訝に食ってかかる。
「知らねェよ。ただ、アレが『星塔』って呼ばれてる。……直径はゆうに数十キロ。すげぇ太い塔だァ。行った事ないから信じられねェがな」
オレはヤマミへ見やる。コクリと頷いてくる。
宇宙にまで伸びてそうな『星塔』は、今頂上をあらわにしている。
しかしまさか、そういう役目だったとは…………!?
マリシャスはそれを見届けて唸るような音を響かせた。
《…………そうか! まだ……燻るか…………!》
忌々しく呪うような口調で目をゆっくり閉じていく。そして同時に席巻していた圧倒的な怨念の威圧が引いていった……。
シュワシュワァァァ…………。
そして入れ替わるように、塔の頂上からドォンと轟音と共に光柱が放射された。
その遥か上空でモワモワと二つの人型を象っていく。
「あ、あれを見ろっ!!」「ああっ!!?」「人が浮かんで……!?」
「またさっきの目玉のヤツか?」「いや邪悪な気配はないぞ!」
「こ……これは一体何が起きているのだ??」
騎士や冒険者はおろか魔族側もザワザワ戸惑っていく。
翼を模した裾がたゆたう白赤混じりのドレス。両手には扇。蛍光色の赤い長髪。赤い目。細身のスレンダーな女性。にこりと微笑んでくる。
傍らも翼を模した裾がたゆたう白青混じりのドレス。天女が持ちそうな薄い羽衣を纏う。蛍光色の青い髪のお下げツインテール。青い目。豊満なボディで大人しめなタレ目。
見た目の年頃としては高校生くらいか?
《んふふっ! 驚かせちゃったかな? 初めまして! 私は赤紅魔女サラカートだよーっ!》
《こちらは青藍魔女エムネだよ……。うふっ》
《ふたり合わせて『塔の魔女』って呼ばれているんだよーっ!》
オレは唖然とした。側のヤマミもポカンだ。
勇者も魔王も騎士も冒険者も魔族も、その神々しい魔女の姿に呆気に取られていた。
「と、塔の魔女さま??」
《ずっとずう──っと前にね『運命の鍵』による願いで『星塔』システムをこの世に組み込んだよー。そして私はそれを管理する魔女になっちゃった》
《こちらもだよ……。サラと一緒にね……》
てへ、と微笑みながら舌を出すサラカートに、控えめな笑顔のエムネ。かわいい。
しかし魔女という事は、師匠であるクッキーやアリエルと同格なんかな?
するとザッと踏み出す魔王が「塔の魔女サラカートとエムネ、だったな? 何が起きたか説明しろ!」と豪胆に問いただしてくる。
勇者は「魔女様に無礼だぞ!」と叱責し、魔王と睨み合う。
《あーいいですよ。勇者さん、元からそのつもりで出てきたもん。だから魔王さんも慌てず待っててくださいねー》
《聞き分けのない子は嫌いだよ……》
「ぬ……!」
汗を垂らし押し黙る魔王。
どことなく巨大な圧が感じられた。邪悪なマリシャスとは違い、邪気はないものの天上の存在の圧倒的感は凄まじいものだ。
妖精王のオレだから分かる。ありゃ間違いなく師匠と同格だ。
《エム! 分かりやすーく説明してやってー!》
《幾度もなく……、今のような絶体絶命の危機が起きた時に『星塔』はそれらを全て吸い込んで封印してきた……。封印しているだけだから、未だ途方もない悪しき事象は滞ったままだよ……》
「封印……?? 吸い込んで無効化とかじゃなくて?」
サラカートは《はーい》とニッコリ笑う。
《……なので、これから『ロープスレイ大祓祭』を開きまーすっ!!》
《世界中巻き込んだお祭り始まるよ……。うふっ!》
そんな唐突な宣言にオレたちは素っ頓狂な顔でしばし硬直……。
「えええええええええええええええええええッ!!!??」
《『聖絶』を浄化する為に必要な儀式だよっ! んふーっ》
驚くオレたちを前に、人差し指を立てて念押す感じの態度でにこり。
あとがき雑談w
サラカート「見た目は高校生だけど、ながーい時を生きてきた上位生命体だよー!」
エムネ「うふっ! 私もだよ……」
魔王「なにッ! こ、これがいわゆるメスガキかッ!?」
勇者(ロリババア…………??)
ナッセ(オレも成長遅れてるからなぁ……)
次話『あの懐かしいキャラが再登場!? 楽しみに!』




