174話「騎士にも負けていないぞ! 冒険者チーム!」
ヤマミの小人が黒筋となって城壁を一周する感じで伝播しつつ、刻印を刻み続けていた。
かなりの距離で時間はかかりそうだ。
だが、ヤマミは執念深くやり遂げんと鋭い眼光を煌めかしていた。
魔神兵たちと各国の兵士や騎士たちが競り合っている最中で、冒険者たちも各自でチームを組んで挑んでいた。
彼らは戦況に応じて敵への攻撃や味方の援護に回る遊撃隊だ。
洗練された王国の戦術には及ばないが、泥臭くも生き残ってきた経験で柔軟な戦術を可能にしていた。
大気を切り裂いて飛んでくる弾道ミサイルが、とある遊撃隊へ強襲!
クセ毛がある銀髪ショート、三〇代後半の割に若く中性的な顔、黒くて灰色の縁ラインのロングコート、刻印創により具現化した輪状の斧を両手に持つ男。
「させませんッ! 環斧ッ!!」
輪状の斧である環斧を投げつけて、弾道ミサイルを迎撃して大爆発させる。
「フユミさん!!」
「おお! さすがA級冒険者!!」
「普段はグータラだけど凄腕ッ!!」
「みなさん! 手強いのは私とウォタレンさんが引き受けますから、周囲を頼みましたよ!」
「「「おおおおおおお────ッ!!!!」」」
フユミのカリスマ性か、周囲の冒険者は士気高揚と声を張り上げた。
少々破けたコートを羽織るウォタレンは「さすがだな」と笑む。
二発、三発目の弾道ミサイルを再び環斧で狙い違わず迎撃。
今度は六帝騎士の千閃騎士バレミアット、乱棒騎士マッチが襲いかかる。
それを見据えたウォタレンは聖剣を引いて構えた。
「水勇攻勢 水貫穿!!!」
鋭い突きを放ち、一条の閃光のように放たれた水流が、六帝騎士の二人をまとめて貫く。
他の六帝騎士も問題なく斬り散らして爆散させていった。
以前と違ってストイックに鍛錬をしてきた為、勇者セロス同様に強さを増していた。
「こっちは問題ないぜ」
「さすがです。かつて水の国の勇者だった“水勇の蒼騎士”ウォタレンさん」
「ハッ、俺はそんなご大層な身分じゃねぇ……、今も昔もバカタレンさ」
かつて綺麗なナリで傲慢を振舞っていた彼はもういない。放浪して気ままに冒険者をやっている風な小汚い男がいるのみだ。
昔は「私」と着飾る感じだったが、今は「俺」と無骨な感じに一人称が変わっていた。
しかも目には、傲慢に濁ってた頃と違い、健康的なハイライトが入っている。
「俺に続け────!!」
「おう!!」
「地獄までついていきやすぜ! ウォタレンさん!!」
「こっちには勇者さまがついてんだー!!」
「やっちまえ──ッ!!」
仲間の冒険者と一緒に魔神兵を蹴散らしていく。
かつてのウォタレンではできなかった無骨な協調による共闘が実現されていた。
「ツクナさん! ムンサさん! またレヴ・フカーズを頼みます!」
「はい!」
「任して!」
フユミに頼まれ、女魔道士ツクナと女僧侶ムンサが杖を振るって、仲間全員に付加魔法をかけていく。
煌びやかに光飛礫が舞い、暖かい光が冒険者たちに浸透していった。
「……霊属性である光魔法の付加魔法。それでなら副次効果で物理に対する耐性を得るんだったな」
「ああ、初めて聞いたぜ」
「でもよ、おかげで銃弾があんま痛くねぇ」
「元々は対ゴーストだったんだがな……」
本来は物理が効かない精神生命体へダメージを与える為に付加するのだが、実は物理に対する耐性も得られるようだ。
魔神デウス勢力はオーラやエーテルはおろか、魔法などを全く使わない。
完全に物理依存の殺戮兵器のみ。
だからこそ、この付加魔法がうってつけである。
「連射する武器なんてオモチャだー!!」
「鉄クズ! 魔法を侮るなよ!」
「魔神なんて怖くねぇ!!」
機関銃で斉射されても、ズンズン押し寄せる冒険者。
さしもの魔神兵もおののく。
「役に立たぬ雑兵はどけ! 超貫通銃で散れいッ!!」
魔神兵は頑強で大きな銃を構え、発砲音を響かせて大口径から弾丸が音速で飛び出す。
それは例えオーラで包んでいても、厚い鎧さえ貫き風穴を開けるほどの威力。
反動と銃声が難だが、障害物や防弾系を貫けるのが強み。
「そんなん効くかー!!」
戦士たちが身を張って胸板にドンと強い衝撃を受け、少し仰け反る。しかし平然と立っていた。
笑んで「いってぇけどな……」と汗を垂らす。
魔神兵は「バカな!?」とうろたえる。
「失敗しましたね! 物理オンリーの武器ではもはや通用しませんよ!」
フユミが魔神兵たちに毅然と言い放つ。
仲間の冒険者は「そうだそうだ!」と同調して、士気を上げていく。
「フユミさんはこの『魔輪の翼』チームを纏める隊長やってっけど、水の国に戻りゃ『蒼の六柱騎士』になれんじゃねぇか?」
「俺も思う。でもよ頑なな戻ろうとしないんだ」
「騎士試験で落ちまくったトラウマらしいけどな……」
そう言われてるとも知らず、フユミは環斧を次々投げて戦車や戦闘機を撃墜している。
ウォタレンも聖剣を振るって魔神兵を一掃していく。
冒険者の得物が唸り、矢が怒涛と降り注ぎ、魔法弾が飛び交う。
ドガガガッ!! ドガアァッ!! バガァァンッ!! ズガガガッ!!
