182話「新生! 魔神皇帝ロゼアット降臨!!」
魔神デウスは内なる世界で、なぜたかが人間のロゼアット皇帝が現れているのか疑問だった。
《き……貴様!? このワシの精神世界にっ……??》
《口を慎め愚か者めが! 余はロゼアット皇帝ぞ!》
目の前の獰猛な悪意と欲にまみれた皇帝が手をかざすと、魔神デウスの腹部に赤く輝く『刻印』が浮かび出す。
すると魔神デウスは激痛に襲われた。
《グッ、グアアアアアアアアアッ!?》
なぜだ、なぜ、こんな事に!? 魔神デウスは苦しみもがく。
それを見下ろすロゼアット皇帝はニヤリと笑む。
《余とお前は一心同体。貴様の苦しみや心の声が伝わってきておるわ》
《な……なに!?》
《もはや一蓮托生! そして余も永久不滅! 未来永劫、人類の皇帝として全ての世界を網羅していく存在となるのだ!》
魔神デウスは見開いて絶句するしかない。
途方もない貪欲さが伝わってくる。これほど野望に満ち溢れた人間とは思わなかった。
《……貴様が馬鹿な約束を結んだせいで、負ければ一緒に地獄へ落ちる事になる。だが負ければの話。然したる問題でもなかろう》
《な、何を言っておるっ!? このワシと貴様が一緒だとっ!?》
《ふっはっはっは、信じられぬか? 余はかねてより“人類を最高地点にまで進化させる”為に、何をどうすればいいか執拗に模索し続けてきたのだ》
背後に、ロゼアット帝国内の研究室などで皇帝が研究者といろいろ話をしているのが映し出される。
皇帝と魔神が繋がっている為、記憶も共有されているからか。
《人間はどうしても決まった天命から逃れられない非力な存在……》
皇帝はそれを拭うべき、研究者と論議を重ねていた。
「この帝国も余も、いずれは長い歴史の果てに霞んでいって滅ぶ時がやってくる」
「ええ。それは過去の歴史で証明されてますしね」
「それでは“人類は進化できない”のだ」
「それはそうですが…………」
妙な力が働いて文明レベルが上げられないのも把握している。
ロゼアット皇帝としては、その“枷”を外したかった。
「繁栄しては滅んで、繁栄しては滅んで、その繰り返しでは進化の最高地点へたどり着くなどできはせぬ。そのまま惑星の寿命に沿って無となるだけだ」
「それは仕方がないでしょう……」
研究者は「当たり前の摂理」として諦めているのが大半だったが、皇帝は違っていた。
「だからこそ、この余が永遠に続く未来を築き上げたいのだッ!!」
誰もが驚かされる、執念こもる発言。
だが、皇帝自身も分かっていた。いくらそんな風に吠えた所で天命は覆らない、と。
時間の経過と共に老いていき、いつかは死ぬ。
……研究者はそれを分かっているからこそ、皇帝の言葉など儚い夢としか聞こえなかった。
「でも、話を聞いた事があります」
「なんだ?」
「妖精の種、もしくは魔獣の種……、それを摂取すれば種族進化して上位生命体に……」
ドン、皇帝はテーブルに拳を叩きつけて黙らした。
怒りに漲った形相に、研究者は震え上がる。
「ふざけるなッ!! 人間を止めるなど本末転倒ッ! 人の誇りを捨てるに等しいッ! 余は人類として進化しなければならぬのだッ!!」
叩きつけた拳から血が滲む……。
これ以降も、死後どうなるのか、地上界の他にどんな世界があるのか、寿命をどうやって伸ばすのか、ありとあらゆる方法を模索し続けてきた。
例の災厄で、ついに幻獣界へ入る機会を得たが、侵略する前に追放された。
それでもロゼアット皇帝は絶対に諦めなかった……。
《で、ちょうど貴様が復活してきて、我々を誘ったのが千載一遇のチャンスだったワケだ》
《うぐっ……!》
魔神デウスは再び絶句する。
ロゼアット皇帝はニヤリと醜悪に笑む。
《見下し踏み躙ってくる貴様の事だから、我々をすげ替えてくるだろうと思ってたわ》