この遊撃隊に限らず、各国でも霊属性による付加魔法が有効だと連絡で伝わり、実践し始めていく。
最初は多くの死傷者を出していたが、これのおかげで減っていた。
「撃てー!!」
騎士の号令で、弓兵たちが一斉に上空へ矢を放つ。
その上昇する矢がカクッと急下降する『軌道弾』で魔神兵たちを駆逐していく。
威力の高い戦車の砲撃も弾道ミサイルも、しっかり連携を取った厚い障壁で防ぎきれた。
レベルの低い冒険者や兵士でも互角以上に戦えるようになってきている。
「押せー!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」
じわりじわり魔神兵の勢力を押し始めていった。
魔神デウスは強い焦りを胸中に満たしていた。
心臓と人体があるなら、ドクンドクンと高鳴って強い不安で冷や汗を噴きまくっていたに違いない。
《馬鹿な! な、なんでだ……!? 殺戮兵器が何故通用しないッ……!?》
「いやぁ~~~~、ちょっと早すぎましたかねぇ~~~~?」
魔神塔の頂上でふんぞり返っているトビーは薄ら笑みを浮かべていた。
魔神デウスがギッと見下ろす。
《何が言いたいのだッ!?》
「急にあなたサマを復活させたせいでね~~、魔神デウスが得意とする緩慢的な怠惰を人類にもたらすっつーのが、できてないんだよねぇ~~?」
《ぬうッ!? ど、どういう事だッ!?》
「魔神デウスって、人類に文明進化を促して便利な社会に作り上げると同時に、意欲や活力を徐々に奪っていって虚無に陥らせるんでしょ? それも何百年も時間をかけてさ~~~~?」
魔神デウスはハッとした。
これまで猛威を振るえていたのは、裏から徐々に文明レベルを上げる事で機械文明に依存させていって意欲や活力を奪っていたからだ。
恵まれた環境に入り浸る人類は、単体では非力。
末期に至ると、心身共に弱り果てて生きる活力を自ら放棄する。何でもない理由で自決するほどに……。
《き、きさま~~!!》
「魔神デウスも悪いんじゃないですかね~~? 気分が舞い上がってて各国にケンカ売って焚きつけたじゃないですかぁ~~?」
《ぐうッ……!》
魔神デウスはプルプル悔しそうに震える。
《貴様ら許さんッ!! 許さんぞォ~~~~ッ!! 本気で貴様らの希望を摘み取ってやるわァッ!!》
上空の黒い輪が二重になり、中心から三方のトゲが伸び、より禍々しく形状を変化させてきた!
より濃密度な瘴気が吹き荒れてきて、オレにも重くのしかかる!
絶望を催す黒く濁った瘴気だ!
《これが最終形態『虚無・終・魔絶』!! 無力に打ちひしがれろッ!!》
「ぐっ! なんの──ッ!」
しかしオレも浄化の鈴による波紋の力を強めたぞ!
二つの重々しい波動が上空で競り合い、一進一退と拮抗を保つ!
《バカな……!? まだ本気じゃなかったのかッ!?》
「いや、これまでも本気だったさ! だがな、おまえの瘴気はみんなの希望や可能性を奪う! だから意地でも通させねーぞッ!!」
《なに……!?》
魔神デウスの目には、ナッセの後ろで『運命の鍵』ことヒカリが浮かび上がって見えた。
絶望の世界から引き上げてこれた希望のヒカリ。
ナッセにヒカリが力を貸しているようにしか見えない。
魔神デウスは見開いて《これが……『鍵祈手』ッ……!?》と脅威を覚えていく。
「オレは虚無なネガティブな元の世界を知ってるんだからなッ! そんな世界にさせてたまるかーって踏ん張れんだよッ!!」
浄化の鈴を振り、音色と共に波紋を放射し続ける!
ちょっとムリして汗をかきつつも、人類の希望を失わせない為にオレは限界まで戦う!!
憧れの師匠クッキーがそうだったらしいから……!
「頼むぞッ!! みんなーッ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお────ッ!!!」」」
下のライトミア王国兵士と騎士たちが士気を昂ぶらせて咆哮する!
それが気に入らない魔神デウスは醜悪な形相に歪んでギギギギギ唸り上げていく。
思い通りにいかない事への苛立ち、逆らってくる愚かな生物への憤慨、蹂躙するというカタルシスを味わえない事への激怒で、胸中は煮え滾っていた。
《ワシは絶対に負けない! いずれにせよ勝つ! 時間の問題のはずだ……!》
どうせヤツらでは“永久不滅”をどうにかする事は不可能。
最後に笑うのが自分だと、信じて疑わない魔神デウスは怒りを溜め込むだけで踏ん張った。
《だからよぉ……テメェは無能なんだよ……! 魔神デウスッ!》
どこからかドス黒く濁った悪意の声が響いた……。
あとがき雑談w
フユミ・ミナーナはアメヤの父。
腐敗王政時代の騎士試験に何度も落ちたから、どっかへ放浪していった。
実力は水の国の中でもトップクラス。
タナッチ「夫は今何をやってるのかしらね……」
アメヤ「父さんは放浪してるってたけど、元気でいるのかしら?」
タナッチ「それはそうと帰ってきて欲しいわ」
フユミ「まさか妻と娘も大会に参加してるなんて……」
カンカンに怒られるのが怖くて、帰るのを渋ってるようだぞ。
次話『残りは風と地と火の国か……』