誘いに乗った皇帝たちを騙して葬り去った。その後で思考をコピーした魔神兵にすげ替えた。
だが、それさえ読まれていたのだ。
《馬鹿な!? 死後、蘇るすべなど……》
ロゼアット皇帝は右手の甲を見せて、赤い刻印を魔神デウスに突きつけた。
《それがこの『支配王紋』よ!》
《ううッ!?》
《死ぬ前に貴様へ刻んでおいた。握手に応じてくれた時にな。これは概念の存在が相手だろうが関係なく通用する》
魔神デウスはハッとした。
誘いに乗ってくれたロゼアット皇帝と握手した、その瞬間だった。
そこから既に皇帝と魔神は一心同体になっていたのだ……。
《騙し騙されるは世の常よ……》
皇帝を騙す為に、快く握手したつもりだった。
たかが非力な人間。どうにもならないだろうとタカを括っていた。いくらでも好きなように料理できると思っていた。
だが、その隙を皇帝は狡猾に突いてきたのだ……。
《そ……そんな……!?》
《これは他の者に『刻印』を刻む事で、その者の意思関係なく魔法力などを強制的に徴収して我が物にできる。そして思い通りに服従させる事も可能。更に言えば、体を乗っ取る事もできる》
《はっ!! だ、だからかっ……!?》
それで魔神デウスは自身が乗っ取られた、と理解した。
だが、永久不滅である故に意識は消されない。
《貴様の意思も永久不滅で消せぬのならば、余の隷属にすれば済む事よ……》
《こ……こんなものッ……消し……グアアアアアッ!!》
《無駄だ! 浄化力に秀でた妖精王ならいざ知らず、低俗な貴様では絶対に解けぬわ!》
再びの激痛が魔神デウスをのたうち回らせ、苦悶の声を響かせる。
《この余が魔神皇帝となったからに、貴様はただの下僕に成り下がったのだ。永久不滅にな……》
してやったりと、ほくそ笑むロゼアット皇帝。
逆に魔神デウスは絶望し、憎悪と焦燥と悔恨入り混じりで情緒グチャグチャになっていく。
《フフフ……、ハハハッ、ハァーッハッハッハッハッハ!!》
俯いていく魔神デウスの虚像に、オレは違和感が膨らむのを感じた。
いち早く気づいていた風の勇者バベナスは「来るぞ……」と呟く。
誰もが、膨らんでくる醜悪な威圧に驚いていった。
大気がピリピリ震え上がっていくのを肌で感じる。汗が頬を伝う。
ズズズズズズズズズズズズズズ……!
俯いている魔神デウスの上から、黒く濁ったフォースがドロドロと立ち上っていって悍ましい威圧を振りまいていく。
その濁りで凄まじく底知れない悪意だと分かる。
立ち上っていくフォースは黒いドクロを模して、下部から悪魔の四肢が生え、左右からは黒翼を広げていく。
ポコポコと粘着性の沸騰が繰り返される。
「なに……あれ……!?」
「これほど悍ましい『偶像化』ァ……見た事ねぇぞ……!?」
リョーコもアクトも汗をかくほどだ。
《諸君、驚かせて済まなかったな……!》
巨大な黒いドクロの『偶像化』を上に、濁った黒いマント、長く伸びた黒髪……、顔に斜めに走った傷が目立つ厳つい中年の皇帝が現れる。
鋭い眼光を宿す両目、執念深さと貪欲さを兼ね備える醜悪な笑み。
誰もが絶句し、驚いていく。
「「「「ロゼアット皇帝ッッ!!?」」」」
まるで民衆に手を振るかのような爽やかな仕草を見せた後、目を細める。
《改め……以後、余は『魔神皇帝ロゼアット』ぞ! みなの者控えおろう……!》
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
途端に放射状の黒い烈風が周囲へ吹き荒れて大会戦場を揺るがしていく。
皇帝の鋭く突き刺すような威圧が具現化されたかのようだ。
ビリビリ肌が痛いほどに響く。
しばらくして収まった後、煙幕が地表を流れる。ヒュウウ……!
「くっ……!」
オレたちは不穏に感じ警戒を募らしていく。
《この魔神デウスは余と一蓮托生となった。もはや敵にあらず。そして余は人類代表として君臨し、永久不滅にこれから良き未来を築いていくと宣言させていただこう》
魔神皇帝は大胆不敵にそう告げてきた。
「じ、人類代表だとっ!?」
「何を馬鹿な事言ってやがんだ!?」
「今更皇帝が出てきて何をやろうってんだよ!?」
《なにも貴様ら各国と敵対するつもりはない。むしろ味方だ》
オルキガ王は信じられない顔で「何をバカな事をッ!?」と叫ぶ。各国の王も同様だ。
《人類が繁栄するにあたって、むしろ各国と共に協力してより良き未来を築く信念は今も変わってはいない。だからこそこれまで侵略戦争をせず、勢力拡大していったのだ》
「そうか……だから妙に大人しかったのか……」
「てっきり魔族との戦いに備えてるとばかり……」
不穏に軍事増強をしながらも各国に侵略する気配を全く見せなかった理由に、各国の王様は納得した。
《しかし、余も天命に限りがある人間。いずれは長い歴史に埋もれる。だが、永久不滅の魔神皇帝となった今、その心配はない》
それを聞いてどことなく凄い不安が募る。
確かに嘘は言っていないし、騙そうとする悪意も感じられない。だが!
「ヤマミ……」
「ええ。嫌な予感がするわ」
「ああ」
《文明レベルが意図的に抑制されているのを不満に思わぬか!? 上位生命体どもにいいように支配されてなんとも思わないのか!?》
各国の人たちはザワザワどよめいていく。
ロゼアット皇帝もカリスマ性を備えていて、人を惹きつける不思議な力を持っている。だからこそ揺らぎが生じているのだ。
《余は願う!! 人類が進化を続け繁栄を極めて、最高の未来を築く事を! 誇り高き人類が全ての世界を網羅する事を!!》
勇者セロスは心を打たれるかのような演説にも聞こえた。
それこそ理想的な人類の形。
彼だけに限った事ではなく、各国の何人かがその理想に夢と希望を覚えていく。
そして魔神皇帝はギロリとオレを敵意の視線で定めてきた。
ズズズ……、と不気味に灯る赤い紋様が体全体に広がっていく。
《その為に、上位生命体は全て駆除せねばならぬ!! 我々人類の敵をこれ以上のさばらすワケにはいかぬ故ッ!!》
憎悪の威圧を向けられ、かつてない戦慄で怯みそうになる。
明確な敵視……。
間違いなく、存在ごと消しさらんとする強い執念を感じさせた。
《英雄を騙る妖精王ナッセ!! 我々人類と未来の為に消えろ!》
あとがき雑談w
ナッセ「あの皇帝、ヤミザキと同じ『刻印』使っているっぽい?」
ヤマミ「元々は異世界のものだからね」
『支配王紋』
継承する事で肉体を乗り換え、永遠の時を過ごすのも可能だ。
それに他人に『刻印』を刻む事で、エネルギーを一方的に徴収して自らの力にしたり、操り人形にして動かしたりもできる。
人権を踏みにじる外道なチートなのだ。
ナッセ「ってか、それを得る為にヒカリを失ったんだよな?」
ヤマミ「そう遺跡で《主らの大切な者の魂を捧げよ! さすれば秘法を授からん!》って言われてね」
ナッセ「じゃあ皇帝も……?」
次話『魔神皇帝の実力とは……!?』




